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【花浅葱】番外編・ヴェレニケの走馬灯

ルノ・セレーヌ脱出後のヴェレニケについて。

ある日から、ヴェレニケの行方が不明となった。


「私の……私のヴェレニケはどこ!?」


自らの住処としている屋敷でそう声をあげるのは、子爵令嬢なのにも関わらず十九歳で未だに独身であったヴェレニケの姉、ペルラだった。


ヴェレニケはさんざん悪事を働いていたが、それは身内にはバレていなかった。


家族の前では『よい子』を演じていたし、『こいつはバラす』と感じた従者は、脅すなりクビにするなりして上手く黙らせていた。



「お願い、私の妹を探してちょうだい!」


そう、自らの護衛に懇願するペルラ。


ペルラは、ヴェレニケとは違って名前の通り真珠のようにきれいな心をしていた。


従者も、そのきれいな心の持ち主であるペルラに心酔しきっている。


であるがゆえに、すぐに捜索は出された。



…………ヴェレニケが失踪したのは、数日前。


ドレスロードの領主から呼び出され、見事に仕事を終えて帰ってきたばかりだった。


父様からもらったお小遣いを持って、王都に買い物に出かけていった従者や護衛をふくめてヴェレニケは失踪した。


誘拐ならば護衛や従者は帰ってくるだろうし、子爵令嬢が消えたというだけでニュースになる。


それに加え、護衛と従者までもがいなくなったならば、大混乱と化すだろう。



残る選択肢は、家出。


「ヴェレニケ……どこに行ってしまったの?」


ペルラの目尻に涙が浮かびあがる。


緋色の瞳が、ウルウルと揺れ動いて見えた。


……もう帰ってこないヴェレニケを思うペルラの心は悲しみ一色だった。




***




ルノとセレーヌがドリアギア山地を出ていってからのこと。


ヴェレニケは、声帯までもをルノの暴走した魔力に溶かされて、話せないでいた。


身体はドロドロに溶けて、動くことも遺言を残すことさえ不可能。


できることとしては、思考を逡巡させること。


ヴェレニケは頭の中でこれまで歩んできた自らの記憶、いわゆる走馬灯というものを見ていた。


ヴェレニケ自身、容姿淡麗で頭脳明晰であった事も自覚していた。


ゆえに今、自分自身をむしばんでいる惨状が因果応報だということもわかっていた。


……だが、わかっていても悔しい。


『死』から逃れたいという一丁前な人間の本能が『諦め』から逃げようとしている。


因果応報であり、逃げることはできない死。


ヴェレニケはもがいてもがいてもがきつづけて、走馬灯が尽きたときに、ヴェレニケがヴェレニケではなく、ドロドロに溶けた肉塊に変貌した。




***




最後に私が見た走馬灯は、実に愉快なものだった。


自分が仕組んだことで、他人が苦しんでいる。


母が大切にしていたアクセサリーを破壊し、悲しんでいた時の顔。


父が大事に育てていた愛馬を逃し、呆然としていた時の顔。


私の従者が、死ぬ直前に無様に失禁しながらも『生』を乞うていた時の絶望の顔。


姉が父母から婚約破棄を命じられるよう、根も葉もない噂を流し結果的に追放された男爵令嬢の理不尽なこの世に憤慨する顔。


全てが、思い出された。


だが、死ぬ直前に役立つような記憶ではなかった。


人の苦しむ姿を見るのは、とても愉快だった。


優越感に浸れた。


……だが、自らが行っていたこれまでの行動はなんて無価値なものだったのだろうと考えた。


もっと、まともに生きていたらなどと思案する。


まともに生きていたら、ルノと姉のペルラは婚約破棄などせず見事に結婚していただろう。


『あったかもしれない』という、仮定でここで自分が死ななかった世界を妄想するも、すぐにその考えを捨てる。


良いも悪いも、人が苦しむ顔を見てここまで成長してきたのだから。


狡猾な自分に恨みごとも言えないまま、私の意識は肉体からはがれ落ちる。


そして、そのまま…………。

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