【雨城蝶尾】サントの死期と救出作戦
突然、扉が開いた。
「はぁ……はぁはぁ…………」
「超息切れしてんじゃねぇか」
重い石の扉から出てきたのは、サントだった。
「ここから逃げてください」
サントはそう言って扉の外を指差した。
ルノもセレーヌも部屋に閉じ込められるときに通った、廊下。
そこの窓は開閉するための取っ手がついていて、はめ殺しではなかった。
ただ、ここでサントの言うことを聞いて逃げるならばどのような結末が待ち受けているかは明白。
「今ここで、サントを置いて逃げると匿名Vさんに殺されるだろ」
「いいんです。どうせお嬢様に殺されるのは近いうちでしょうし、もともと私に残された時間も短いんです」
サントは、どこか苦しみを隠すように笑った。
やつれているようにも見える。
「…………そうか」
「残された時間って……」
ずっと静かだったセレーヌが、疑問を口にした。
「私、死期が近い……と思うんです。お嬢様が直接っていうのもあるんですけど、それ以外にも要因があって」
「…………そう」
その空間は、静かになった。
「とりあえず、早く逃げてください。外にまだ馬車はあるので、馬を厩から出して逃げてくださいね」
「じゃあ俺らはここから出るわ」
窓は大きいものであったため、容易に外に出ることができた。
ルノとセレーヌは、室内にいるサントに向かって軽く手を振る。
「またな」
「もう会えることはないと思いますけどね」
サントはルノの別れの言葉を突っぱねた。
その割には、名残惜しそうに窓を閉めた。
「で、ここで逃げるわけねーだろ」
「そうね。少し微妙だけれど、貸しがあるし」
「まずは厩に隠れるぞ。護衛は別にして、絶対にヴェレニケは来ないからな」
忍者ではないが、忍法・消音術で厩までぐるりと走り、厩がいない部屋に入った。
「サントを助けるぞ」
「じゃあ、作戦会議ってところかしら?」
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「ごめんなさい、お許しくださ……」
グサ。
ザク。
許しを乞うサントとは逆に、聞きたくもないような音が響く。
すでに、サントは血まみれだった。
共にいるヴェレニケは、静かにナイフを突き立てている。
「……あの姫騎士を目の前で殺す計画が……。これもお前のせい……」
ぶつぶつと言いながら、サントの出血量は増えていく。
声が途切れたところで、ヴェレニケは護衛を室内に呼ぶ。
「好きに扱ってもらって構わないから」
そう言って、ヴェレニケは部屋のすみに座り込んだ。
ヴェレニケの護衛は男である。
つまり『好きに扱って構わない』、とはそういうことなのかもしれない。
もうすでに、サントは意識も飛びそうな状況である。
サントは最期にこう思っただけだ。
『屍姦だけは勘弁してくれ』、と。
それから、サントの記憶は途切れている。




