第9話
奥井龍一とあんな別れ方をしてしまった。
それよりも、この何よりも忌み嫌う瞳を片方でも見られてしまった。
まりは涙を零しながら家までバスを使わず最寄駅から走って帰ってしまった。
まあ無理な距離じゃなかったのが幸いして、まりの体力はそんなに削られなかった。
だが心のダメージは盛大に負った。
鞄を部屋に入るなり放り出し、まりは制服のままベッドにダイブした。
涙があとからあとから出て止まらない。
枕がたちまちびしょ濡れになった。
「どうしよう、奥井君に見られた。見られちゃった!」
そう言うと、枕に突っ伏してわあっと声を上げた。
まりの脳裏にはある光景と言葉が浮かんで止まなかった。
それはまりの父の実家に行った、とある夏の事。
「まりちゃんってさー、変だよね目」
「外国人の血が入ってるんだよね?」
「え、でもお父さんお母さん日本人じゃん」
「まりちゃんは華井のおじさんとおばさんの本当の子じゃないんだよ!」
「あ、もらわれっ子だ!」
「やーいやーい変な子ー」
父親の兄弟が多かった為、いとこもそれなりの人数が居た。
揃いもそろって、まりの瞳の事を揶揄った。
子ども同士の言い合いっ子ならいいのだ。
まりはまだ年上で利口だったから我慢できた。
だがひどかったのは父親の祖父母だった。
「本当にまりは孝道の娘なのかい?」
「変な病気じゃないのかい?」
祖母はまるで変なものを見る目で見、祖父はまだましな言葉をまりの目の前で吐いた。
冗談だったのかもしれないし、まりの両親がすぐに言い返したためまり自身はその時は泣かなかった。
だが、心に傷は負った。
それも父の実家から帰ってしばらくして幼くして不眠症になるくらいに眠れなくなった。
そこからは、大変だった。
トラウマになるくらいに。
両親が最大限に気遣ってくれたおかげと、この伊達眼鏡のおかげでまりは立ち直れてこれたのだ。
なのに。
見られた。
見られて、しまった……。
まりはもう今度こそ駄目だと思った。
気になる人に見られたらお終いだ。
「ぐすっ、うう。奥井君が、わ、私気になっているんだ。奥井君に離れてほしくないから、み、見られたくなかったんだ。うわあーん!」
今更の気持ちに、まりは気付いてさらに声を上げて泣き出した。
この手の話にはまりは疎かった。
でも、推理サスペンスドラマでも主人公が同じ様な状況で泣いていたのを思い出す。
ああ、そっか。
まりの涙は不思議と止まった。
「私、奥井君が」
その後の呟きで、またまりの目に涙が浮かぶ。
でも、それは何故だか流れ落ちた後は視界がクリアになった感覚だったのだった。
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