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【花浅葱】番外編・アルベイドという名の氷結都市へ

その後の話。

 ルノは一人、ヒュンハルト王国の王都を散策する。


「あーあ、長旅前はどうしたって暇になるよなぁ……」



 セレーヌは魔物退治の仕事の依頼やその依頼達成の報告などをして、言ってしまえばどこでもかせげる方法で仕事をしている。


 だが、ルノは聖女という職業柄、荒れ地がないと金を稼ぐことができなかった。


 荒れ地に行く前の準備、特に次の目的地までが長旅になる時はセレーヌだけが多忙になり、ルノは暇を持てあまてしまうのである。


「んで、俺は今一人でヒュンハルト王国の街をぶらついている、と」



 ヴェレニケとの戦いが終わり、一度はヒュンハルト王国を出た。


 その後、ドレスロード周辺を転々としてまわったが、次の仕事先がヒュンハルト王国よりもさらに北のアルベイドに行くようなので立ち会ったのである。


 ルノは捕らえられるのではないかとビクビクしていたがそんなことはなく、ヴェレニケが行方不明になった事件はもう風化してしまっていた。


 アルベイドは、ヒュンハルト王国の北側にある都市の名だ。


 『氷結都市』の名で呼ばれることもあるように、アルベイドは年中氷に包まれている。


 そして、アルベイドに行くためには『冷凍砂漠』とも言われている永久凍土の上を通らなければならない。


 もちろん、砂漠とも言われているのだから植物なんかは生えていないし水一滴としてない。


 もっとも、水は氷を削って溶かしてしまえばいくらでも手に入ってしまうのだが。


 ルノも、行き先についてはセレーヌから聞いていた。


「……氷結都市って言うくらいだから寒いのか……?」


 ルノはそんな事を言った。


 ルノの私物には、マフラーや手袋などの防寒グッズがあった。


 では、セレーヌはどうだっただろうか。


「うーん、どうだったのかなぁ……」


 ルノは、これまでを思い出すもセレーヌは手袋やマフラーなどをつけていなかったような気がしている。


「……そうだ、マフラーの一つくらい俺が買ってあげればいいんだ」


 ルノはそんな考えを思いつく。


 心が汚い人には『買う』なんて方法は思いつかないだろう。


 ルノは服屋に入り、セレーヌの髪色と同じ茶色のウールのマフラーを購入した。


「おっと、彼氏さんにプレゼントかい? なら、ラッピングしないとねぇ」


 などと、お店の店主であるおばさんにそんなことを言われたが、ラッピングを無料でしてくれること自体はありがたいのでなにも言わないでいた。


 もちろん、ルノは男だし、セレーヌはルノの彼氏でも彼女でもない。


「……んじゃ、買い物でもしたし帰るか」


 ルノはそう言うと、泊まっている宿にもどろうとする。


「近道して帰ろっと」


 ルノは、そんなことを言って路地裏に入る。


 すると…………。



「おいおい嬢ちゃん、オレらと遊ばない?」


「…………?」


 ルノの目の前に出てきたのは3人のあからさまにチンピラの男だった。


 世紀末な雰囲気がある格好に、ルノは多少引きつつもこう述べた。


「俺は男だ」


「へぇ、そうかい。だから、どうしたってんだ? 男なら奪い取り女なら剥ぎ取るに決まってんだろ?」


 目の前にいるのはチンピラ。


 ゆえに『男だから』という理由で許されるわけもなかった。


「───逃げねぇと! 外出るたびに誘拐されるとか、帰ったらマフラーごときじゃ許されねぇ!」


 ルノはそう言って、路地裏をあとにした。


「ちょ、待てよ!」


 そう言いながら、チンピラたち三人もルノのあとを追いかけていった。


 ルノは、そのまま宿まで逃げる。


 だが、ルノたちが泊まっている宿にセレーヌがいるという確証はなかった。


 こんなチンピラなら、セレーヌが一瞬にして倒してくれるのはわかっていたが、そのセレーヌがいなければルノは捕らえられてしまう。


 チンピラも返り討ちにできない自分の非力さを嘆くも、しょうがない。


 ルノは、ラッピングされたマフラーを抱えながら宿に向かって走る。


「オラ、待て待て待て!」


 ルノは、人混みの中に混ざる。


 デカいチンピラは、人混みにさえぎられたが、女性のように小柄なルノはうまく人混みの中を通り抜けることができた。


「よかった、ここまでくれば安心だ……」


 そんな、死亡フラグに近い言葉。そんな言葉を走ってしまえば、安全なところも一転危険になる。


「残念だったな、嬢ちゃん。いや、兄ちゃんだったか?」


「……ッ!」


 やはり。


 ルノが振り返ったところにいたのは、チンピラだった。


 キスしてしまうかのような距離感で顔を近づける。


「ひ」


 ルノの口から、小さな悲鳴が出る。


 もう、宿はすぐそこだったというのに。


「お兄ちゃん、ちょっとジャンプしてみろ!」


 ルノは首を振る。


 すると、キレイな金髪を握りしめられた。



「もう一度しか言わねぇぜ? ジャンプしてみろ」


 ルノは、小さくジャンプをする。


 テンプレなセリフしか吐けないチンピラに脅されてビビり散らかしてジャンプしちゃうところあたりがルノらしい。


 "チャラチャチャラ"


 ルノがジャンプすると、何かが揺れ動く音がなった。


 走って逃げる時は聞こえなかったのに、なんて都合が悪いのだろう。


「お兄ちゃん、お金持ってんじゃんか? ちょっとさ、俺達に貸してくんね? ちょっとでいいんだ。ちょっとでいからさ? なぁ?」


「このお金は……」


「なぁ?」


 ルノは、両頬をつかまれる。


 このまま断り続ければ、地面に顔をつけられてしまうだろう。


 だが、ルノにだって信念はある。


 ゆえに、首をふった。


「そうかい、じゃあ無理矢理奪うことにするぜぇ!」


 ルノが、地面に押しつけられそうになった刹那。


「弱いものいじめはやめなさい。みっともないわよ」


 ルノのことを掴んでいたチンピラが、吹き飛ばされた。


「セレーヌ!」


「って、ルノだったの? 全くルノは……」


 セレーヌが、大きなため息をつく。


 仕事を終えて宿に帰ると、宿の前でチンピラに絡まれている女性がいたから助けたと思ったら、それがいつもともにいるルノだったのだから、笑い話もいいところだろう。


「同じ轍を何度踏めば気がすむの? 私が家にいない時は縛りつけるわよ?」


「お、俺だって好きで絡まれにいってるわけじゃねぇよ!」


「はいはい。まぁ、いいわ。まったく、ルノが相棒だとつかれるわね……」


「嬢ちゃんでもいいぜ? オレらと遊ばない?」


「はぁ…………」


 ため息をつくと同時に、セレーヌはチンピラのあごを打つ。


「……ッ!」


 剣を抜くまでも、斬るまでもなく一発。


「な……何を……」


「おい、テメェ! 兄貴になにしてくれてんじゃー!」


「はぁ……うるさい奴らね」


 ”ザッ”


「「……ッ!」」


 残る二人も、少し足や胴を剣でたたいただけでどこかに走り去っていった。


「セレーヌ、ありがと……」


「まったく、しかたない子ね」


 セレーヌはそういうと、ため息をつく。


 そして、二人は自分たちの部屋にもどった。


「あ、そうだ。セレーヌ。これ」


 ルノは、セレーヌにラッピングされたマフラーを渡す。


「何、これは?」


「えっと……俺からのプレゼント」


 セレーヌは、ルノがプレゼントを買ってくるなんて何かのドッキリなのではないかと考えつつも、プレゼントを開ける。


 中にあったのは、茶色のウールのマフラーであった。


「これは……」


「氷結都市に行くんだろ? なら、寒いだろ? セレーヌはマフラーとか持ってなさそうだったから……プレゼントしようかなって思って…………」


 ルノは、少しタジタジしながら答える。


 すると、セレーヌの目は優しくなり口角があがる。


「ありがとね、ルノ」


「……お、おう」


 ルノはそんな返事をしてしまう。


 チンピラに絡まれているところを助けてもらったすぐ後だから当然だろう。


「ルノが私にプレゼントを買うなんてめずらしいわね……なにか壊したりしたの?」


「はぁ? んなわけ無いだろ! 俺は思いつきでプレゼントを渡すのも許されないのか?」


「ふふふ、冗談よ」


 セレーヌはそんなことを言って笑った。



 セレーヌが、ルノからもらったマフラーをアルベイドに行ってから帰ってくるまでほとんど外さなかったというのは、また別の話である。

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