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第100話

「 (あ。空気ちょっと重くなっちゃった。話題変えないと) 」


 コハクはエマの両親の話をした事を少し後悔しつつ、話題を人工異世界に戻した。


「それにしても人工異世界の調査なんて無駄な事するわよね。私たちが作った異世界は、自然に存在している普通の世界とは環境が違い過ぎる。あくまでも参考元のモデルNに似せているだけだからね。確かに人工なだけあって他の異世界には無い特徴があるかも知れないけれど、界庭羅船が求めているような情報は無いんじゃないかしら」


「そりゃそうだろうな。人工異世界をいくら調べたって、モデルNに関する何かを知れるとは到底思えな……ん? 環境が違う……他の異世界には無い特徴……」


 ここでカムリィは今の話題とは関係無いが、コハクから出されている他の謎の答えに辿り着く為に必要な道の一つを提示されたような気がして思わず固まってしまった。


「カムリィ? どうかした?」


 急に様子が変わったカムリィに気付いたコハクは彼の顔を見ながら呼び掛ける。


「……。コハク!」


「は、はい!」


 急に両肩に手を置かれたコハクは動揺と驚きで思わず敬語で応対してしまう。


「協会のマスターキー貸してくれ!」


 転生協会はもう鍵が閉まってしまい、シフトや異世界運用のスケジュール的に夜も活動する人たちを除けば中に入れない状況になっているが、コハクは万が一の時に備えてマスターキーを所持している。マスターキーさえあれば協会の入り口だけでなく、あらゆる部屋の入り口を開錠可能なのだ。


 だがいくら相手がカムリィと言えど理由も聞かずに渡せるはずもなく、コハクは当たり前の反応を示した。


「え? 何でよ」


「調べたい事ができたんだ。朝と昼は今回の異世界創生会議で忙しいし、夕方から夜にかけては別の仕事があるし、自由に動ける時間は夜以降しかないんだ!」


「ダメに決まってるでしょ。夜はゆっくり休んで。明日以降の活動に支障が出たらどうするのよ」


「あんたの出した謎の答えを解きたいんだ! これは協会の仕事とか一切関係無い俺個人の事だ。情報収集として協会を利用したいだけだ……頼む、認めてくれ!」


 手をコハクの肩から放し、パンと合わせて懇願する。ここまでお願いされては正直断り辛いだろう。彼をここまで熱くさせたのは謎を出した自分にも非があるとコハクは思い、溜め息を一つ吐く。


「はぁ。今日だけよ。ちなみに私も一緒に行くから。無いとは思うけれど、私の部屋とか立ち入りを認めない場所に入らないよう監視役としてね。悪く思わないでちょうだい」


「……! サンキュー! さすがコハク会長様。話が分かるぜ」


 駄々をこねた結果おもちゃを買ってもらえることになった子どものように、無邪気に喜ぶカムリィは相当嬉しかったようだ。彼の中では本当にただの謎解き感覚であり、仕事にはジャンル分けされていないのだろう。


「ただし、そう何度も夜中に転生協会内を徘徊するのは認めないから。今日で決着を付けてよね。それと勘違いしているかも知れないけれど、私以外であれば誰に協力を仰いでも良いんだからね?」


「……? あ、ああ。分かった」


「協会内には大浴場も仮眠室もあるから、一応着替えと夜ご飯も持っていきましょう。それじゃあ二十二時、協会前に集合ね」


「りょーかい!」


 二人はこうしてお互い一旦自宅へと戻り、一日分の着替えと軽食を用意して転生協会へと向かった。


 口ではカムリィの希望を仕方なく認めた様子のコハクだったが、内心ワクワクしていた。協会の仕事とは無関係であるにも拘らず、カムリィと一緒に転生協会内で一晩時間を共にするのだ。そう考えただけで心臓の高鳴りが止まらなかった。遊びではないと分かってはいても、それだけで自分の心は誤魔化せない。


 ちなみにだがその日の夜に活動をする者は誰なのかといった事に関しては、毎日一人一人管理されている。異世界創生班や探偵署、人事部とは別にそういった事を管理する部門が存在しているのだ。


 急な仕事が入った人や、今回のカムリィのように管理部門が把握していないであろう人が残る場合に関しては、基本協会を出る前であれば直前の連絡でも問題は無い。協会を出てしまった時は潔く諦めるしかないのだが、どうしても外せない緊急時であれば直にコハクに相談し、許可が下りた場合に限り彼女がマスターキーで鍵を開ける事で動ける流れだ。


 だが協会の会長様にそんな事を直に言える強心臓の者はカムリィを除いてまず存在しない。大体の者は諦めるかコハクに相談をするかの二択を迫られた時に前者を選ぶ為、あって無いようなルールとなっていた。


 やがて協会前で待ち合わせた二人はコハクが所持しているマスターキーを使用して中へと入る。そしてカムリィは自身の目的の達成の為に、コハクはカムリィの行動が許される範囲かどうかの監視の為に、各々の時間を過ごしていった。

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