【雨城蝶尾】番外編・ルノの婚約破棄
「うーん、ペルラお姉ちゃん、僕はどの本がいいかはわからないです……」
「ここに婚約破棄のお話があるわ! これ、おもしろそうね!」
「しぃっ! ペルラお姉ちゃんは声が大きいんですから、もう少し小さな声で話しでください」
子爵家の大きな図書室のすみで、ルノとペルラは夜に読む本を選んでいた。
「私、この本にするわ。ルノはどうするの?」
「僕はまだ決めていません」
そう言ったルノに、ペルラは目を輝かせ、にっこりとほほえむ。
「ならば、この婚約破棄のお話にすればいいわ! ね、それがいいでしょう」
「…………ペルラお姉ちゃんがそう言うのなら、僕も婚約破棄のお話にします」
まだ二人とも、婚約者同士ということを意識せずに暮らしていた時代。
ルノも婚約破棄についてはそこまで興味もなく、ペルラもお話として楽しんでいるだけだった。
二人は現実の婚約破棄など、まさか存在するとは思いもしなかった。
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「たくさんの貴族が集まるパーティーで『お前との婚約を破棄する!』って王子様は言うのね」
「公爵令嬢はとてもかわいそうですね……」
「でも、大丈夫よ! 公爵令嬢は幼馴染だった王弟殿下と結婚することになるのよ」
ルノとペルラは大きな椅子にともに座り、本に夢中になっている。
「公爵令嬢が幸せになれたならばハッピーエンドです」
「でも、みんな幸せだといいのにね……」
「そうですね」
ルノは男爵家に帰らなければいけない時間が近づいている。
「実はこっそり借りてきていた本がもう一冊あるのよ! それも一緒に……」
「ごめんなさい。僕、もうそろそろ帰らなければいけません」
「あ、引き留めてしまって……」
「いいんです。では、また来ます」
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「どうやらそちらのルノ殿に、あまりよくないうわさが立っているようで……。これでは双方の得にはならない。我が娘ペルラと男爵家のルノ殿の婚約は破棄させてもらおうかと思っている」
「その通りです。うわさの件については完全に事実無根ですが、男爵家と子爵家の得とはならないことは確かとなっています。婚約破棄はこちらからも了承ということにさせてください」
ただただ、紙の上での契約で終わってしまうだけのあっという間な婚約破棄だった。
いつだったかの夜、ルノとペルラがともに読んだ婚約破棄のお話とはうってかわって、静かな婚約破棄がとり行われたのだ。




