【雨城蝶尾】セレーヌとサントと護衛とヴェレニケの戦闘
「私にお前らを殺す手段などいくらでもある!」
そう叫んだヴェレニケを見て、セレーヌとサントの顔色が悪くなる。
そもそもサントは裏切り者であるし、セレーヌはヴェレニケにとって殺す予定だった人間だ。
殺すなど、なんの造作もないことなのかもしれない。
いや、そもそもヴェレニケにとっては殺すことが目的なのだが。
「サント、ルノを抱えておいて」
すでに痛めつけられつくしたサントに言うのも酷なことではあるが、ルノの魔力を吸いとったのはサントである。
「ごめんなさい、私が足手まといで……」
「そんなことないわ。今は生きるのが優先よ」
そうセレーヌは言いながら、カチャリと音を立てて剣を構えた。
すでに一人となったヴェレニケの護衛も剣を構える。
動いたら、戦闘が始まる。
始めに動いたのはセレーヌだった。
セレーヌ自身もよほどヴェレニケが憎かったのであろう。
サントが怯えた瞳で見る中、ヴェレニケは余裕のある表情で戦闘を見ていた。
突然、ヴェレニケはきれいなガラスの容器に入った、粘性のあるどろりとした水のようなものを床に撒いた。
「…………これは!」
セレーヌが驚いたような声を出すと、ヴェレニケは余裕のあるとき特有のお嬢様言葉で言った。
「えぇ、見ての通り硫酸ですわよ。踏んだらどうなるかしらね?」
セレーヌとて、硫酸が危ないことはわかる。
だが、正確な対処法は知らない。
踏まずに戦闘を続けたら、負けは確定である。
「私、生まれもあって化学は強いほうなんです。……息はできます。その片手は戦闘に使ってください。不揮発性なので」
吸引すると危ないと思って口を押さえていたセレーヌだったが、サントの助言で剣を両手でにぎった。
「絶対に踏まないでください! 私たちは靴をはいていないので踏んだらおしまいです」
次々にサントの助言はつづく。
その間も、セレーヌは戦っている。
「石けん……とか……」
ごそごそとルノの持ち物を探る。
「あった! ありました。石けんです。液体石けんで助かりました」
キュキュっと容器のふたを開けると、硫酸があるところに撒こうとして……。
「お前さ。私の従者じゃないの?」
「…………ひぃっ」
「その行動はどうなの?」
「……ぁ……」
「なにをしようとしているか答えなさい」
「……少しでも無害化しようと……」
「もう一度言うけど、私の従者じゃないの?」
「ごめんなさい! 申し訳ございません!」
サントの怯える対象は護衛からヴェレニケに移り変わった。
「というか、なんで生きているの? 私が丁寧に殺してあげたはずでしょ?」
サントは泣きそうな表情でルノを抱きしめた。
「死ねばいいのに」
バシッ。
ヴェレニケが、サントを叩く音。
それに、セレーヌが振り向く。
「…………!」
そこをねらって、護衛がセレーヌの剣を叩き落とす。
勝ちたい。
言うは易し、行うは難し。
大体の勝敗は、決まってしまったのだろうか。




