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【花浅葱】番外編・二人を絆す紙切れ

 ヴェレニケとサントが死に、数年が経った。


「今日で、サントの五周忌か」


「そうね」


 そう言って、馬に乗りながら昔の自分たちを思い出しているのはルノとセレーヌだ。


「ついでに、ヴェレニケが()()()()になってから五年か」


 ヴェレニケは、死亡ではなく行方不明ということになっていた。


 なぜならヴェレニケは、魔力の暴走により溶けて消え失せてしまったから探しようがなかったのだ。



 ルノは今年で二十歳になっていた。


 今、二人はドリアギア山地の山奥にあるサントの遺体がうめられている別荘に向かっているのだ。


 そこは、サントとヴェレニケが死んだ場所である。


 二人は、サントの墓参りをするために向かっていた。


 ルノは昔のようにふざけることはなくなっているが、容姿端麗さにはみがきがかかっていた。


 無闇にさわぐことをせず、奥ゆかしさを手に入れたルノは喋らなければ本物の乙女だ。


 口が悪いので、喋ると男だと怪しまれる。


 声も女性みたいにキレイなのだが、貴族という身分を隠していた時の名残が残っていた。


 なぜ過去形なのかというと、ルノの家系である男爵家は、追放されたルノに追手など雇っていなかったのだ。


 ルノが勘違いしていて、一人で勝手に『追手が来ている』と騒いでいたのだ。


 もっとも、その事についてルノを責めるには少々酷とも言えるだろう。


 彼は、幼いながらに婚約破棄をされ追放されたのだから。


「…………着いたわよ」


 この五年で、何度この別荘に顔を出しただろうか。


 ことあるごとに、この別荘に来てはサントの墓参りをしているような気がしている。


 ルノとセレーヌの二人は、馬を降りて別荘にある厩に馬を入れる。


 あの、ヴェレニケから隠れたときに使った厩に。


 そして、サントの墓にむかった。


 すると……。


「んあ? これ…………」


 サントの墓にあったのは、用意した覚えのないキレイな花束。


 まだ、置かれて間もない感じであった。


 ───それこそ、ここ二、三日の間に置いたかのように。


「私たち以外にだれか来ているのかもしれないわね。たとえば、ヴェレニケとペルラさんのご両親とか」


「でも、馬はいなかったぞ? こんな山奥まで歩いて来るお貴族様がいるか?」


「なら、魔物が花束なんて置くのかしら?」


「いや、そんなわけないだろ……。でも、これまで来なかったのにどうしてここに?」


「わからないわ……」


 怪しんだルノとセレーヌは別荘の中に入っていく。


 ここで、なにもせずに帰るという選択肢をとらないのが、実に二人らしい。


「…………ん?」


 別荘の中に入ると、そこにあったのは一枚の手紙。


 それが、前までは用意されていなかった机の上に置かれていたのだ。まるで、誰かに発見してもらうような感じで。


「これは……」


 ルノが手紙を取る前に、セレーヌが取り内容を読む。


「おい、ちょっと読ませろよぉ」


「私が音読してあげるわ」


 セレーヌは一呼吸入れて、音読を始める。


「どなたか知りませんが、私達の別荘に墓を作った人へ…………」




 ーーーーーーーーーー


 どなたか知りませんが、私達の別荘に墓を作った人へ。


 初めまして。


 私の名前はペルラと申します。


 私たちの保有する別荘に墓を作ったかたへ伝言がございますので、お手紙を残しております。


 私の妹であるヴェレニケの墓を作ってくださり誠にありがとうございます。


 五年前から行方不明になっていた私の妹が亡くなっていたとはにわかに信じられませんでしたが、墓のあった場所を調べたところ、十代ほどと思われる女性の骸骨を発見いたしました。


 これは、おそらく失踪した私の妹のヴェレニケのものであると判断いたしました。


 この別荘におとずれたのは妹のヴェレニケが行方不明になってから初めてであったため、気づくことが遅くなってしまいまして申し訳ございません。


 ですが、私の妹であるヴェレニケの安否が確認できたことだけでも嬉しく思います。


 死亡していたという事実は本当に悲しいことですが、永遠に発見されず生死の状態を確認できなかった今までを考えると、ずいぶんと前進したと言っていいでしょう。


 もし、妹の死に関することでなにか情報がございましたら、私たちにどうかお教えください。


 対価として、できることであればなんでもさせていただきます。


 私たちも、年に数回は妹の墓参りを予定しておりますので、邂逅した際は名前を呼んでくださると嬉しいです。


 ーーーーーーーーーー




「ペルラ………」


 ルノは、いつかの婚約者の名前を呟いていた。


「あの骨は、ヴェレニケのではなくサントのだけれど、少しの年齢差は骨ではわからないわ……。勘違いしていてもしかたないわ。これはだまって……」


「いや、あの骨はサントのものだと書いて、なおかつヴェレニケは死んだことだって書き残しておくぞ」


「……どうして」



「どうしてって、サントの両親はまだサントが生きてるかどうかわかってないんだぞ? そのままじゃ、かわいそうだろ」


 ルノは、サントの親のことを気づかっていた。


 もっとも、サントの両親はもうすでに亡くなっているのだが。


「……そうね、私が安直だったわね。そう書き記しておいてほしいわ。そうだ、ルノは昔の婚約者に書き置きでもしておくの? たとえば、愛していますとか」


「いや、遅すぎるだろ」


「ふふ、そうね」


 セレーヌはそう言って目を細めて笑った。


 ルノも、それに微笑み返す。


「ペルラもなんだかんだ元気そうでよかった。もう別の誰かと結婚してるのかな…………」


「じゃあ、既婚者かどうかとか聞いておくの?」


「んや、それはいい。元婚約者になんて話したくもないだろうし」


「あら、意外にもルノのことをずっと待っているかもしれないわよ?」


「やめてくれ、ペルラお姉ちゃんなら有りえそうだ」


「あら、冗談のつもりで言ったのに……。それほどに愛されていたのね」


「そりゃ、俺らは家族みたいな仲だったからな。もっとも、書類で始まり書類で終わったんだが」


「そんな事務的で機械的なことは言わないの。ちゃんと、そこには感情があるんだから」


「わかってるよ。あ、それとな、ヴェレニケの性格のこととかは書かないでくれ」


「どうして?」


「そんなの、それもかわいそうだろ。自分の妹がクズって知ってしまったらさ。それこそ、ペルラが報われねぇよ」


「……それもそうね。わかったわ、やめておく」


 そう言うと、セレーヌは手紙の裏側に文字を書き始めた。


 そこには、あの死体はサントのことと、ヴェレニケの死体は残らなかったこと。


 そして、ヴェレニケは自分たちのことをかばって亡くなった善人だったという『優しい嘘』を匿名で記載した。



 小さく交わる、ルノとヴェレニケの因縁。


 だが、そこにあったのは憎しみなど負の感情ではなく優しさであった。


 …………そして、書類で始まり、書類で終わったペルラとルノの関係は文通という形でまた始まろうとしていた。

どうも〜、雨城蝶尾です。

共同作、最初はとても心配でした。

花浅葱さんからほとんどを任せられてしまって、題名から主人公たちの名前から職業からなにからなにまでこちらが決めてしまったもんで。

『もしや……花浅葱さんに面倒ごとを押しつけられている!?』なんていうのも考えたものです。

まったくそんなことはございません。

字数も書いてくださいますし、登場人物も出してくださいますし、展開も変えてくださいますし。

だいたい字数比が雨城蝶尾:花浅葱で1:3くらいだと思います。

どう見ても文才です、本当にありがとうございました。

キャラクターたちに思い入れもありますし、書いている途中でうるっときた部分もあったわけなので完結は非常に名残惜しいことなのですが、美しく終わらせるためにここにて完結ということにさせていただきます。

どうやら花浅葱さんは爆弾発言を投下してくれるらしいんで、こちらも。

花浅葱さんはいつでもなろうにいるのかというくらいに異様に返信が早いです。


こんにちは!

男聖女の2人目の作者である花浅葱です!

今回の話で、男聖女は堂々完結いたします!

嬉しいけれど、どこか寂しいような気持ちも残りますね。

まずは、皆様に感謝を。

最後までお読みいただきありがとうございました。

楽しんでいただけたのならば、幸いです。

さて、それでは作品も終わったことですし余談でも。

この男聖女、事の発端は「ワイ×相互さん企画」からですね。

声をかけてくださったのが、1月18日。

この後書きを書いている今から約半年前。

こんなに続いていたとは...少々驚きですね。

ですが、ここまで楽しめて書けていたのも事実です。

なんだか、感謝の言葉しかでてきませんね。

蝶尾さん、半年間もお付き合いいただきありがとうございました!

では、余談を終えて最後に裏話を。話していいのかな?

ルノ以外にも名前の候補がありマリリンとマローネと言うのがありました。

マリリンだと、ジョジョ6部の取り立て屋が浮かんでしまったので、ルノを選択しました。

そして、セレーヌの初期案はマリンセレーヌでした。

だが、長いのでマリンかセレーヌのどちらかに。

マリンだと、某パチンコの金髪娘が浮かんでしまったので、セレーヌに。

他にも、色々話したいことがありますが...長すぎて蝶尾さんの枠を取ってしまうとあれなので、この程度で。

───随分、これだけでも長いんですけどね。

これほどまでに熱量があった作品だということにしておいてください!

本当にここまで読んでくださりありがとうございました!

最後に大きな爆弾を!

蝶尾さん、メッセージでは割りとダジャレを言ってくれます!

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