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真贋鑑定なんてものがあるらしい件について


 商業都市ブロンのハンターギルド支部


 ハルトがギルドに戻るのは約2週間ぶりである。この期間に討伐したオークの数は11体であり、鉱山の麓にいる間ほぼ毎日一匹ずつオークを狩っていた計算である。我ながらよく頑張ったものである。


 換金カウンターに向かってギルド職員に換金を依頼した。袋からオーク11体分の牙を取り出して職員に提示する。職員はかなり驚いた様子で真贋鑑定をしたいと切り出してきた。どうも、モンスターの討伐証明部位が偽物でないかどうか確認したいようだ。

 勿論ハルトは快諾した。するとギルド職員は牙をもってカウンターの奥に引っ込んでいってしまった。


「しかし、真贋判定ってどうやるんだろうなー。モンスターの牙の専門家でも雇っているのか?」


 ハルトは自分が狩ったことのあるポイズンバットやナイトウルフの牙であれば見分けることができるだろうが、見たことのないモンスターであれば恐らくまったくわからない。ギルドで討伐対象として指定されるモンスターの種類は100種類以上存在するため、全てを見分けられる職員はいないのではないかと思ってしまうのだ。


《いや、それは魔道具の力じゃよ。モンスターの討伐証明部位はほとんどの場合牙が指定されておるのじゃが、その牙がどのモンスターのものかを鑑定できる道具が全てのギルドに配置されておる。高額な討伐対象のモンスターの牙が持ち込まれた場合にはよく使われるのう》


 なるほど、確かにオークはC級討伐対象というだけあって、D級モンスターと比較するとかなり高額な報酬が発生する。偽造品を大量に持ち込まれたらギルドに依頼を持ち込んだ、報酬を支払う顧客には大きな負担になってしまうだろう。そしてそれがもし偽造品で肝心のモンスターが討伐されておらず、依頼人の目的が達成されなかったらどうなるだろうか? ハンターギルドの信頼は地に落ちて、クエストを持ち込んでくれる顧客はいなくなってしまい、大赤字になってしまう。


「へー、よく考えられているんだなぁ」


 ハルトは素直に感心した。正直討伐部位の偽造なんて考えたことがなかったからだ。


《討伐部位の偽造は大昔にハンターギルド全体で大きな問題になったことがあるからのう。例えばオークなどのC級討伐対象となるモンスターを討伐できたと偽証してギルドに持ち込めば、高額な依頼報酬はもちろんのこと、D級のハンターがC級への昇格を狙う場合に大きく有利になったのじゃ》


 現在ではD級のハンターがC級討伐対象の依頼を受注することはできないが、当時は今よりも規制が緩く、ギルド職員を説得するなどすれば受注することが出来たらしい。これによって大金を荒稼ぎしたり、そこまでせずとも目立たないようにC級ハンターに昇格して転職を狙うことが流行ったらしい。


《これが大問題となり依頼の受注規則の厳格化と真贋確認の厳密化が行われるようになったのじゃ。最も、現在でも完全に根絶できたわけではないらしいがのう》

 

 ステリーが言うには現在でも人目を避けて深夜にのみ開かれる闇市や、犯罪組織が背後に控えて運営されるアングラな地下取引場では秘密裏に偽造されたモンスターの討伐証明部位が密造・密売されているようだ。だが、人間であるギルド職員はともかく魔道具をごまかせるほどの出来ではないらしく、大きな問題には発展していないようだ。


「へー、そんな歴史があったのか。ギルドも苦労しているんだなぁ」


 そんなことを考えながらしばらくすると、カウンターの奥から先ほどの職員が革袋を持って戻ってきた。


「ハルト様、大変お待たせしました。鑑定の結果全て本物であると判断できましたので、こちらが依頼の達成報酬となります。しかし、ハルト様は随分と精力的にオークの討伐をなされているのですね。他にもオーク討伐の依頼がございますが、受注なさいませんか?」


 随分と積極的なギルド職員だとハルトは思った。新しい討伐依頼の受注をギルド職員側から勧められるのは初めてのことだ。ギルド職員から革袋を受け取り、ハルトは考える。オーク討伐のコツはつかんでおきたいし、受注してもいいかもしれない。


「真贋鑑定ご苦労様です。新しい討伐依頼のほうもぜひ受注させてください」


 今は金貨5枚と銀貨50枚の報酬が手に入り懐が暖かいが、オークをもっと狩ればさらに稼げるため断る理由も思いつかなかった。


 そんな風に思ってハルトが依頼を引き受けると、


《ふむ、随分と塩漬けの依頼がたまっているようじゃのう》


 ギルド職員とハルトの会話を聞いていたステリーが一人ごちる。C級討伐依頼は受注できるハンターの絶対数が少ないために依頼がたまりやすい。そのためにC級のハンターはギルド職員からクエストの斡旋というか催促をされることが時々あるようだ。討伐クエストは掲示板に貼っているだけではギルドの儲けにはならず、達成されてはじめて依頼者から報酬の支払いがあるらしい。C級の討伐依頼が達成されるとギルドも儲かり、ギルド職員にもその儲けが賃金に反映されるそうだ。


 それに、あまりにもクエストの達成が遅いと依頼人からクレームが入ることもあるようで、依頼を受けていないC級ハンターには積極的にクエストの受注を勧めるみたいだ。


 ハルトとしては仕事が多いのは好都合だ。たくさん稼げる。


 資金が集まればステリーの信者獲得の計画も前に進められるだろう。勿論、男を魅了して信者を増やすのではなく、教育施設を備えた教会を建てるという、ハルトが最初に計画していた作戦のほうである。アーガッシュの町の商店街での出来事は完全に事故である。出来れば忘れたい。



 そんな感じでハルトがオークを狩りながら過ごしていると、3週間が経過した。毎日のようにオークを狩っていたので手持ちの金額は金貨20枚を超えた。ついでにギルドの職員から【孤狼】だの【豚殺し】だの、どっちがいいと思うかなどと、よくわからないことを聞かれたので生返事を返しておいた。「どっちがいいと思いますか」って聞かれてもハルトとしては唐突過ぎて「何がだ?」としか返しようがないのである。


 そもそもハルトは教会を建てるにしてもいくらかかるのかさっぱり見当がつかない。ここが日本であればネットで調べて建設会社に見積もりを出してもらえばいいのであろうが、そもそも建設会社の事務所がどこにあるのか見当もつかないので貯金額の目安すら決められないのである。


 暇を持て余してハルトが商店街をうろうろ練り歩いていると、突然首から下げた赤色の冒険者プレートが熱をもって輝きだす。ハルトは驚き、胸元からプレートを取り外して確認してみると赤色の文字が浮き出しているのが見て取れる。


”緊急招集 現在商業都市ブロン付近で活動するC級以上のハンター各位はギルドに集合すること”


 こんなことは初めてだ。


「緊急招集だってさ。なんかただ事じゃなさそうだね」


《ふむ、緊急依頼となるとこの都市にいる全てのC級以上のハンターが集まることになるのう》


 もし緊急招集に応じずに無視した場合はギルドの規則により一回目でも除名の措置を取られることがある。これを欠席するハンターは普通存在しない。なお、長期間にわたる依頼の実行中であれば例外となる。

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