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カマキリ退治には工夫が求められる件について

「このままじゃ不味い」


 取り敢えずこの中で始末の優先順位が高いのはギガントマンティスとナイトウルフだろう。幸いにも食事中で注意力が散漫になっているようだ。ハルトはナイトウルフの頭部にナイフを当てて一匹ずつ始末していく。だが、終わりが見えない。この間にも味方が急速に減少している。


 食事中のカマキリの頭部にミスリルダガーを突き立てるが、かなり硬い感触がハルトの手に帰ってきた。問題なく頭を落とすことが出来たが軽い疲労感がハルトを襲う。マジックウェポンでさえ硬さを感じるということは、このモンスターの外骨格は相当に硬い。あまり多くは倒せないかもしれない。


 落ちたカマキリの頭部を見つめていると、風を切る音がハルトの耳に響いた。頭を失ったギガントマンティスが鎌をふるって攻撃してきたのだ。幸いにもステリーが避けてくれたおかげで即死は回避できた。


 本当に危ないところだった。


 昆虫類は神経の構造が動物とは大きく異なる。特に幼体から成虫までの間に大きく姿を変えることのない不完全変態の昆虫というものは脳みそがほとんど飾りに等しい。カマキリは体の節々に神経節を持っており、そこからの命令で体を動かしている。だから頭がなくなっても戦闘を続けられるのだ。よく見れば切断された頭部もまだ動いて顎を動かしている。勿論頭部を失った以上は食事がとれなくなるため、このギガントマンティスはその内餓死するであろう。しかし、それには短く見積もっても数日はかかる。今、戦闘を続けているこの瞬間において数日間も待っていることなどできない。


「参ったな、これじゃあ頭を切っても意味がない」


 外骨格が硬くてダメージを通しにくいのに頭を落としても死んでくれない。精々視覚を奪ったというくらいの効果しかないだろう。残念ながら聴覚は失われないためこちらの位置を見失うということも期待できず、正確にこちらを狙った攻撃を繰り出してくる。カマキリの耳(正確には鼓膜)は後ろ足と前足の間の胸部に存在し、人間よりも耳がいいのだ。耳が頭部についているというのは哺乳類の特徴で昆虫には必ずしも当てはまらない。


 ハルトは空を切ったギガントマンティスの鎌に対し、ミスリルダガーを突き立てて反撃を試みる。狙いは関節部分の可動部だ。すると、右鎌が腕から切り離され、地面に落ちた。


「なるほど、関節部分は比較的柔らかいな」


 硬い外骨格の部分を狙っていたらあっという間に体力がなくなってしまうだろうが、関節部分のみを狙えば何とかなるかもしれない。しかし、昆虫というのは痛みを感じる機能がほとんどない。オーガのように動きを止めてくれればその隙に追撃が出来るのだが、ギガントマンティスはむしろ反射によって即座に反撃してくる。


「動きが衰える気配がないな。むしろ動きが良くなった気がする」


 頭部が欠けて、食欲という雑念を失ったギガントマンティスに残ったのは本能と反射のみだ。目の前にいる自分を傷つけた外敵を排除する、という目的のために行動する様子は機械的で無駄がない。回避する余裕を失えば真っ二つに切り裂かれてしまうだろう。


 ギガントマンティスは背中から生える触手のような器官を鞭のようにしならせて攻撃してきた。これは食事の際に獲物をつかむための腕のような器官だろうか? 確かに、ギガントマンティスの鎌は鋭すぎて獲物をつかむのに適していない。


 昆虫類は体の大きさのわりに力が強いことはよく知られているが、これはモンスターにとっても同じらしい。触手による殴打が地面を軽く振動させるのだ。かなりの力である。かすりでもすれば打撲は避けられないだろう。


 だが、外骨格に覆われているようには見えないため比較的柔らかそうだ。地面に叩きつけられた触手に接近してナイフで切りかかってみる。予想通り簡単に切断され、地面に転がった。切断面から青色の血液がジュクジュクと流れ落ちる。これでギガントマンティスが武器に使える器官は左鎌のみになった。


 ハルトは右側に回り込み、腹部と胸部の間にナイフを突き立てる。ギガントマンティスが反射で即座に鎌による攻撃を仕掛けてくるが、右鎌を失っているため攻撃はハルトに届かない。腹部からもジュクジュクと青色の血が流れ始めた。よし、鼓膜を破壊することに成功した。


「これで感覚器官はすべて破壊出来たな。」


 ハルトは走ってギガントマンティスの後方に回るが、相手は反応を示さない。ハルトを認知できていないようだ。ギガントマンティスの背中側、背脈管という人間でいえば心臓のような器官にナイフを突き立てて切断する。背中からどろりとした青色の血液があふれ出して地面に垂れる。いかに昆虫といえども酸素を供給する為の血液を失えば動き回ることはできない。ゆっくりと体が地面に沈み、ギガントマンティスは倒れ伏した。


 ギガントマンティスは頭を狙うよりも背脈管を狙うほうが効果が高いようだ。次からは背中から狙う様にしよう、そうしよう。まともに正面から戦うと時間がかかるうえに危険すぎる。

 

「残り4匹か」


 ハルトの視界に入るギガントマンティスの数は残り4匹だ。4匹ともハルトに意識を向けている様子はない。衛兵たちが餌になってくれているおかげでギガントマンティスは隙だらけだ。ハルトはギガントマンティスの後ろに回って背脈管にナイフを突き立てて切断する。青くてどろりとした血液が流れ落ちる。


 ギガントマンティスは反射的に振り返って鎌をふるってくるが動きが悪い。背中から血液が駄々洩れになっているからだろう。痛覚がないからと言って肉体にダメージがないわけではない。むしろ肉体が発する危険サインを感知することが出来ないのは致命的だ。だらだらと血液を流したギガントマンティスはそのまま固まって動きを停止し、地面に倒れた。


「昆虫系モンスターは頭部よりも心臓を狙うべきだな」


 効果は抜群だ。頭を狙った時が嘘のようにあっさりと戦闘が終了した。鳴き声を上げたり、個体同士で連携をとることもないので一匹ずつ順番に背脈管を切りつけていく。こうしてギガントマンティスは全て倒れた。


 周囲を見ればジャックやバーツはいなくなていた。また、決壊した大門の入り口にはモンスターが押し寄せて、積み重なった死体のせいで中が良く見えない。確認しに行くべきだろう。今の戦況はどうなっている?


「街中でもかなりの被害が出てそうだなぁ。どれくらいのモンスターが入り込んだのか見当もつかない」


 憂鬱だが行くしかないだろう。夜が明けるか、全てのモンスターを殺しきらない限り戦いは続きそうだ。

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