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【花浅葱】いかにして殺すか

「じゃあ、サントを救う作戦会議を行おうかしら」


「あぁ、そうしよう」


ルノとセレーヌはお互い、真剣な眼差しで見つめ合う。


───ここからはおふざけなしの命を賭けた作戦会議が開始される。



「まず、サントを助けるためのにはどうしたらいいか。障害をまとめる必要があるわね」


「第一の障害はヴェレニケだな。アイツと、アイツの護衛は厄介だ」


「サントに危害を加えるとしたら、それが一番大きいわね」


「ヴェレニケと、その護衛以外に障害となる者はあるか?」


「この別荘には無さそうね……」


セレーヌは、その後にこうつけ加える。


『私の知るかぎりでは』と。


「うーん、じゃあヴェレニケ達に気をつければ問題はなさそうなのか?」


「サントを連れ出しても、このドリアギア山地をどう乗り越えるかね」


「そうだよなぁ……」


ルノとセレーヌが悩むのは、連れ出したあとであった。


このドリアギア山地を抜け出すに、問題点は数え切れないほどある。


少し例を上げてみるとするならば、『土地勘がないこと・魔物が生息していること・低温であること・食糧がないこと』など。


それ以外にも、大量に問題点は残っている。


「地図でも手に入れるか?」


ルノのそんな提案。


「でも、どこにあるかわからないじゃない。あるかわからない地図を探して別荘を探索して、ヴェレニケに捕まっては本末転倒よ」


「うーん、そうだよなぁ……」


ルノは、腕を組んで考える。



「あ……」


そして、思いついた。


諸刃の剣と呼ぶには、自らが怪我をする確率が高すぎる妙案を。




***




とある暗室。


一人の男がひんやりと冷たい風の吹く廊下を歩いていた。


彼は、ヴェレニケの護衛として雇われた男だ。


その手には、その屈強な体には似合わない小さな小さなおにぎりが二つ並べて置いてあった。


「おい、飯───」


捕縛した、聖女と姫騎士になけなしの『エサ』を与えに来た彼が、その重い扉を開けると中はもぬけの殻だったことを知った。


「どこに───」


護衛の男は、しばらくして捕らえた二人が逃げたことを察した。


「逃───げた?」


その護衛の男は、急いで忠誠を誓った少女───ヴェレニケのところまで走る。


「お嬢様! 大変です! 捕らえていた二人が逃げました!」


「───で、探したのか?」


「いえ、どこにいるかは……」


「じゃあ、探せ。そして、捕らえよ。それが、お前らの仕事だろう?」


「ハッ、ハイ! 申し訳ございません!」


「お前ら、外に出ろ! そして、厩に行って馬を用意してこい!」


「「ハッ!」」



ヴェレニケと、二人の護衛の男達は外に出る。


───すると。


「いたぞ!」


別荘の入り口から見えるのは、見事に走り去っていく二頭の馬だった。


朧げで見えにくいが、馬の背中には影が見えた。


「───ッチ」


ヴェレニケの舌打ち。


護衛の男達は、急いで馬を用意した。


「追うぞ、お前ら! 全速力で飛ばせ!」


ヴェレニケ達は、馬を追っていった。


「まだ……まだだ……まだチャンスはある…………。父様から貰った()()を使えば……」


ヴェレニケには、もう一つの切り札があった。


それを握りしめ、ヴェレニケはニヤリと笑う。


まだ、自らの野望が途絶えていないことを感じていた。


───『コレ』があれば、追いつきさえすればルノの目の前でセレーヌを殺せることが可能なのだ。


「これから私が考えるのは、いかにしてセレーヌを苦しませて殺すか、よ」




***




「ふぅ……。全員行ったみたいだな……」


ルノとセレーヌは厩の影から、馬に乗って走っていったヴェレニケ達の姿を遠目で見る。


「本当に、これでよかったのね?」


ルノとセレーヌは、二人とも肌着だった。


それはなぜか。


ルノの考えた、諸刃の剣と呼ぶには、自らが怪我をする確率が高すぎる妙案こんなものだった。



藁でまとめた即席かかしを作り、それに自らの上着を着せて馬の背に乗せる。


即席かかしを乗せた馬を逃がす。


これが、作戦であった。



この作戦、決行するには問題点が多すぎた。


それを羅列していこう。


一、馬に気付かれなければ作戦失敗

二、ヴェレニケ達全員が追わなければ、作戦失敗

三、馬が走らなくても作戦失敗

四、肌着のままなので凍死する可能性が大きくなる



「まぁ、俺らの運が良かったって言うことだな!」


ルノは、嬉しそうにピースサインを向ける。


「んじゃ、サントを助けに行くぞ」


ルノは、屋敷まで駆け抜ける。


セレーヌもその後に続く。


「んで、サントがどこにいるかだな」



「屋敷中くまなく探すわよ、時間に余裕ができたから」


ルノとセレーヌは、肌着姿で別荘の中を徘徊した。


そして、別荘を見て回って五分ほど経ったころだった。


「さて、ここにはいるかな───」


ルノが、開いた扉の中にいたのは、服を剥がされ、体中を血まみれにし瞳がうつろになっていたサントだった。



「───え」


「どうかしたの、ルノ」


セレーヌが、部屋を覗く。


そして、目の前の惨状に目を見開いた。


「うそ……でしょ?」


助けようとした人物が、もうすでに死んでいたことを知る。



「なん───」


「ルノ、見ちゃダメ」


「───んな」


セレーヌは、ルノを抱き寄せサントを見せないようにした。


それは、サントの名誉を守るためであった。


きっと、護衛の男に散々陵辱されたのだろう。


部屋の中心で眠っている彼女がされたのは、屍姦であることは一目瞭然であった。


息をしているか確かめることもしたくないような惨状。


いや、息をしていないと認めて死んだことを確定させることが怖かったのかもしれない。


セレーヌは、サントに愛着が湧いていた。


1日も共に行動していなかったにもかかわらずだ。


彼女の名誉を守るため、屍姦された彼女をルノが視姦せぬよう敬意を払った。


「───ルノ、これから考えるのは、いかにしてヴェレニケを苦しませて殺すか、よ」


セレーヌと、ヴェレニケの思いは交錯する。


お互いの思いが一致したのは、なぜだろうか。いや、答えなどでないだろう。



───それが『運命』というものなのだ。

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