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束の間の勝利

グラツニール 大門 西側


 ハルトたちはあれから待機を続け、オーガの襲来に備えていた。しかし、一匹のみのはぐれのオーガが2回襲来しただけで、至って平和な状態が続いていた。


 そんな時、突然明るい空に暗雲がかかり、アシューリカ大森林に激しい雷撃が落ちたのだ。


《あれはエレクトロ・サージじゃな。シャディとかいう魔法使いが交戦を始めたらしいのう。これほどの魔法が使えるなら恐らく前線ではほぼ決着がついておる。我々の勝ちじゃな》


「そうか、これが魔法の威力なのか」


 凄まじい威力だ。これなら確かにオーガが30体いたとしても勝てるだろう。


《恐らくこちら側にはもうオーガは来ないじゃろうな。大門の東側に行って合流したほうが良いかもしれぬ》


 確かにこちら側のオーガは全て片付いているが、東側がどうなっているかは分からない。


「よし、大門の東側に行って【毒獣】と合流しよう。恐らく前線ではもう決着がついている。ここにはもうオーガは来ないだろう」


 ハルトはアライアンスに指示を出してその場を後にした。


***********************************


 大門 東側


 【毒獣】達は3匹のオーガと対峙してその進行を食い止めている。【鼓膜破りの鈴】の効果もあって数十分の時間を稼ぐことが出来た。しかし、残念ながらオーガは一匹も倒れていない。やはり、この体重の相手を毒殺するというのはトリカブトの猛毒をもってしても難しいようだ。


「まずいな、オーガ共が大門に向かって来ている。」

 

 マンダリニアが呟く


 オーガたちが騒音と匂いに苦しめられ、迷走している間にも絶え間なく【毒獣】のメンバーは矢を射続けていた。暴れまわっているため目玉を狙うことはできなかったが、【ソニックシューター】の加速力があればオーガの皮膚に矢を突き刺すことくらいなら不可能ではない。勿論、鋼鉄製の矢では突き刺さることによるダメージはほとんど与えられないが、毒を少しでも多く送り込んでオーガが中毒するのを待っていたのだ。


 だが、結果的にこの作戦は裏目に出た。オーガは方向感覚を失い、迷走を続けていたが、矢を射かけられ続けたことで、大門の方角を三匹ともが把握しているのである。


 もし、矢を射かけるのを止めておけば、見当違いの方向にオーガが進んでそのまま大門を守り切ることが出来たかもしれない。オーガを殺すことにこだわって判断を誤ってしまった。


 かといってこの状況下で打てる手は少ない。もはや矢を射かけ続ける以外にできることがないともいえるだろう。マフェット達に頼んだ時間稼ぎも限界だ。彼らは手持ちのアイテムが尽きてしまい、これ以上はできることがない。


 無情にもオーガと自分たちの距離は詰まっていく。もはや大門を守り切ることは不可能だ。グラツニールの衛兵にも出動要請をするべきだろう。


「大門に詰める衛兵に出動要請を出す。残念だ。本当に残念だ。かなり死ぬだろうな......」


 基本的に町に仕える衛兵はモンスターとの交戦経験が乏しい。あってもD級以下の比較的弱いモンスターに限られる。元々衛兵は町の中の安全を担保することを期待されているため、その装備は鋼鉄製で対人間用だ。マジックウェポンを支給されている衛兵は隊長クラスのみでその数は片手で数えられてしまうだろう。C級の討伐対象であるオーガには一方的に蹂躙される結果が目に見えている。


 犠牲を好まないマンダリニアとしても非常に心苦しいが、非常時に命を懸けて町を守るのも衛兵の大切な仕事である。


「グラツニール大門に詰める衛兵に伝令!オーガ接近につき出動を要請する。繰り返す。大門にオーガ接近につき衛兵の出動を要請する!」


 恐らくマンダリニアが出動を要請しなくても、グラツニール側の見張りが戦況をおおよそ把握しているはずで、すでに衛兵の待機を完了しているだろうが念のために伝えておく。戦場においては一つの情報の見落としが戦況を大きく左右してしまうことが多々あるからだ。


 それから無限にも思える長い数十分が経過した。


 遂にオーガが大門にまでたどり着いてしまった。オーガの体表はマンダリニアたちの放った矢でびっしりと覆われてもはや別の生き物のように見えてしまう。だがこれほど苛烈な攻撃に見舞われていても大きなダメージにはなっていない。あきれるほどの生命力だ。


 オーガが大門に激突した。盲目であるために自分の目の前に大門が迫っているのに気が付かなかったのだろう。自分の目の前に不愉快な障害があることを認識したオーガは拳を大きく振り上げて大門にストレートを放つ。大門の上に立つマンダリニアたちの体を大きな衝撃が襲う。すぐにオーガの二発目と三発目が繰り出される。


 大門は壊れてはいないが表面にひびが入ってしまった。軍隊が破城槌を使っても開けるのに数日以上はかかると言われているグラツニールの堅牢な大門に早くも限界が迫っている。


 オーガ三匹が各々大門を殴りつけ、蹴りかかる。数十回と繰り返された後、ひときわ大きな破壊音がマンダリニアたちの耳に響いた。大門にはオーガのこぶし大の大きな穴が開いてしまった。そこを起点に大門が崩れていく。


 石と鋼鉄で出来上がった大門の建材が、派手に土煙をまき散らしながら地面に落ちた。大門の決壊である。


 だが、もはや接近戦は避けられないかと思った瞬間、オーガたちに異変が訪れた。


 オーガたちは自身の胸に手を当て、空気が抜けるような激しい呼吸音を上げ始めた。いわゆる、死線期呼吸というもので、人間などが呼吸困難になった場合に行う生理現象である。これが出る時というのは正常な呼吸が出来ていない証拠だ。


「やっとか!遂に効果が出始めたか」


 【毒獣】のメンバーは安堵に胸をなでおろす。呼吸困難はトリカブトの代表的な症状だ。見ていればオーガの足取りは徐々におぼつかなくなり、真っすぐ立つことも難しくなってきたようである。神経マヒの症状も出てきたようだ。


「総員退避!オーガが倒れるぞ!」


 マンダリニアは声を張り上げて、オーガの侵入に備えて出動しようとしていた衛兵たちを押し戻す。勝利が確定した戦いで犠牲を出すことほど馬鹿らしいものはない。


 その後、三体のオーガが首元をかきむしりながら悶絶し、そのまま息絶えて地面に倒れた。かなり危うい戦いであったが一先ず【毒獣】の勝利である。

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