第6話
「見ました、見ました? お兄様」
「見たよ。我が妹よ」
林高校・眼鏡愛好会 会長 鼻宛レンズは妹の問いに嬉々として答えた。
双子の妹の副会長のテンの顔も喜色満面だ。
「やはり! 眼鏡を愛する者には恋愛の神も微笑むようだ。何より僕は恋愛小説愛好会の会長も兼ねていて」
「もちろん、その会の副会長は私ですのです!」
「テン。初耳だぞ」
「あ~らお兄様の行くところに私の道があるだけですわ」
仲の良い双子はさておき。
先程まりを下駄箱の陰から見つめていたのは言わずともこの双子。
相も変わらず林高校の眼鏡っ子観察に励んでいたのだ。
ちなみに言うと、テンのiPadには林高校の眼鏡っ子全員のデータと観察日誌のデータがあるのだとか……。
おそろしや……。
そろそろ話を戻してみましょうか。
「お兄様。先程まりさんとお話していた男子生徒」
「ああ。奥井龍一という生徒だな。テン、知っていたか?」
「いいえ、お兄様。あのような眼鏡っ子が私のデータに無いはずがないですわ。つまり」
テンの眼鏡がキラリと光り、レンズの眼鏡も光った。
「新キャラだ! すぐにデータ収集しなくては!」
双子は良きぴったり頷きあうと、それぞれ違う方向に向くと高速で歩き出した。
廊下は走ってはいけないから、ですね。
そして授業が今日も平和に始まり、お昼休み。
眼鏡愛好会の部室。
部室は何故だかちゃんと一室あったのはこの林高校の七不思議だがそれを語るのはまたにして。
まるで社長室の様な椅子と机があり、椅子にはもちろん会長のレンズがふんぞり返っていた。
「さあ、諸君。情報収集の公開の場だ。勇んで言ってく、ぐうへっ!」
「偉そうに何を言ってるのですかっ! まったく!」
「あ、あの副会長、会長が白目を剝いてるのですが……?」
「大丈夫よ。愛好会部員Aさん。兄は頑丈ですよ」
「はあ」
愛好会部員Aなる女生徒は生返事を打つ。
よくもあの双子に付き従う部員が居るとは七不思議が増えたかもしれないがそれもさておき。
「さあ、Aさん。奥井龍一の情報をお願いしますわ」
「は、はい!」
部員Aはメモ帳をぱらりと捲る。
「わたしの集めた情報ですと。奥井龍一は入学式より遅れて転校してきた生徒みたいでして。えーと、在籍クラスは不明。よく頭痛持ちで保健室に入り浸る常連生徒。以上」
うんうんと頷いていたテンはそこでズルっとずっこけた。
「以上⁉ 以上ですって⁉ ま、待ちなさい。半日で集めた情報がそれが限界ですの!」
「すみません副会長。これが限界でして」
「しかも。なんです、在籍クラスが不明って……」
「そこが不思議でして」
部員Aは首を捻っている。
「ふふふ……」
すると闇の底から響くような笑い声がする。
「わあ、会長!」
「あらお兄様お早いお目覚めで」
「ミステリーを感じる生徒じゃあないか! 腹の底から震える気分だよ!」
「どういう例えですの」
「まあ、テンよ。あの奥井龍一」
そこでレンズは言葉をあえて切って、こちらを見る。
「そう。この物語の読み手諸君。あの奥井龍一、要注意人物だぞ。要チェックだ!」
ふははは……と部室にレンズの高笑いが響くと共に、昼休みの終了のチャイムが鳴ったのだった。
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