第14話
「俺、ウルトラマンに憧れてるんだわ」
ブランコを漕ぐのを止め、奥井龍一が唐突に喋りだした。
「ウルトラマンに?」
その時まりには、奥井龍一の眼鏡の奥の瞳が輝いているように見えた。
「昔のウルトラマンでさ、こう、眼鏡を装着して変身する奴居ただろう? 小さい頃一生懸命ごっこ遊びでそれしてたんだわ。そのうち、本当に自分がウルトラマンになれる気がして。地球を救って、みんなのヒーローになって。そして」
そこで奥井龍一は言葉を切った。
「誰か、何処かに居る俺だけのヒロインのヒーローになりたくて……」
どきん、まりの胸が何故だか大きく弾んだ。
そして思う。
もし、もし。そのヒロインが私なら……、奥井君は振り向いてくれるの……?
私がピンチな時に現れて助けてくれるヒーローになってくれるの…………?
二人の間にまた、沈黙が落ちる。
まりは下を向いて顔を上げた。
意を決して立ち上がった。
が、
「なーんてな」
奥井龍一がまりを見る。
「いつまでも夢を見てちゃいけないよな。現実を見なきゃ」
瓶底眼鏡の奥はまた、見えなくなった。
「ドラマじゃ、ないんだから……」
その呟きはまりには聞こえなかった。
まりはまりで必死に考えていた。
「……いいんじゃないかな」
「え?」
それはそれは小さなまりの声だった。
「いいんじゃないかな。夢だって少しは見なきゃ、生きてけないよ。奥井君の夢、私は素敵だと思う。だってさっきの奥井君の目輝いて見えたもん。綺麗な、輝いた目だったもん……」
そう言うと、奥井龍一の側に行く。
瓶底眼鏡の奥は驚きに見開かれている。
まりはにっこりと微笑んだ。
「うん、やっぱり奥井君の瞳は綺麗」
数秒間経った。
奥井龍一はまだ何も言わず固まっている。
さすがにまりは心配になって声をかける。
「奥井君?」
ハッと奥井龍一がまりを見る。
「参ったな……。さすが、華井だよ」
今度は苦しそうに奥井龍一は笑っていた。
まるで何か痛みを堪えている様だ。
「奥井君……?」
再度まりは名を呼ぶ。
奥井龍一は、空を見上げていた。
何だか、その様子が、ひどく寂しげで……。
気付くとまりは背伸びをして。
「うわっ、……。華井……?」
奥井龍一の頭を撫でていた。
まりとしては、本当は抱きしめたかった思いだが精一杯自重した。
だから、何がだからなのかは、まり自身が良く解っていた為、決めた。
「奥井君」
「何だ」
瓶底眼鏡の奥は、見えない。
けれど、奥井龍一が真剣に自分を見てくれているのが分かる。
「明日、私に時間をくれない?」
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