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【雨城蝶尾】ダブルブッキングから始まる仕事

「ルノ、やっぱり今日なにか違和感があったりしなかった?」


「いや? 特には」


 ルノは首をかしげている。


「むしろセレーヌはなにか違和感があったのか?」


「いや、気のせいだとは思うんだけど……なにかが動いたような音がうしろでしたから……」



 最初、ルノはボケーっと聞いていたが、それを聞いたとたんなぜかいきいきとし出した。


「それってさぁ、もしかしてイノシシとかうさぎとかじゃね? 食えるんじゃね?」


「うーん、うさぎだったらいいけど、イノシシはさすがに怖いわ。死人が出てもおかしくないもの」


「そうか」




 __________




「うぅー、寒い。外出たくない。次の都市とか知らん。ここの囲炉裏あったかい。寒い」


「なに言ってるのよ。最初は文句ばっかりだったのに。行くわよ」


 ルノはふとんにくるまって囲炉裏の前でこごえている。


「荒れ地なんてもん知らねぇよぉ〜、寒い」


「あなたの仕事場所よ、行くわよ」



「行くたくない〜、寒い」


 セレーヌはルノのふとんを引っ張ってはがそうとしているが、なかなか離れそうにない。


「語尾が『寒い』になったのかしら? 寒い寒い連呼してないで準備しなさい」


 セレーヌが布団のはしを引っ張ると、少しだけ床との間に隙間があいた。


 その隙間に、冷たい空気が流れこむ。


「ヴん」



「なにがヴんよ。早く出なさい」


「……わかった、準備するから寒い」


「まったく信用ならないわね、早くしなさい」




 ___________




「そういえばさ、俺とセレーヌが一緒に行動しはじめたときもこんな感じじゃなかったか?」


「寒さってこと? そうね……そんな感じだったかもしれないわね。もう二年たつのね」


 ルノとセレーヌはしみじみと思い出す。



「というかここ極寒の地すぎる」


「そりゃ私たちの格好のせいかもしれないけれど、いくらなんでもこれはないわ」


 一歩一歩がスローである。


 やはり、寒い日に外出するようなものではない。


 雪が降っていないのが、まだ幸いだったことだろう。



「うわぁ、ここかぁ……寒い」


「そうよ、ここよ……寒い」



「聖女様! よくお越しくださいました」


 そう言い、村の長はうしろを振り向いた。


 そこにはなぜか、聖女の格好をした女性が一人で立っていたのだ。



「なあ……あいつなに?」


 ルノはそう聖女に指をさしながら、いぶかしげに言った。


「ああ、さっき村の長が話していたけれど、ダブルブッキングしちゃったらしいわよ」


「…………ああ、そうか」



 なぜかルノは冷めた目つきで聖女を見ていたのだ。


 いつものルノであれば、『ダブルブッキング? そりゃダブルブーイングだな!』なんてダジャレもかましそうなものであるが。


「どうしたのよ、ルノ?」



「……いや、なんでもない」



 その反応が怪しいといったものだが、あえてセレーヌはそこにふれない。


 どこか、いつもと違う……、その感じ。


 セレーヌは見たことがなかったのである。


 はっきり言うと、セレーヌは怖かったのだ。



 ボケを言ったり、セレーヌにツッコませていた、『いつもの』ルノ以外を見たことがなかったからである。


 確かに、ルノは貴族観に対してやや冷たいものがあった。


 だが、セレーヌ自身、しょせん平民あがりなのだ。


 だからこそ、貴族についてなにか思ったことは特にない。


 実力により準騎士爵をもらったが、それは貴族ではない。


 ルノは何者なのか、それは聞いたことがない。


 あくまでセレーヌは平民である。


 ただ、ルノは貴族観がきらいなようだ。


 なにか、聖女は貴族に関するなにかがあるのだろうか。



 それは、わからない。


 聞くのも怖い、それがセレーヌの気持ちである。



「とっとと終わらせようぜ」


「ああ……、わかったわ」


 やはり、セレーヌにはルノの口数が少ないように思えるのだ。



 …………そのとき、セレーヌは聞き逃していた。


『死ね、ヴェレニケ』という、ルノのつぶやきを。

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