第101話
翌日の朝、司は協会入り口前に居た。体調は万全で本日から完全復帰である。
異世界運用における華と言っても過言では無いラスボス役が、丸一日会議に出席できなかったのだ。参加できなかった分を取り返す勢いで頑張ろうと司は張り切っていた。
「司くん!」
「ん……? あ、先輩! おはようございます!」
司の姿を見かけたのかユエルが嬉しそうに彼の側まで小走りで駆け寄る。
「おはようございます! 今日から復帰ですね」
「はい。昨日は先輩一人に任せちゃって、本当にすみません」
「そんな事気にしなくて良いですよ! 今日からまた頑張りましょうね」
「はい!」
「ふふ……あ、そう言えば昨日の夜、マキナちゃんと通話してたんですけど、その時マキナちゃんがですね……」
司とユエルは軽い雑談をしながら協会の中に入り会議室を目指して歩く。そんな時、見慣れた後ろ姿が視界に入り、ユエルは司に確認を取った。
「もう本当に面白くて……あ。あの人カムリィさんじゃないですか?」
「本当だ。同じく会議室に向かってる最中なんでしょうかね」
「多分そうかと。……カムリィさん!」
朝の挨拶をしようと思ったのかユエルがカムリィの背中に向かって話し掛ける。名前を呼ばれた事でカムリィは振り返り、二人の姿を視界に入れた。
「おー。司にユエル。おはようさん。朝から元気そうだな」
「おはようございます。カムリィさんは……何と言うか眠そうですね」
ユエルの言う通りカムリィは睡眠をあまり取っていないのか、疲労が抜けきっていないように見える。眠そうな目に気怠げな感じは、やる気に満ち溢れている司とは真逆だ。
「ああ。あんま寝てないんだよ……ふわぁ~あ……ああ、ねみぃ……会議まで時間あるしコーヒーでも買ってくるか。……あ。やっべ、コハクの事起こすの忘れてた……」
最後の発言はボソッと小さな声で言ったつもりだったが司とユエルには聞こえていたようで、二人ともどういう事かとお互いの顔を見合わせる。
その反応を見たカムリィはバツが悪そうな顔で言うべきか否か数秒悩んだ後に、意を決して昨夜の出来事を二人に伝えた。
「あー今の聞こえたか。実はな、昨日俺とコハク会長はとある事情で協会に泊まったんだが、そん時にもし早く目覚めたら起こして欲しいって言われたんだ。どうやら朝起きるのが苦手なようでな。慣れない場所でなかなか寝付けないかも知れないから、もしかしたら起きれないかもだと。ノックさえしてくれたら良いから、中には入って来ないでって恥ずかしそうに言ってたよ」
その時のコハクの気持ちと表情が難なく想像できたユエルは、微笑ましい気持ちになり思わず口角が上がってしまった。
「 (多分なかなか寝付けないかもって言うのは、慣れない場所だからじゃなくてカムリィさんと同じ屋根の下で寝る事になるからだと思うけど。コハクさん、かーわいい……) 」
「それでコハク会長は無事起きれたんですか?」
「いや、それが分かんねぇんだ。俺は起きた後にすぐに身支度を整えて軽く朝飯食ってから今に至るからよ。しゃーねぇ……起こしに行くか」
そう言って欠伸をしたカムリィは本当に眠そうだ。
「あの! もし良かったら私たちが起こしに行きましょうか?」
「良いのか?」
突然の提案にカムリィは目を丸くした。
「はい! カムリィさん、お疲れのようですし、会議までの間は少しでもゆっくりして頂けると!」
「サンキュ。優しいな、ユエルは。んじゃあ甘えさせてもらうわ。任せたぜ」
ユエルにお礼を言ったカムリィは、そのまま欠伸をしながら去って行った。




