【花浅葱】番外編・ルノとセレーヌの二回目の出会い
セレーヌが、大きな会合に出てから数年がたつ。
数年たった後のセレーヌは特に決まった仕事を持たず、雑林や山奥から人里に降りてきたりしたものなどを皮などの素材を手に入れるために魔物を狩って生計を立てていた。
本当にお世話になっていた伯爵令嬢であるウェスタの元で姫騎士としてつとめるのは、もうやめていた。
もっとも、クビになったわけではない。
セレーヌは、自らの力不足を感じて『自分の力では、いざという時ウェスタ様のことを守れない』という理由でウェスタの元をあとにした。
セレーヌ自身、それはつらい選択だったが、ウェスタは『帰ってくる場所が無くなったら私の元へ帰ってきなさい』と言ってくれたのでやめるという決心ができた。
セレーヌは、自分の生計を立てるためヒュンハルト王国の東に位置する少し深い森を魔物の討伐のために走り回っていると…………。
”ガサガサ”
茂みを動く小さな影。
「……」
セレーヌは、静かに剣を抜く。
しげみの奥にいるのは、きっと小型の魔物……、ホーンラビットかワイルドボアの子供だろう。
セレーヌが、茂みをかき分けながら動く魔物らしきものに向けて刀を振るう。
が……。
「ひ」
そんな、自分より小さな子供の悲鳴が聞こえた。
セレーヌは、自らが斬ろうとしていた生物から発せられたことを瞬時に察し、剣をギリギリでとめた。
「ち、近づかないでください! お父様の仕向けた刺客ですよね!?」
そんな、大声を上げるのは金髪の少女…………いや、少年。
セレーヌよりも、少しばかり年下のような見た目である。
セレーヌは、一瞬にして目の前の美人さんを『少年』だと認知した。
女性と言われれば、思わず信じてしまうほどにキレイな金髪や薄い桜色の瞳をしていた。
だが、なんらかの既視感が目の前の人物を『少年』だと認知させた。
「刺客? なんのこと?」
「そ、そうやってしらを切って私を殺すつもりでしょう!」
「はぁ? まったく……私が殺すのは魔物だけよ」
セレーヌはそう言うと、尻込みしている少年の手を引いて立ち上がらせる。
「こんな森の中で、魔物が出たらどうする気だったのよ? あなた、家族は?」
「家族は───」
少年は、口をつぐんでしまう。
きっと、死別して一人になってしまって、そのまま一人で森の中をさまよっていた不憫な少年……。
セレーヌは、そんなことを察知した。
もっとも、実際は家を追放されて逃げまわっていたところをセレーヌと出会ったのだが。
「お肉でもおごってあげるわ。私についてきなさい」
「だ、大丈夫です。お腹は空いていません」
それと同時に、少年の腹の音が静かな森の中にこだまする。
「う……」
「お腹が空いてるんでしょう? 着いてきなさい」
そう言って、セレーヌは少年のことを連れて街に戻った。
「…………それで、人の金で食べるお肉はおいしいかしら?」
現在、少年はハンバーグステーキを三皿も平らげていた。
すべて、セレーヌのおごりだ。
セレーヌは、額に青筋を浮かせるのを我慢して目の前の少年に話を聞こうとする。
だが少年は、肉を口にふくむのをやめずにいて会話は成立しない。
「はぁ……こんなに食べちゃって。一体、いくらになると思ってるのかしら……」
セレーヌは、そうつぶやく。
「え、あ、ご、ごめんなさい……」
目の前の少年に悲しげな瞳で謝られてしまった。
こんなものでは、怒ることはできない。
「それで、どうしてあんな森の中にいたの?」
「それは……話せないです。でも、ごちそうさまでした。ありがとうございました」
「はぁ……話してくれるつもりは無いのね……」
「あの、どうして……僕を助けてくれたんですか?」
「困っている人がいたら助けるのは当然でしょう?」
「…………」
少年は、しばし押し黙った。
だが、すぐに口を開く。
「ぼ、僕と一緒に逃げてくれませんか?」
「───逃げる?」
「そうです。僕、今すごく困ってるんです。理由は言えないんですけど……。僕を助けてください!」
理由もわからず、なぜここから出なければならないのか。
「…………わかったわ」
だが、少年のあまりの必死さに思わず了承してしまう。
目の前の少年は嬉しそうな顔をする。
セレーヌは、自分と同じ色の瞳を持つ少年を助けようと思っていた。
これが、ルノとセレーヌの二度目の出会いであった。
そこから、二人はともに行動することとなる。




