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【花浅葱】初期への戻り

 サントの埋葬作業を終えて、ルノとセレーヌは厩に向かう。


 ヴェレニケとその護衛が機能していない今、ルノとセレーヌは自由だ。


「馬にでも乗って街に戻るか?」


「ええ、そうしましょう」


 ルノの提案をセレーヌは承諾する。


 ここから抜け出すという最終目標。


 ───それは、最終目標であり最高目標ではなかった。


「もしかしたらサントもともに逃げれたかもしれない……」


「そんなこと言ったって、しょうがないだろ」


 セレーヌが呟く後悔。励ましとまではいかないが、ルノなりのフォローをしている。


「私が……私がもっと頑張っていれば……」


 ルノの目に映ったのは、セレーヌの目に浮かぶ涙。


 彼女は、怖かったのだ。


 この状況が。



 平民出だと思っていた仲間(ルノ)が貴族出身であった事を知り。


 その後すぐに仲間の元婚約者の妹(ヴェレニケ)の嫌がらせに巻き込まれ、仲間(ルノ)が誘拐され。


 そのまま巻き添えをくらい、新たな仲間(サント)と出会い、監禁されて、新たな仲間(サント)が死にかけて。


 仲間(ルノ)の魔力が何故か覚醒し。


 そのまま仲間(ルノ)が失神してしまったところを仲間の元婚約者の妹(ヴェレニケ)の護衛と争い。


 新たな仲間(サント)が殺されても断頭台の上に乗った。


 失神していた仲間(ルノ)の目が覚めたかと思うと、仲間(ルノ)の魔力が暴走し仲間の元婚約者の妹(ヴェレニケ)を溶かして致命傷にまでもっていった。



 長かった。


 そして、怖かった。


 自分の周りが目まぐるしく変化し、貴族感の───いや、正確には貴族と元貴族の争いに巻き込まれてしまい自分の立場がどうなるかわからず恐怖を抱いていたのだ。



 ルノとセレーヌはそれぞれ鞍の付いてある馬に乗る。


 そして、手綱を持って馬を走らせた。


「幸い、ここ別荘から、街までは一本道のようね」


「あぁ、そうだな……」


 二人は馬を走らせる。


 そして、そのままヴェレニケのいた別荘を脱出した。


 ───馬の走る音だけが、ドリアギア山地の中に響いていた。



 決して圧勝とは言えなかったヴェレニケとの争い。


 ───今、ここに終結したと言っていいのは確かなようだ。




 ***




 一方、屋敷に取り残されたヴェレニケ。


 ルノの魔力の暴走が終わってもなお、ヴェレニケの顔が溶けていくのは止まらない。


 ”ビチャッ”



 頬が落ちる。


 決して比喩ではない。


 そして、ことわざでもない。


 文字通り、頬が落ちたのだ。



「───」


 ヴェレニケは護衛に『助けろ!』と懇願するような視線を送る。


 だが、誰も視線を合わせない。


 醜い物を視界に留めたくないゆえに、自分たちをないがしろにしてきた人間を助けないために、護衛はヴェレニケのことを視界の中に入れていないのだ。


 年貢の納め時。


 ヴェレニケは自らの罪を、「美」で償った。


 もう、誰も彼女を相手にすることなどなかった。


 それは、ヴェレニケの家族でさえも───。




 ***




「これからどうするつもりなの?」


「え?」


 セレーヌの疑問に、ルノは素っ頓狂な声を出す。


「これからよ。ヴェレニケのことを伝えれば上手く取りつくろってくれるかもしれないわよ?」


 セレーヌは、ルノの方を見る。


 ルノは無言で何かを考えている。


「そんなに迷うことなの?」


「あぁ、別に今更家族とよりを戻そうだなんて思わないからな」


「そうなの?」


「当たり前だ、別に家族との関係は悪くなかったしペルラとも仲は良かったけどな……」


「そうだ、もう一度質問するわよ。その婚約者、可愛かったの?」


「またそれかよ! 前答えただろ!」


「だって、聞こえなかったんだもの」


「可愛かったよ……」


「───そうなのね」


 セレーヌは小さくため息をつく。


「じゃあ、ルノは貴族に戻りなさいよ。私に貴族のしきたりとかそう言うことは知らないけど、きっと戻ったほうが幸せよ」


「そう簡単に貴族に戻れって言ってくるけどなぁ……」


 ルノがセレーヌの言い分に困惑している。


 実際、一度家から追放された人間が貴族に戻るなんてことは難しい。


 ───否、()()()()()


 だが、ヴェレニケのこれまでの悪事が暴かれて婚約破棄が仕組まれたことだと明らかになれば、ルノが貴族に逆戻りできる可能性があるのだ。


「ルノ、どう? 貴族に戻ったらきっと楽しいわよ?」


「───」


 少しの沈黙。


 そして……。


「俺は、貴族には戻らない。このまま、旅を続けたい」


「…………どうして?」


「楽しいからだよ、セレーヌといると。決して、恋とか愛とか言う感情じゃないけどな。気が置けない仲間として、追放されたあとずっと一緒にいたからな」


「───そう……」


 セレーヌは少し悲しそうな声で呟く。


 セレーヌの中には『ルノに貴族に戻って欲しい』と心中で思っていたのだ。


 ルノの過去は詳しくは知らない。


 聞いたのは、表層の一部であった。


 だが、それを聞いてセレーヌが思ったこと。


 それは『ルノに非はない』ということ。


 本当に無知な彼女のような感想だったが、時にはそんな無知も役に立つ。


「え、もしかして俺と一緒に旅するの嫌?」


 セレーヌがルノのことを考えていると、ルノが見当外れなことを言い始める。


「ん? あ、嫌じゃないわよ?」


「絶対、今嫌なときの戸惑いだった! 絶対俺のこと嫌いじゃんか! なんだったんだよ、これまでの数年間!」


「本当に嫌いじゃないわよ、私もこれまで楽しかったわよ。決して、楽ではなかったけどね」


 セレーヌはそう言ってルノの方を見て微笑む。


 ───二人は、そのまま荒地に向かう。

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