第4話
チャイムの音が遠くから聞こえる。
まりはぼんやりと目を開けた。
顔が熱い。
喉も痛い気がする。
「華井さん起きた?」
保健室の教師・横川の声がしてまりは覚醒した。
起き上がると、伊達眼鏡が枕元に置いてある。
バッとまりは伊達眼鏡を装着する。
そして青くなって震えた声で横川に尋ねた。
「先生、寝ている間眼鏡外しました?」
カーテンを開けた横川は不思議そうにまりを見る。
「いいえ。元々外して寝てたわよ?」
嘘だ。
まりは学校では絶対にこの伊達眼鏡を人前では取らないと決めている。
誰かが取ったのだ。
なんとも要らないお節介を焼いてくれたのだ。
ぎゅっと手に力を入れる。
「華井さん、だいぶ寝てたのに顔が赤いわね。熱計りましょうか」
まりはサッと視線を隣のベッドに走らせる。
だが、そこはもぬけの殻。
奥井龍一は居なかった。
体温計を持ってきた横川に礼を言い、まりは熱を計る。
ぴぴぴ。と音が鳴った。
ばっちり熱はあった。
まりは早退することになったのだった。
生憎、まりの両親は共働き。
迎えには来てくれないので、ふらふらと教室に戻ると鞄に教科書を詰め込んでまたふらふらと後にした。
まりは電車通学とバスを使って登下校していた。
駅までの道が遠く感じる。
改札口を抜けるとホームのベンチに崩れるように座る。
ああ、辛いな。
まりは電車が来るまで顔すら上げれなかった。
そんな時。
視線を感じて、まりはのろりと顔を上げた。
反対ホームに奥井龍一が立っていた。
は? とまりは思う。
だってまだ授業は全て終わっていないのに。
瓶底眼鏡が光に反射して影を作っていて、奥井龍一の表情は窺えない。
そこへまりの乗る電車がホームにやってきた。
まりは足を引きずるように乗り込んでどうにか空いてる席に座り込む。
これでしばらく安泰だ。
さっき奥井君を見た気がするけれど、きっと幻だ。
まりの降車する駅は五駅先だ。
瞼が重い。
寝たら、降り損ねてしまう。
だが、調子が悪い時の睡魔は手強く。
「すぅ……」
まりは寝てしまった。
電車が発車した。
そんなまりの隣の席に同じ高校の生徒が座った。
奥井龍一だった。
無言で奥井龍一はまりを見つめている。
瓶底眼鏡の奥は相変わらず窺えない。
そのまま電車は走る。
まりが降りる駅が近づく。
奥井龍一は読んでいた本を閉じると、そっとその手をまりの額に伸ばす。
ひんやりとした感覚にまりはうっとりとした。
ああ、冷たくて気持ちいもっと寝てたい……。
ん、寝てたい?
「ああ!」
がくんとまりの体が揺れる。
まりの降りる駅で電車が止まっていた。
「お、降ります!」
思わずまりはそう叫んで鞄を掴み慌てて列車の外に出る。
ぷしゅう~。
後ろでドアが閉まる音がする。
「あ、危なかった……」
胸を撫でおろしてまりはホッと息をつく。
だが、関門はもう一つあった。
「今度は寝ないようにしなきゃ」
そう呟くと駅のバスターミナルへと向かったのだった。
走る電車の中で奥井龍一は外を眺めていた。
彼の口元には笑みが湛えられていた。
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