【雨城蝶尾】番外編・セレーヌの過去
「準騎士爵、ねぇ……」
掲示板を見ながら、セレーヌはぼそりとつぶやいた。
当時セレーヌは、十三歳にして町の兵士を負かすこともあるほど強かったのだ。
もともと兄の影響で始めた剣術だったが、身軽な身体を生かしてしなやかに剣を扱っていたのである。
「そこまでなりたいならやってみたらどうだい?」
「別にそういうわけではないのよ」
準騎士爵を持つことをすすめる兄に対して、セレーヌは首をふった。
「準騎士爵なんてどうでもいいのよ。だって私たちはただの平民でしょう? 貴族になれるわけでもないのに、なぜこんなものがあるのかしら?」
セレーヌはただ、兄が剣術が好きで、父が町の兵士だっただけである。
あくまで平民であり、意味はないと。
「そうかな? 少なくとも俺はそう思わないけどな。とっておいて損はないと思うけど? 資格と同じように、優遇措置くらいはあるはずだ」
「まぁ、兄さんがそう言うならやってみるだけやってみようかしら」
語りかけるような優しい口調だったためか、セレーヌは少し興味を持ったように掲示板のチラシをもう一度見た。
「……ん? って、これ今日だわ! 今から行って……、間に合いそうね。というか時間が余るくらいね。えーと、持ち物が剣、門の前に集合、合格者は全員の中から勝ち抜きで一名……。なかなか合格者少ないわね」
あたふたしているセレーヌは、そのまま門の前の方向へ走って行った。
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すでに行ったときには、人がそこそこ集まっていた。
「意外と大掛かりな試験なのかもしれないわ……」
セレーヌは『興味本位で近づいていいものだったのか』と少しばかり後悔する。
男性ばかりで、セレーヌは本当に紅一点だったようだ。
奇異的なものを見る目、興味を持った目など、いろいろな視線が送られた。
周りは練習をしている中、セレーヌだけぼーっとしていて、気づいたら試合は始まっていた。
セレーヌはただ戦っただけだった。
飛び入り参加なのに、まさか取得してしまうとは思わなかったのだ。
「はっきり言うといらないわよ……」
兄に言われただけであったから、特に必要としていたわけではなかった。
セレーヌが気づいていないだけだが、セレーヌは本当に強く、当時はだれにも負けなかったのである。
ただ、それも一時期だけ。
セレーヌの戦いに有利になった軽い身体も次第に成長していき、準騎士爵には釣り合わないようになっていた。
当時の実力を見せびらかしているだけのようで、セレーヌは準騎士爵を持っていることがあまり好きではなかったのだ。
一時の間違いがだめだったとセレーヌは振り返る。
だが、役に立ったことがなかったわけではないので、まだよしとしているのだ。
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「と、そんな感じよ」
「そういえばセレーヌは準騎士爵を持っていたな。あーあ、強いっていいなぁ」
「まぁ、準騎士爵を持っていてデメリットはほぼなかったわね。メリットもそこまで多くはなかったけれど」




