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第12話

「その眼鏡取ってみろよ!」

「い、嫌よ!」

「何か隠してんのかよ」

「違うわ!」

「じゃあ、取ってもいいだろうが!」

「絶対嫌!」

奥井龍一がそんな不穏な喧嘩会話を聞いたのは今から十年前の事だ。

もうすぐ引っ越しが決まった俺が親と喧嘩して家を飛び出た時のことだったと記憶している。

涙目になった十歳の自分はとにかく抗議のつもりで滅茶苦茶に走って辿り着いた公園のブランコに居た。

声の方を見ると、一人の女の子がその子より年上そうな男の子に何やら眼鏡を取るように強要されている。

女の子は絶対取らないという姿勢を崩さず、頭を抱えて大声で反抗していた。

だが、力のある男の子だったのだろう女の子の手を無理やり退けると眼鏡をあっという間に取り去ってしまった。

女の子は金切り声を上げた。

その声の異常さに驚いた男の子が驚いて眼鏡を取り落とす。

落ちた眼鏡を素早く拾い上げて女の子は眼鏡を掛け直した。

「な、何だよ。変な奴。お前なんかどっか行っちまえ!」

「あんたこそ、どっか行って! 警察呼んでやる! 痴漢だって!」

「はっ、呼べるなら」

「あ、おまわりさん!」

何故そこで俺は声を上げたのかが未だに不思議だが、気付けばそう大声で叫んでいた。

男の子は仰天して慌てて走り去っていった。

後にはポカーンとしてこちらを見ている女の子と俺が残った。

きまりが悪い俺がブランコから立ち上がると、女の子が寄ってきた。

「あ、ありがとう」

「別に……」

二人の間に沈黙が落ちる。

「あたし、まり。さっきの奴は近所のガキ大将なんだ」

「そうなんだ」

「そ。いつもわたしを揶揄ってくるの」

それは、所謂構ってほしくてちょっかいかけてくる男の子のパターンなのでは。

俺はそう思ったがその言葉は飲み込んだ。

まりと名乗った女の子は俺の隣のブランコに乗って高く漕ぎ出した。

そして、

「あなた、綺麗な目をしてるのね。わたしと大違い」

と言った。

よくまあ少しの間に観察したもんだ。

俺はかえって感心した。

しかし、自分の瞳が嫌いなのだろう。

女の子の声には悲しみが籠っていた。

そうすると気になるが、人が嫌な事は絶対するなと言う親の教えが頭を過る。

そう言えば、親は自分を探しまわっているだろうか。

気になって急に不安になってきた俺は女の子に此処がどこらへんか聞いた。

ブランコを漕ぐのを止めて、女の子が不思議そうに答えた。

「○○町〇番地よ」

「ありがとう。じゃあ」

とにかく日が暮れてきたことに焦って俺は女の子に別れを告げた。

それが、華井まりとの出会いだった。

まりは覚えてなどいないだろう。

まさか十年前に一度だけで会っていたなんて、きっと信じないだろう。

その時俺はこんな瓶底眼鏡かけていなかったし、目の病気もしていなかった。

だが、俺は覚えていた。

あの、悲しげな声はいつまで経っても心に残っていたからだ。

そして俺の目を綺麗と言った当時から三つ編みおさげの女の子と再会。

直ぐに分かった。

全く変わらない印象。

まりと名乗ったあの声。

眼鏡姿。

同じ高校に進学とは、一体何の因果か。

まるで安いメロドラマか少女漫画みたいな展開。

俺はでも嬉しかった。

嬉しかったのだ。

ひと時とは言え出会った女の子との再会。

だから、俺は。

もう。

まるで新品の眼鏡を掛けたような心地で、俺はあの公園に向かう。

多分、たぶん華井まりは其処に居る。

そんな予感が正しいと絶対に信じていた。

お読みくださり、本当にありがとうございます‼‼

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