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白い雷撃


 アシューリカ大森林 表層


 アシューリカ大森林の入り口にあたる場所で、【雷光】のメンバー4人とそれに随行するC級パーティ4人の計8人が暇そうに佇んでいた。ここはギルドの会議でマクラミンが決めた前線担当の待ち合わせ場所だ。8人のアライアンスはジライア達を待っているようだが、そろそろ我慢も限界に近づいているらしい。


「鮮血のメンバーが来ないぞ。いったいどこで道草食ってるんだ」


 苛立ちを込めて呟くのは【雷光】の重戦士ドルチェだ。


 本来であれば大門から離れたこのポイントで合流し、4人全員が重戦士である【鮮血】と共闘しながらオーガの群れを倒す予定であった。重戦士はアライアンスの盾となる大切な役割を持っている。しかし、待てど暮らせど彼らが現れる気配がない。


「もう【鮮血】は無視して我々だけで始めればよかろう。これ以上は時間の無駄だ」


【雷光】の軽戦士であるリバーシが答えた。


 オーガの群れはまだアシューリカ大森林から動いていないようだが、その内の少数が〈はぐれ〉となって大門に向かっているのを確認した。多くても3匹程度だったがこれ以上はぐれが出るのは不味い。大門の守備についている【孤狼】と【毒獣】に負担をかけてしまうだろう。


「そうね、あれだけ大口を叩いた【鮮血】が姿を見せないのは気がかりだけどもう始めましょう」


 リーダーであるシャディが声を上げ、各員が戦闘態勢をとった。


 【雷光】の神官であるマーガレットは懐から双眼鏡のような見た目のアイテムを取り出して、鬱蒼とした木々に覆われたアシューリカ大森林を覗き見る。このアイテムは【パースペクト・ビジョン】というマジックウェポンであり、数キロ程度先までの景色を透視することが出来るのだ。


「2km先にオーガが20以上! 30はいないように見えますね。地面が真っ赤です。どうもグラツニールのハンター達はここで交戦したようですわ」


 オーガの群れが動きを見せないのは豊富に食料が残っていたからであるようだ。グラツニールのハンターたちはオーガを倒すことはできなかったが、オーガの餌になることで立派に時間を稼いで見せた。マーガレットは心の中で彼らの御霊に祈りをささげる。彼らの仇は【雷光】が必ず取って見せよう。


「了解、ありがとうね、マーガレット。座標の指定は完了したわ」


 シャディはそう答えて詠唱を始めた。魔法使いが魔術を発動させるには、魔道具やマジックウェポンと違い詠唱が必要だ。


《我は雷鳴を望むもの、白雷の氾濫、我が求めに応じ顕現せよ》


《エレクトロ・サージ!》


 その瞬間晴れ渡った天に暗雲が立ち込める。実に不可思議で魔術的な光景だ。完全に物理の法則を無視している。知性の低いオーガも周囲の異変に気付いたようで食事の手を止めて天を見上げる。理解不可能な光景に戸惑うオーガに構うこともなく白銀の雷撃が地面に雪崩れ込んだ。


 オーガの頭から雷が走り、内臓を焼き尽くす。雷撃の速度は光の速さ、秒速30万kmである。稲妻を見てから避けることは出来ない。予測可能だが回避は不可能。光速の雷撃が洪水の様に溢れかえって群れるオーガに炸裂した。雷撃に伴う稲妻の音が攻撃から遅れてシャディ達の耳に響き渡る。


「何度見ても魔法ってやつはでたらめだな。人知を超えた奇跡ってやつを簡単に起こしちまう」


 声を上げたのは重戦士のドルチェだ。ドルチェは己の剣術を磨いて奥義を編み出し、重戦士としての実力を極めた人間だ。だが、ここまでの攻撃力を手に入れることはできなかった。


「まあ、反則じみた攻撃力なのは認めるけど、魔法使いやるのも見た目ほど簡単じゃないんだけどね......」


 シャディが答えたように魔法使いをやるのも簡単ではない。魔法の詠唱は基本的に成功するか失敗するかの二択しかないからだ。剣術や弓術であれば、今日は昨日より上手くなったとか、命中はしなかったが惜しいところまで来たということがある。しかし、魔法は上手くいけば100%の効果を発揮するが、失敗すると何の結果も生じない。無駄に魔力を消費してしまうだけである。魔法は意外と繊細で微調整を要する代物なのだ。これは非魔法使いの他人には中々理解されない点だ。


 シャディは今でも《エレクトロ・サージ》のような上位の魔法を使う場合には少し緊張する。彼女の魔力量ではこの威力の魔法を2回は唱えられないため、一度失敗すれば戦略から考え直す必要があるからだ。強力な攻撃は戦況に与える影響が甚大で、魔法使いのプレッシャーは大きい。



 《エレクトロ・サージ》による雷撃のまばゆい閃光も晴れたころ、再びマーガレットが【パースペクト・ビジョン】を通じてオーガの群れを確認する。ざっと見渡す限り10匹以上のオーガが内臓を焼かれて転がっている。この結果は魔術であればこそ出来る代物である。


 本来、オーガは物理的な雷に打たれてもほとんど効果が出ない。なぜなら脂肪は油の塊であり水分をあまり含まないため、電気をほぼ通さないからだ。つまり大量の脂肪に覆われたオーガは、半ば絶縁体で、雷から身を守る鎧を身にまとっているようなものだ。しかし、魔法は対象の物理的な障害をほとんど無視する。だからオーガは内臓のことごとくを雷に打たれ、内側からこんがりと焼き上がってしまったのである。


 群れの半数以上が死亡して、パニックに陥った残りのオーガが散り散りになって走り出す。【パースペクト・ビジョン】を通してみる限りマーガレット達の方角に走り出したオーガは5匹のみでこれ以上の増援はなさそうだ。ならば、オーガを手っ取り早く蹴散らして大門に戻ったほうがいいだろう。【鮮血】の姿が見えないことも気になるし、【孤狼】や【毒獣】が苦戦しているようなら助成に向かうべきだと思ったからだ。


 普段なら魔力を温存して他のメンバーの力で倒すところだが、時短のために魔法を使うことにした。シャディはオーガの位置を確認して呪文を唱える。


《白の雷槍顕現せよ》


《エレクトロ・スピア!》


 シャディの指先から一本の雷撃が繰り出され、先頭を走るオーガ一匹に直撃した。周囲に肉の焼ける匂いが充満し、内臓を焼かれたオーガは力を失い、膝をつき頭から倒れ伏した。続いてシャディは第二、第三の《エレクトロ・スピア》を放ち、そのままオーガ5匹を全て焼き尽くした。


「取り敢えずこれで終わりかしら? グラツニールに向かうオーガはもういないみたいだし、大門に戻って様子を見ましょう」


 大門に戻ってはぐれのオーガを始末したほうがここにいるよりも建設的だ。


 シャディは魔力をかなり使ってしまったが、今回の緊急クエストを持ってきたマクラミンの話ではオーガは総数30匹程のはずなので問題はないだろう。オーガが残っていても数匹のはずだ。

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