表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/43

【花浅葱】ヴェレニケの正体

「どうしたの? ルノ、魔力が乱れてるわよ」


「いや、別に。なんでもねぇよ」


 ルノの口調はいつもと同じ。


 でも、ルノを突き動かす感情はいつもとちがうようだ。



 おちゃらけた態度ではなく、心の奥深くにあるのは怒り。


「ルノ、魔力の乱れがすごいわよ」


「あぁ、もう! うるせぇな! わかってるよ!」



「あら、聖女様。大変ですね? 風邪でもお引きになったんですか?」


「───ッ!」



 話しかけてきたのは、村側にダブルブッキングされたもう一人の聖女。


「あなたは?」


「おっと、名乗っていませんでしたね。私の名前はヴェレニケ。おとなりにある、ヒュンハルト王国から派遣された聖女です」


 ヒュンハルト王国、それはルノとセレーヌの生まれ故郷だ。


 懐かしくもあり、どこか怖くもある。


 そんな土地だ。



「ヒュンハルト王国からですか」


「はい、そうです。あなた達は?」


「私の名前はセレーヌ。そして、聖女をやっているのが───」


「おい、セレーヌ。喋るな」


「はぁ? ル───」


「喋るな!」



 ルノは、唐突に大声を出す。


「どうしたのですか、聖女様?」


 ヴェレニケは、ルノの耳元までやってくる。


「そんなに怒っては、お肌に悪いですよ?」


 そう、ヴェレニケはつぶやいた。




 ”パンッ”



「ごふっ」


「ちょ、何を───」


 ルノは、ヴェレニケの頬を張っ叩く。



「セレーヌ、帰るぞ」


「はぁ? まだ作業が残ってるじゃない!」


「今日のところは無理だ! 帰るぞ!」


「駄目です。帰りませんよ!」


「『ヴェレニケは聖女じゃない』。それが、事実だとしても?」


「は?」



「よく、ご存知で」


 ヴェレニケは口角をあげる。


 耳まで、口がさけているのではないか。


 そんな、錯覚をしてしまう。


 だが、比喩ではなくそれほど口をあけたのだ。



「私が聖女じゃないなんて、よく見破りましたね」


「ここで戦うのは分が悪い。逃げるぞ、セレーヌ!」


「え? え?」


 ここで、状況が理解できていないのはセレーヌただ一人。



 ルノは、何もしゃべろうとせず。


 ヴェレニケは、ただ笑うだけ。


「ルノ、何が起こって───」


「その名を呼ぶな!」



 セレーヌがこれまで聞いたことがない怒声。


 セレーヌはおどろき、肩をふるわせた。


「ルノ? ルノ…...ルノ...…」


 ヴェレニケは笑顔を壊す。


「生きていたのか、ルノ。こんなところで出会うとは思わなかったよ。まさか女装をしているなんて」


「───ックソ。セレーヌ、逃げるぞ」


「ルノ! あいつは何者なの!?」


「俺が今ここにいる理由。その一部だ!」


「ルノ、私は待っている。もどってきなよ、ヒュンハルト王国に。決着をつけよう」


 ルノは走って逃げる。


 セレーヌは、それを追う。




 ***




「ヴェレニケ様、領主様にご報告を」


「あぁ、わかっている。わざわざ私が、ドレスロードの陳腐な村まで来た意味があった。さぁて、領主様はどんな顔をするだろう?」


 ───ヴェレニケは、領主様に派遣されていた。


 ヴェレニケの父親は、ヒュンハルト王国の中流貴族兼外交官。


 ドレスロードの領主から、「聖女のクソ野郎が入り込んでいる」と連絡が来た。


 聖女を追っ払う為に、娘であるヴェレニケを聖女のフリをさせて派遣したのだ。




 ***




「ルノ、ルノ!」


「なんだよ、セレーヌ!」


「私は、聞いていいの? さっきの人は誰かって!」


「俺は、お前と出会う前は貴族だった……答えられるのはそれだけだ」


「そう……だったの?」


「これ以上は、今は話さない。でも、故郷に戻る理由ができた。だから、故郷に移動するときに話す」


 2人は、宿まで走る。


 追手はいないが、どこか追われている気がした。



 ───過去の因縁に、追われている気がした。



 因縁と因縁がぶつかるのも、もうすぐになるだろう───。




 ***




「今、戻りました。」


「───ヴェレニケ、戻ったか」


「聖女は、始末出来ませんでした。申し訳ございません」


「───そうか。私兵を派遣するから、大丈夫だ」


「そうですか。では、私はこれで」


「あぁ。父親によろしく、とな」


「わかりました」


 ヴェレニケは、領主の館を去る。



 そして、ヒュンハルト王国に帰る。


 ───ルノとの、最後の決戦が行われるヒュンハルト王国に。



「派遣する人員は決めた」


 領主は指で、座っている椅子の手すりを二度コンコンと鳴らす。


「「お呼びでしょうか?」」


 現れたのは、2人。



 領主から見て右にいるのは、茶髪をした大男───リョーマ。


 彼は、領主の持つ私兵の中で一番の手練れの剣士だ。


 領主から見て左にいるのは、鼠のような顔をした小男───ショーゴ。


 彼は、小賢しい手を使い、盗人を捕まえる魔法使いだ。



「2人には、聖女及びその騎士を殺す任務を与える」


「ありがたき任務です」


「領主様……これはあがりますかね?」


 ショーゴは、右手の親指と人差し指で輪を作る。


 これは、「金」を表すマークだ。



「首を持ってくれば、報酬ははずむ」


「ならば、一生懸命頑張ります」


「そうしてくれ」


 領主は、聖女と騎士の特徴を2人聞かせる。


 二人とも、淡い桜色の瞳をしていて、聖女の方は金髪をしているということだった。



「では、頼んだぞ」


「「わかりました」」



 2人は、ドレスロードのルノ達2人のところへ向かう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
×←概要 ↓検索
ワイ×相互さん企画
バナー作成:雨城蝶尾
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ