第18話
その後。
まりは三度地団駄を踏む羽目になった。
一度目はお昼休み。
ぼっちのまりは当然一緒に食べる友達が居る訳もないので、いつもの指定席の人気が無い日陰の中庭にある一個しかないベンチに行けば……。
奥井龍一がでんと寝転がってガチ寝をしていた。
起こすのも悪いとお弁当を持ってあちこち彷徨ったものの、ちょうど良い食べる場所が見つからず、結局昼休みが終わりタイムアウト。
何だか悔しくて地団駄。
二度目は五時限目の移動教室の時。
偶然なのか廊下でばったりと行き合ったまりと奥井龍一。
どきりとしたまりは弾みでペンケースを落としてしまった。
最悪なことにペンケースの口が閉まっておらず、落とした拍子に盛大に中身をぶちまけてしまった。
慌てて拾い集めるまりの手と奥井龍一の手がちょうど重なる。
これってドラマみたい、と胸が高鳴ったまりだが。
「…………」
サッと手を引っ込めた奥井龍一が黙ってそのまま去って行ってしまった。
まりのシャープペンシルを持ったまま。
固まるまり。
訳が分からず唖然として見れば、廊下の曲がり角にまりのシャープペンシルを弄ぶその姿が消えていく。
何だか綽然とせず地団駄二回目。
三度目は下校時。
あれから奥井龍一とは遭遇せず、いよいよこれから公園に向かって告白なんだと息巻いていたそんな心境の時。
下駄箱の自分の靴を出そうと扉を開くと。
「あれ?」
何かが入っていた。
「あ、あー!」
思わずまりは声を上げた。
入っていたのは本だった。
あの休み時間にまり名義で貸し出しとなった男女の心理学の本。
奥井龍一はもう読破したらしい。
が、
「あ、付箋が貼ってある。……『返しといてくれ』って私が⁉ いや借りたのは私になっているけれど!」
これかいざ告白という時に肝心のその主の相手からの頼まれごと。
断れない上に、何だか胸がもやもやしてまりは仕方なく図書館に向かう。
返却カウンターの司書の先生に本を渡していざ! とまりが向きを変えかけたが。
パラパラと本の中身を確認してた司書の先生に呼び止められた。
「華井さん」
「はい」
「困るよ、図書館の本にマーカーで線引いちゃ」
「は?」
まりが困惑していると司書の先生は本を開いてこちらに見せた。
よく見なくても文章の所々に蛍光マーカーペンで線が、堂々引かれていた。
しかも何箇所も。
「えっと、それ私じゃあなくて……」
「言い訳無用。補償ね」
「え、そ、そんな」
慌てるまりに司書の先生はにこりと笑って言う。
この先生を怒らせるとかなり怖いと言ったのは……誰か言っていた気がする。
現に先生の眼鏡の奥は笑っていない。微塵も。
まりは肩を落とした。
そして心の中で盛大に地団駄を踏んだのだった。
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