【雨城蝶尾】ルノの昏倒
「……ご冥福を祈らないとね」
おそらく死んでしまったのであろう、いや、そう確認するのも嫌なことだ。
不潔、などということではない。
サントは優しかったから。
ルノとセレーヌを、救ってくれたから。
そのおかげで生きているとも言えたことなのだ。
だからこそ、知りたくない。
真実から目を背けたいなんて、セレーヌらしくないことだが。
「なんで……、なんでなんだろうなぁ。なんでここで殺されちゃったんだろうな……」
そう言って、ルノは瞳から桜色の涙をこぼした。
セレーヌによって布をかけられたサントに、ルノはそっと手をついて祈る。
ルノのものであろう、絶え間なく、息が整っていない呼吸音が聞こえる。
「…………?」
いつも祈っているときと同じように、小さな光の粒が撒き散らされる。
ごくごく小さなもので、暗いところだとよく見えるが、普通は見えることはない。
聖女の仕事は、土地に豊富な栄養を送り込み、農作物の豊作を祈ることである。
人のケガや傷を治したりすることはできないはずなのだ。
だから、大きい傷は治らなくとも、小さな切り傷に光が集まって治るなんでことはありえないはずなのである。
…………いままで怖くて確認しきれていなかったサントの生死が、今、確認される。
「脈……があるわ。失血で意識がなかったのかもしれないわね」
どこか、ほっとする。
でも。
「でもさ、失血なんだったら死ぬのももう遠くはないんじゃね……?」
「まだわからないわよ……」
キラキラと光る粉は絶えずルノの手から流れ落ちる。
「なぁ、ちょっとこれ止められないんだが。俺、死にかねないんだが」
「私は聖女でもないし、わかるわけないわよ」
どんどんとサントの身体の上にこぼれていき、そのまま消える。
「俺の大事な魔力が! 魔力の結晶が……!」
「ちょっと、ルノ!」
さすがにルノの顔色も悪くなってきたようだ。
セレーヌもあせっている。
「ちょい待ち、俺死ぬの? ちょっとこれは死にかねないんだが」
だが、セレーヌはできることもなく。
「えっ!? ルノ、ルノ……!」
ルノはばたりと倒れてしまったようである。
あわてたセレーヌは一度深呼吸をして落ち着いた。
「…………大丈夫、大丈夫よ……。魔力切れなら魔力を流しこめば回復するもの……」
そのとき、セレーヌの視界のはしに映ったもの。
……それは、ぴくりと動いたサントの指だった。




