第10話
華井まりが去ってしまった後。
奥井龍一はというと。
お茶をしていた。
鼻宛双子兄妹と、だ。
「あの……」
「なんだね、奥井くん」
「奥井くん紅茶のお変わり要らない?」
「あ、いいので」
「奥井くんカシューナッツクッキー苦手だよね?」
「……よくご存じで。で、」
「「で?」」
「生徒会長、副会長。何してるんですか自分の家で。そして俺で」
「テン、明日の生徒会だが」
「はい、お兄様。でしたら運動部の部費についての相談が」
「二人とも白々しく真面目になるのはやめてください!」
がちゃん、と奥井龍一は紅茶のカップを乱暴にテーブルに置いた。
「俺の眼鏡を直してくれるっていう事だからついてきたのに。眼鏡愛好会なる者だとか言っていおいて。よく見たらうちの高校の生徒会長じゃないですか。おまけに副会長まで居るとは……」
「ごめんめんご」
「ごめんネ☆」
額に血管が浮きそうになるのをどうにか堪える。
どうしてこうも、って言うかこうなるんだ!
奥井龍一は回想する。
あの後、盛大に溜め息をもう一度ついた俺にサッと瓶底眼鏡を差し出してくれた人がいた。
助かった、と思ってお礼を言って眼鏡を掛けると。
「あ」
少々眼鏡が歪んでいたうえにレンズに傷が大きく付いてしまっていた。
これは困った。
「うちの眼鏡屋で直すがいい」
「助かります。ってええ!」
「サービスするよん♪」
そこに立っていたのは鼻宛レンズこと眼鏡愛好会・会長ならぬ林高校生徒会長の姿があったのだった。
あれよあれよという間に鼻宛レンズの家が商売する眼鏡チェーン店『ダブルンアイズ』に来てしまっていたのだった。
そして何故だか、副会長の鼻宛テンにおもてなしされてお茶している結果となっていた。
だが生徒会長と副会長はやたら俺の情報が欲しいのか話をしていてちょいちょい探りを入れてくる。
好物を知っている時点でもう十分じゃないかと思うが。
って、何故それを知っているのかも聞きたいぞ。
「まあまあ、奥井くん。父が眼鏡を今一生懸命直してくれているからもう少し僕らに付き合ってくれたまえ」
「付き合ってよ、奥井くん」
仲が良いのか息ぴったりで畳みかけてくる双子兄妹。
俺は今日何度目かの溜め息を付いた。
眼鏡が直ったら、すぐさま華井まりの家に行かねばならないのに。
焦る気持ちがじりじりと胸を焦がす。
「……奥井くんや」
「何ですか、生徒会長」
「華井まりくんのこと、そんなに大事かい」
「まあ、お兄様直球!」
レンズの言葉に、テンがポッと頬を染めている。
が、そんな様子はアウトオブ眼中だ俺にとっては。
「聞いてどうするんですか?」
「聞かねばならない立場だから聞くんだよ」
「ハッ。眼鏡っ子が好きだからですか。……ふざけんな!」
俺は我慢できずに立ち上がる。
だが怒鳴られてもレンズは動じていない。
逆に瞳はとても冷静に俺を見ていた。
「……一人の見ていた人間として聞くんだよ。僕の可愛い後輩が苦しむ姿を見るのは辛いからね」
「わたしも、辛いですわ。同じ女性として華井まりさんの気持ちもわかりますし」
兄の肩に手を置いて、テンも真面目に話し始めた。
「あの瞳で相当苦労されたんでしょうし、大事に想う人に秘密が、トラウマがバレてしまうのはもっと根深くなりますわ」
「だからこそ、俺たちは再度きみに問う。華井まりくんが大事かい?」
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