第17話
その日、まりの頭の中は意外と浮かれずに冷静でいれた。
国語の教師の誤字を指摘したし、英語の授業ではクラスメイトの黒板に書かれた問題の答えのスペルミスさえ発見出来た。
つまり冴えていたのである。
まりは休み時間、図書室で心理学の書籍があるコーナーに居た。
今日、まりは人生初めての告白をする。
の筈なのにまり自身あまりにも冷静で居れる自分が何だか怖くなってきたのだ。
何かが欠けてるのではないか、と自分を疑いはじめてさえいた。
心理学の本を漁るように目を通すが、告白に関する具体的な例が載っているピンポイントでタイムリーな本が見つかるわけがなかった。
まりが溜め息を付いた時、本棚の片隅に男女の心理の描写の本を見つけ思わず手を伸ばした。
誰かの手が重なった。
「ぎゃっ!」
幸い、その声は図書館中には響かなかった。
「……何て声出してんだか」
「奥井君!」
まりの頭は一瞬でパニックになった。
だってだって、今日一世一代の告白をしようとする相手が目の前にいるのだ。
考えすぎて幻惑を見ているのかと思ったくらいだ。
だが、
「華井が本好きなのは知っていたが、どういう偶然だろうな」
奥井龍一は顔はクールなのに、口調は面白そうに言った。
「な、な、な」
私は馬鹿みたいに同じ言葉しか言えていない。
いざ告白したい人物を前にしたらこうだ。
朝からの冷静さは一体何処へいったのだ!
頭が沸騰しそうになってくるまりの様子を奥井龍一は無表情で見つめている。
だがその表情も指摘する人が居たのならこう言っていただろう。
現に本棚の影で見ていた鼻宛レンズは「あれはかなり彼にしては笑っている部類だったよ」と後に言っている。
そしてまりの頭の混乱が頂点に達しそうな時。
「……まあ、この本は俺が借りてくな」
「あ、ちょ、まっ!」
「放課後待ってるな」
奥井龍一は振り返って本をひらひらと振って図書室を出ていってしまった。
後には訳が分からないまりがポツンと残されていた。
「何なのよ~!」
まりはへなへなと書架に寄り掛かって溜め息を付いた。
胸のドキドキは頬の火照りへと変わっていく。
「奥井くんのああいう所も、好きだけれど……ああもうわっけわかんないのよ!」
地団駄を踏むまりに、
「あの~」
申し訳なさそうに声をかけた人物が居た。
「図書係ですが……」
「?」
「今の男子生徒が貸し出しカードは『華井まりでよろしく』と仰っていたので記名をお願いします」
沸々とまりの腹底で何かが沸き起こる。
「ああ! もう! やっぱり何なのよー!」
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