【雨城蝶尾】二人の襲撃者
あの一件から、ルノは一言もしゃべらない。
セレーヌとしては気まずい、それだけである。
『沈黙は金』、『言わぬが花』なんていう言葉も存在するが、それがどれだけ無意味かがわかる。
やはり、時と場合を選ぶのだ、と。
ルノは無言で片方だけになってしまったカラーコンタクトをつけた。
自分から、過去を切りはなすためなのかもしれない。
セレーヌも真似をして両目につけてみる。
そう変わったことはない。
セレーヌができることはただただその場にいることである。
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そのころ、ヒュンハルト王国の領主様により放たれた刺客は、すでにドレスロードのルノたち二人のもとへ来ていた。
「ここだろ? ずいぶんと洋風な家だな」
「そうっすね。白い壁のわりには、たいして汚れていないのが不思議っす。安い宿のわりにはていねいっすね。なにか裏がありそうっす」
リョーマとショーゴが小声で会話をしている。
「じゃあ、どうやって入るか作戦会議な」
「わかったっす。……裏口から入るのはどうっすか?」
「うーん、ここの裏口にカギがかかってないかどうかがわからないし、そもそも裏口があるのかがわからない。だからそれは却下だ」
「それはきついっす」
リョーマはなかなか考察がうまいようだ。
「あ! そうだ、表と裏で回りこむっていうのはどうっすか? ここ、窓が少ないみたいっすし、逃げるところふさぐっていうのはどうっす?」
「急に大声を出すな、気づかれるだろう。……そうだな、いいかもしれない。やってみよう」
「了解っす」
ショーゴはそこそこ大きい声を出してしまったようだ。
リョーマもショーゴも、それについてはそこまで重要視していなかったのではないだろうか?
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「……ッ!」
セレーヌはいつも持ち歩いている剣をかまえてあたりを見まわす。
なにやら声がしたのだ。
ここのあたりは静かであるし、急に『あっ!』というような声は聞こえないのである。
怪しいかぎりなのだ。
急に動いたセレーヌを見て、ルノもまわりをきょろきょろとするが、外のことなのでわからない。
セレーヌは姫騎士であるあたり、まわりの変化への察知能力も高いのだ。
外からの音もやみ、急に静かになった。
「なんだ、気のせい……」
そうセレーヌはぼそりとつぶやいた。
剣をもどしたのが不覚だった、と思うのはその直後。
『ドッ……ドン、バタァアン!』という、なにかが倒れるような音とともに、男が二人、前と後ろから入ってきた。
はさみうちだ。
「はぁ!? 和風!?」
男の一人が大声でそうさけんだ。
「あ……」
あのときの音。
さっきの音は、こいつらだったのかもしれない。
そう思っても、すでに遅かった。
剣の場所は……、茶髪で赤い瞳の騎士のような大男の横。
「…………取れないッ…………」
タイミングが悪かった。
逃げる経路を確保する、それが最優先だ。
___窓は……ない。
前後の破壊によって逃げ場はなくなっていた。
背後には、あっけにとられたルノとネズミのような顔をした黒髪で黒い瞳の男。
前方には、茶髪の大男。
どう動けばいいか。
どう逃げればいいか。
どう止めればいいか。
どうすればいいか。
___なにをすればいいのか?
すべてはこれに、かかっている。