【雨城蝶尾】なんとセレーヌは有能なのだろうか
「寒いな」
「知ってるわ」
ルノとセレーヌは、サントと別々にされたのだ。
やけに通気性のいい部屋に閉じ込められた。
サントがどうなったかは知らないが、ルノとセレーヌは床の冷たさ、なにもない空間に閉じ込められた恐ろしさ、ただ単にやることがない暇人……、というのはルノだけだが、とりあえず大変なのである。
セレーヌは閉じ込められた瞬間から当たりを見まわし、ルノが拘束をとこうとしている間にすでに拘束をとき、さすが姫騎士だとルノが感心している間にはめ殺しになっている窓を叩いて強度を確かめていた。
なんとセレーヌは有能なのだろうか!
「なぁセレーヌ……」
「ちょっと、今は黙りなさい。忙しいから」
次にセレーヌが探したのは、危険物である。
特になにか仕掛けられていることもなく、脱出はできそうにないという結論に終わってしまった。
「だが、ここにかかった時間は三十秒を切っていたのだ……」
「ナレーターの役目を取らないであげてちょうだい」
セレーヌは直近の危険と脱出の経路がどちらも皆無であるとわかると、冷たい石の床に腰を下ろした。
それでもセレーヌは、剣の点検や持ち物のチェックをしている。
なんと有能なのだろうか!
「暇だな」
「持ち物の中にいろいろ食料はあるからいいけれど、それよりも暇なことのほうがルノは大変そうね。私は忙しいけど」
ルノは楽しめることが好きなため、ルノにとっては、暇つぶし案件のほうが増えてしまったようである。
「今度こそしりとりやろうぜ」
「る攻めで……ってこれ、同じくだりだわ」
「しりとり→りんご」
「わかったわよ。りんご→ゴール」
「ゴール→ルビー」
「ルビー→ビニール」
「ビニール→類似」
「ルノがそんな難しい言葉を使うのは珍しいわね。類似→巡航ミサイル」
「不吉だな。巡航ミサイル→留守番電話」
「留守番電話→ワル」
「ワルこそヴェレニケ。ワル→留守」
「留守番電話と留守をわけるのはずるくないかしら? 留守→スルー」
「スルー→ルーキー」
「ルーキー→キル」
「もう見つからない……。るるるるるるるるるるるる……」
「私の勝ちね。まさしく『キル』だったわよ」
今回、第一回戦のしりとりは、セレーヌが勝利したらしい。
そのまま、ルノは悔しさに地団駄を踏み、セレーヌは扉の外に聞き耳を立てていた。
「そういや時間はどれだけたったか?」
「十一時を過ぎたあたりよ。外から物音が聞こえなくなったみたいだから、夜ご飯はないようね」
夜ご飯は抜いてもまだ大丈夫と判断したのだろう、そのままルノとセレーヌは冷たい床に寝っ転がった。




