【雨城蝶尾】襲撃者、なぜか再来
「……ねぇ、ルノ。聞いていいのかしら?」
「なにをだよ」
病室のベッドの上で、ルノはめんどうくさそうに言った。
「ルノは、なぜ聖女をできるのか? よ」
どうやらルノは答えたくないようだ。
「知らん。でも、なんかごくまれに男にも魔力があるやつがいるんだってよ。それが俺だ」
だが、ルノは答えた。
なんの意図があるのだろうか?
知られたくないことをあえて言うこと。
ルノにもなにか、覚悟したものがあったのかもしれない。
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「はぁー、疲れた」
セレーヌはため息をついて、宿の木の床に寝そべった。
なにやら襲撃者が来たり、ルノが入院したり、宿主に今回の件がバレないためにセレーヌが一人で宿を掃除したり修理したりといろいろあったわけだが、大変だった。
襲撃者は追っ払うことができてよかった。
もとはといえばそれが発端であったりなかったりするのだが。
疲れるものは疲れる。
いくら騎士でもその体力が無限であるわけではない。
襲撃者に突き破られた壁については、ドレスロードの店をまわってなんとか同じ合板を見つけ出した。
ペンキで上から白く塗り直したのも大変だった。
梁は強かったようで壊れておらず、本当に助かった。
なぜこんなに自分で直すことにこだわるかというと、弁償、というとふっかけられてしまう可能性があるからだ。
言っても悪いのは襲撃者である。
掃除については、総じてきれいになったと言えるだろう。
ルノがいたら、『そうじ、だけにな!』なんて言いそうなものだが、セレーヌには一人でボケとツッコミを担当する気力などない。
セレーヌが直った壁をすりすりと撫でていると、なにやら外から『メリッ……』という音が聞こえた。
どこか不吉な音に、セレーヌはぞわりと鳥肌が立った。
なんだ?
なんの音だ?
壁は無事なのか?
それが一番恐ろしかった。
誰か人がぶつかって壊れたならば、弁償させてやろう。
ムッとした顔で剣をとりにいこうとすると、今度はそこの壁が突き抜けた。
合板に穴が開き、乾いたばかりの白いペンキがぼろぼろとはがれる。
「あああぁぁぁぁああ! 壁があああああ!」
セレーヌは絶叫した。
ドレスロードをぐるぐるとまわりながら材料を集め、そして直すこと丸一週間。
睡眠時間もかなり削ってこの結果である。
セレーヌは頭が真っ白になった。
…………壁に塗ったペンキと同じように。
なんていうツッコミを入れてくれる人は誰もいなかった。
いたのは。
二つの影。
「騙されたなぁ、お嬢ちゃんよ」
「聖女らの分際で生意気っす」
出てきたのは。
ショーゴとリョーマだった。