第16話
朝。
いつも通り五時半に目が覚めた。
携帯のアラームが鳴る前に解除するのも、いつも通り。
俺は敷いた布団を畳んで、ジャージに着替える。
階下に下りて、冷蔵庫からヤクルトを取り出す。
飲んでから、リビングで軽くストレッチ。
そして日課の走り込みに出掛ける。
河原の土手をそれなりの速さで走る。
風が気持ち良かった。
眼鏡に、陽の光が反射しているのが分かる。
そして考えは昨日のことに及ぶ。
昨日は濃い一日だった。
そして今日、多分俺は、
「……華井に想いを告げられる」
走りながら呟いていた。
誰だって、いや、分かる人には分かるだろう。
あんな真剣な目をして、何か決心した表情をして。
華井まりは一生懸命だった。
だから、また放課後に公園で会おうと約束をした。
そこで瓶底眼鏡の奥の瞳を、俺は細めた。
少し、走るペースを落とす。
いつもすれ違う、同じく走る若い夫婦と一言の挨拶を交わす。
すれ違った後、何となく振り返った。
いつも楽しそうに会話しながら走っている夫婦だ。
前を向いた俺は、ふと思った。
華井まりは、走るの好きかな、と。
アイツの事は、趣味など詳しいことは知らない。
けれど本質は、掴めている。
小さいころ見た、華井まり。
そして、今の華井まり。
知りたいな。
何故だか、本気で思った。
だから、俺の返事は生徒会長に告げた通りとっくに決まっている。
生半可な思いじゃない。
ずっと、俺だって決めてた事だ。
家に帰ると、ポストに新聞と郵便物が入っていた。
一つの封筒に目が留まる。
奥井龍一の名前が、綺麗な文字で書かれていた。
とうとう来たか……。
今日、特別な一日が始まる。
俺は、瓶底眼鏡にそっと触れた。
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