第1話
死んだ者に第二の人生として異世界ライフを提供する事を生業としている機関——―『転生協会』。
メルトリアの中心に巨城のように聳え立つそれは、アルカナ・ヘヴン内でも五大機関に匹敵する規模の機関であり、多くの者が憧れる場だ。
根強い理念の下で今日まで発展と貢献をし続けてきたこの機関は、元リバーシ候補生の天賀谷司がやって来た事で体制変更の動きを見せる事になった。
そのキッカケとも言える一件が彼の妹である天賀谷蒼の異世界運用だ。転生協会上層部を動かした伝説の異世界運用から四ヶ月の時が流れており、その頃には一つの大きな変更点が既に存在していた。
ダブル主人公とダブルラスボスの運用である。
本来一つの物語において主人公とラスボスは一人ずつが定番ではあるが、稀にその数が複数名になる場合がある。
その中で最もポピュラーなのがダブル主人公だろう。二人の主人公から物語は展開され、異なる敵と戦い、時には共闘する。
そんな二人の主人公が最後には協力して共通のラスボスを一人倒す展開もあるが、それぞれの主人公が異なるラスボスと決着をつける展開もある。
だが転生協会が今回の体制変更で行ったのはそのどちらでも無い。
これまでは主人公一人に対して一人のラスボスを担当させる運用をしてきたが、二人の主人公に対して二人のラスボスを対峙させる展開を彼らは想定運用として決定した。
即ち、二人の主人公が手を組み、同じくタッグを組んだ二人のラスボスに挑む訳だ。
蒼の異世界運用において司とユエルは協力して蓮と戦った。その時の記録を見た上層部の人間がダブルラスボスの可能性に気付き、今回の決定に至ったのである。
ダブルラスボスの運用が決定した次の日には転生協会内にその旨の連絡と、全ラスボス役に向けて一つのアンケートが取られた。
その内容は、『ダブルラスボスとなる異世界運用を担当したいか否か』である。この質問にイエスと回答した場合は従来通りのソロの異世界運用の他に、ラスボス役を二名にする異世界運用時にも担当ラスボスの一人として声がかかるようになる。
当然ながらソロだけでやりたい人も居る為、このようなアンケートが実施されたのだ。
このアンケートは定期的に実施されるらしく、やっぱりやりたくなった人や、実際に経験してみて自分には合わないから辞めたい人はその時に意思表示を行えば良い。
本来この運用では漫才のコンビ仲間のように特定の誰かと組んだ後はずっとその人と続けていく訳ではなく、毎回任意の誰かと任意の誰かがランダムで選定される方法が取られていた。
運が悪ければ会った事も話した事も無いラスボス同士で異世界をまわす事になるのだが、無事終わった頃には絆が芽生えている事が多い。
このようにラスボス役同士の交流の機会をもっと増やし、協会全体を盛り上げていきたいという計らいも実はあったりするのだ。そういう意味では大成功を収めていると言えるだろう。
だがそんな上層部の決定に逆らい、毎回特定のペアで異世界運用を行う事を強く志願した男女の二人組が居た。
男性の名前はムイ、そして女性の名前はロアである。
普通そんな我儘は通用しないのだが、協会上層部はとある理由により特例で認める事としたのだ。
その二人は脳と体をお互いに共有しているのではと疑いたくなるレベルで以心伝心しており、阿吽の呼吸で戦闘も演技も完璧にこなすのである。そんな姿を見せつけられては一組くらい許してやろうという気持ちが働いてもおかしくはない。
やがてダブルラスボスの方面で他を寄せ付けない圧倒的な活躍を見せた彼らは、來冥力解放時にお互いの左手と右手が手錠で繋がれている姿からこう呼ばれるようになった。
手錠双璧『ムイ&ロア』と。