第3話
「すいませーん」
現在、華井まりは保健室に居た。
何だか本当に熱っぽさを感じた為だ。
保健室なんか入学して初めて利用する。
「先生ー? 先生居ませんか?」
扉を開けて声をかけたが、どうやら保健室の先生は留守みたいだ。
「横川先生なら、今風邪の子を親御さんに引き渡しに行ってるよ」
後ろから声がしてまりは飛び上がった。
そして振り返る。
そこに立っていたのは……。
今時こんな眼鏡を掛けている人がいるかという瓶底眼鏡の男子生徒だった。
「あ、ありがとう、ございます」
「いえ。どういたしまして」
そう素っ気なく言うと男子生徒はまりの横をスッと通り、体調が悪い生徒が使うベッドへと向かう。
「ガチの眼鏡……」
思わずまりは呟いた。
この時代に、あの眼鏡は珍しい。
男子生徒はスリッパを脱ぐと、ベッドにゴロンと横になっていた。
「あ、あの~」
「……なに?」
「勝手にベッド使っていいの?」
もっともな疑問を男子生徒に尋ねる。
「ああ……。僕も頭痛持ちだからよく寝させてもらってるんだ。常連だからいいんだ」
「はあ」
保健室に慣れているとは思ったがそういう理由か。
「きみも寝たら。顔色悪いよ」
「なら……」
まりはふらふらとベッドに近付き、ブレザーの上着を脱ぐ。
ふと隣のベッドの下にある男子生徒のスリッパが目に入る。
学年で色が違うスリッパにはでかでかと「奥井龍一」と名前が書かれている。
まりの学年のスリッパは青色。
男子生徒も青色だった。
同学年という事か。
ただ、同じ学年と言ってもこの林高校は今時の少子化には珍しい超が付くほどのマンモス校。
同学年の生徒でも三百五十人は居るだろう。
なにせ一クラス三十五人の十クラスはあるのだから。
認識していない同学年の生徒が居てもおかしくない。
「奥井……君」
「ん、なに?」
名前を呼んでみたのは一体どういう理由だったのか。
思い返しても衝動的な行動だったと後にまりは首を傾げる。
何故だか、まりの心臓はバクバクしていた。
本当に熱があるのかもしれない。
「え、えっとありがとう」
「よく分かんないけど。どういたしまして」
そう言うと、奥井龍一は寝る向きを変えて向こう側を向いてしまった。
まりは仕切りのカーテンを閉める。
静かに保健室のベッドに横になる。
天上がぐるぐると回っている感じがして、まりは目を閉じた。
もちろん伊達眼鏡は外さないままだ。
そして意外にもすぐに眠りに落ちたのだった。
「…………寝たか」
奥井龍一は寝息が仕切りのカーテンの向こう側から聞こえると呟いた。
そして自分も眠りに落ちていくのを眼鏡を外さないままの状態で感じていた。
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