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【花浅葱】番外編・ルノの過去

 ヴェレニケとの争いが終わり、早数ヶ月。


 早くも寒い寒い冬がやってきた。



「はぁ……寒いぃ……」


 ルノは、ヒュンハルト王国のとある村で休んでいる。


 ヴェレニケのその後は、ルノもセレーヌも知らない。


 だが、追手が来ないことからも、もう死んでしまったのかもしれない。



「冬なんだから、寒いのも当たり前よ」


「…………そうだけど……寒いもんは寒いんだよ……」


 セレーヌは、暖を取れるように暖炉に薪を焚べている。


 そして、しゃがみ込んで炎に手をかざす。


「そうだ、ルノ」


「なんだ?」


「ルノが貴族だった頃の話をしてちょうだいよ」


「えぇ……そんな無茶振りされてもな……」


 ルノは、若干嫌そうな顔をする。



「別に、元婚約者のペルラさんとの馴れ初めでもいいのよ?」


「えー……じゃあ、俺が森に言ったときの話でも───」


「馴れ初めでもいいのよ?」


「わ、わかったからさ……」


 ルノはセレーヌの圧に負けて、ペルラとの馴れ初めを話すことに決定した。


「これは、今から大体八年前のことなんだが……」




 ***




 ───今から約八年前。


 ヒュンハルト王国のとある男爵家の領地に一人の少年がいた。


 彼の名はルノ。


 年齢は七歳であった。


 彼に兄弟や姉妹はおらず、彼の家には両親とその従者がいた。


 男爵家ならば本来子孫を繁栄させる必要があるのだが、ルノは一人っ子であった。


 それは、両親の関係上妊娠しにくかったという理由があるのだが、詳しくは追及しないでおく。



「ルノ、お前に婚約者ができそうだ」


「こんやくしゃ?」


 男爵家であるルノのところに舞い込んでいる婚約の話は、大半が『貴族』というレッテルが欲しい商人の娘ばかりだった。


 もちろん平民と貴族の結婚はさせられるわけがないが、今回舞い込んできた婚約の話は別だった。


 なんと、子爵家から舞い込んできたのだ。


 子爵家から男爵家に婚約を申し出るのは異例の事態である。


 そして、男爵家が子爵家からの婚約を断れるわけがない。


 立場が違うのだ。


「よかったな、ルノ」


 そう言って、ルノの父親はルノの頭を撫でる。


 まだ『婚約者』の意味がわからない七歳のルノはキョトンとしている。


「会談の予定はできている。一週間後にルノの婚約者、ペルラ嬢のいる屋敷に招待されている」


「わかりました」


 ルノは、あんまり内容についてわかっていないが、とりあえず返事をした。



 そして、一週間後。


 ルノと、その両親。


 そして少数の従者は馬車に乗りペルラの待つ屋敷に向かう。


 ガタゴトと揺れる馬車の窓から、外を眺めた。


 栄えた都市を通り抜けて、街離れにある屋敷に向かっていった。


 そのまま、両親に連れられてルノは屋敷へと向かう。


 屋敷の大きな門の前には、数人の衛兵が立っていた。


 従者の一人が、衛兵に招待状を見せて大きな門を開けてもらう。


 そして、そのまま屋敷の入口へと向かった。


 そして、入口前で馬を降りると……。


「ようこそ、お越しくださいました。ルノ様」


 メイド姿の女性や、執事服姿の男性がルノ一行に頭を下げた。


 ルノの父さんと執事の男性が会話をしている。


「ルノ、ここからは別行動のようだ。我々はペルラ嬢のお父様達に会ってくるから、ルノは先にペルラ嬢と会っていなさい」


「はい、わかりました。お父様」



「では、ルノ様。お嬢様がお待ちしております」


「はい、よろしくおねがいします」


 ルノは一人、執事に連れられて別の部屋に行く。


 ルノが連れてこられたのは、いわゆる応接室と言った部屋だった。


「失礼します……」


 屋敷の執事によって扉が開けられる。応接室の中にいたのは、ルノより年上の少女。


「ルノ……君?」


「はい」


 ルノの名前を呼んだのは、白髪で緋色の瞳をした少女、ペルラであった。



「やだ、かわいい!」


「…………え?」


 ペルラは、部屋に入ってきたルノのことに勢いよく飛びつき抱擁を交わす。


「キレイな金髪ね! それに、キレイな桜色のお目々! お人形さんみたい!」


「あ、ありがとうございます」


 ルノは、部屋に入った瞬間、抱きつかれ驚きが隠せていない。


「……って、自己紹介をしないとね」


 ルノの肩に手を置き、微笑む白髪の少女、ペルラ。


 ルノもお人形さんのように綺麗だったが、ペルラもお人形さんのようにキレイであった。


「私はペルラ。この家の長女で、あなたの婚約者よ」


「ぼ、僕はルノです。えっと……兄弟はいません」


「あらぁ、じゃあ私がお姉ちゃんね!」


 ペルラはそう言うと、ルノの金髪を撫でる。


 ペルラは混じりけのない純粋無垢なその髪色に惚れ惚れしてしまいそうだったそうだ。


「ルノは何歳なの?」


「ぼ、僕は七歳……です」


「あら、七歳なの? なら、私と四歳差ね!」


 当時ルノが七歳、ペルラは十一歳だった。


 現在ルノは十五歳なので、ペルラは十九歳だ。


「そうだ、私のことをペルラお姉ちゃんって呼んでね!」


「ペルラお姉ちゃん?」


「えぇ、そうよ!」


「ペルラお姉ちゃん……ペルラお姉ちゃん……」


 ルノは何度か反復して呟き、自らの体になびかせる。


「ペルラお姉ちゃん!」


「よくできましたぁ!」


 ルノとペルラは、婚約者同士というよりも、姉弟同士と言ったほうが近かった。




 ***




「……って感じかな」


 ルノは、少し恥ずかしそうに馴れ初めを語った。


「ずいぶんと仲がよかったのね」


「あぁ、正直婚約破棄なんてされるとは思わなかったんだよな。もしかして、ヴェレニケの仕業だったり?」


「笑えない冗談ね。ありえそうだから少し不安になるのよ」



「ははは、それはそうだな。でももう、俺はペルラとは会えないし会わないよ」


「…………そう」


「んじゃ、俺はちゃんと語った。セレーヌはなにかないのか? 昔話」


「え、私もするの?」


「俺はしたんだ。話さないのはズルくないか?」


 セレーヌは、黙り込んでしまう。


「俺はセレーヌが聞きたいって言ったから話したんだよ。セレーヌだって、俺が聞きたいって言ったら話してくれるよな?」


「…………しかたない……私だって聞いたんだからしかたがないわね……」


 セレーヌは一呼吸おいて話し始める。


「これは、私の昔話よ───」

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