【雨城蝶尾】ペルラとサントに向けて
「もったいないなぁ、ヴェレニケ。お前は腐っても子爵令嬢だろ? いい縁談を見つけようと思えば見つけられただろうに、性格が障壁になったか」
ルノは、どろりと顔が溶けて恨みがましいような雰囲気を持っているヴェレニケを一瞥した。
護衛がろくに動いていないのも問題である。
…………ついに、ルノ・セレーヌ側の革命が始まる。
「その性格さえなければな、ははは。ヴェレニケは性格を取りつくろうのが得意だったな?」
争乱の火蓋は切られた。
「お前の姉のペルラも浮かばれないなぁ。ペルラはヴェレニケが本当に優しい妹だと勘違いしていたみたいだぞ?」
ルノがどんなにヴェレニケのことをけなしても、ヴェレニケの護衛は動こうとしない。
「そういえばお前の護衛はまったく動かないな。なんだ、ヴェレニケの指示がないとなにもしないのか? それとも、お前が十分ひどいあつかいをしていたから言うことを聞かないのか?」
しかし、ヴェレニケはなにも話さない。
「そうか、もう声帯ごとダメになったか。だからなにも話さないんだな。でも、サントの身にもなってみろよ。サントよりはマシじゃないか」
「そうよ。サントは……。サントは、あなたよりずっとひどい目にあっているから……」
そう。
ヴェレニケは、今まで余裕だったかもしれない。
身をもって体感することの大切さ、あくまで基礎的なものであるが、それをセレーヌは説いたのだ。
じきに亡くなるであろうヴェレニケと、突っ立ってままの護衛を完全に無視して、ルノとセレーヌはサントの埋葬作業に入る。
さっさと退散したら、護衛も追ってくることはまったくなかった。
「サント。お前の……」
「あなたの復讐、終えたわよ」
どうか、この祈りが。
…………サントに届きますように。
「ペルラの復讐にもなったかなぁ」
「さっきから言っているペルラってだれなのよ」
そうセレーヌが言うと、ルノがひょっとこのような顔をした。
「えっ! 言ったはずだぞ、匿名Vさんの姉で俺の婚約者!」
「あー……、そんな感じの話もあったような気がするわ」
「あまりに不憫だったからな、ペルラは。ずいぶんとヴェレニケに騙されていてな」
「もしかしたらサントとペルラさんだけじゃないかもしれないわね、ヴェレニケの被害者は……」
この報告が、サントとペルラに届きますように。




