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【花浅葱】ルノの作戦とサントの身代わり

「さて、これからどうするかだ」


 あぐらをかいて、ルノは考える。



 誘拐犯であるおっさんにバレないようにこっそり外を覗いて見たところ、遠くに大きな城が見えたので、ここはヒュンハルト王国の中心───王都だ。


 具体的な場所はわからないが、王都近郊だということは確実だろう。


「んで、ヴェレ───じゃない匿名Vの従者さんもいるから、こっちも無視するわけには行かないな」


 ヴェレニケと呼ぶと、この少女は喚くので名前は呼ばない。


 匿名Vじゃ、ほとんど隠れていないような気もするのだけれども。



「えっと……お互い名前さえ知らないのも辛いよな。まずは、信頼を勝ち取って口を割らせるって作戦で行こう」


(その作戦、本人()の前で言っちゃ意味ないじゃない!)


 四肢を縛られ、猿轡を噛まされている少女は脳内でそうツッコミを入れる。


 セレーヌの代わりだ。


 ツッコミは一人でいいので、セレーヌはもういらない。


 ───問題はある。


 問題はあるが、会話は成り立つことができる。


「俺の名前はルノだ。15歳。こんなかわいい顔してるけど、男だからよろしくね。男だけど聖女やってまーす」


 ルノは適当に自己紹介を行う。


「んで、お前は?」


 猿轡を噛んだ状態の少女に問う。


 もちろん、猿轡を噛んでいるので返事はできない。



「…………」


「…………」


 お互いがお互いに、見つめ合っている。


(外しなさいよ!)


「こいつ、脳内に直接!」


 そんな、くだらない会話をしてからルノは猿轡を取ってあげる。


「───んで、お前は?」


「……私の名前はサントです。十四歳です。あの……あなたは、ヴェレあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇ!」


「なんでだよ! 今のはお前が自分で言っただろ!」


 珍しくルノがツッコむ。


 急いで、ルノはサントを押さえつけて猿轡を付けた。


「自分で言って自分で叫ぶやつ、初めて見た……」


 ルノは、サントから情報を聞き出すことは諦めて一人で考えることにした。



「まず、第一の問題は、これからどうするか」


 少女と会話する前にも出した、緊急の問題。


 早急に解決しなければならない問題だ。


「解決策───より先に、山積みの問題をまとめよう」


 一人、ブツブツとルノは喋っている。



 サントは落ち着きを取り戻し、その独り言に耳を傾けていた。


「次の問題は、セレーヌと別れちまったことだな」


 セレーヌと合流する必要がある。


 再会したときは、とてつもなく怒られるだろうが仕方ない。


「まぁ、俺の自業自得だから怒られるのは当たり前か……」


 そう嘆く。



「んで、第三の爆弾。───違う、問題。仕事ができないのは困るから匿名Vとのいざこざを無くす」


 早くこの国を出ていくという手もあるのだが、いつまでも追われる身では困る。



「4つ目が、サントの身柄か」


 目の前で猿轡を咥えている少女の身柄も問題だ。


 ヴェレニケの従者というのなら尚更。


「こいつを人質に……、って、ダメだな。アイツの心に他人の命は響かねぇ」


 ヴェレニケは邪悪を人型にしたような存在だ。


 誰かの命を人質にしようが、平然とした顔で見捨てる。



 1.誘拐犯から逃げる。


 2.セレーヌと合流。


 3.ヴェレニケを説得。


 4.サントを助ける。



「まずは、誘拐犯から逃げるのはどうすればいいかな……」


 ここから、逃げなければ話は始まらない。


「逆に、逃げなければ奴隷だな。女装奴隷か……、え、俺メイド服とか着たくねぇよ!?」


(感情のせわしない人……)


「───いや、違うな……」


 ルノは、気付く。


「サント、危ない馬車に乗せちまったのはすまない」


 四肢を縛られ猿轡を付けたサントにルノは、謝罪する。



「このまま、俺達は捕まったふりをして東に移動する。そのまま、ヴェレニケのところまで行くぞ」


 ルノの考え通りに行けば、誘拐犯から逃げるという1番の問題を無かったことにして、ヴェレニケを説得するという3番の問題に近付くことができる。


 その代わり、セレーヌと合流という2番目の問題から離れてしまうのだけれど。



「───ッ! そうだ、思いついたぜ……。さすが、俺。天才だな」ルノの頭の中だけで、点と点が繋がる。


 そして、サントの方を向きこう告げた。


「サント。お前、ちょっと服を脱げ」




 ***




 セレーヌの現在地はヒュンハルト王国の西側のとある村。


 ルノの情報を村人に聞いて回るも知っている人は誰もいなかった。


 忽然とルノは消えたのだ。


 家に荒らされた形跡も、争った形跡もなかった。


 ───ならば、家の中に強盗が入ってきてそのまま誘拐されたという可能性は低い。


 セレーヌは考えに考えた。



 合理的な案から、非現実的な案まで。


 その案の数は、合わせて1235通り。


 その中には、非科学的な「UFOに連れ去られた」とか「透明人間になって見えなくなった」のような案も多数ふくまれている。


 そして、セレーヌはルノ失踪事件がどのようにして行われたのか謎が解けていていた。


 靴がなかったことから、ルノは自分自身で外に出向いた可能性が高い。


 村人が何も知らないということは、聖女としての仕事はしていない。


 そして、UFOを見たという証言もないからUFOに連れ去られてもいない。


「一番合理的なのは、ヴェレニケの刺客に誘拐された……か」


 セレーヌは、ルノがいなくなってなお、冷静だった。


 ───だが、冷静ということと情が薄いということは全く同じではない。


 至って別物だ。



「私を、誘い出しているか……ね。面白い。その挑発、乗ったわ」


 セレーヌは、そう言うと急いでヴェレニケ領のある王国の東側へ移動する準備をした。




 ***




 ルノが誘拐された翌日。


 サントの服を着たルノは、馬車の荷台から飛び出した。


 ───逃げ出したのではない。


 そう、『飛び出した』のだ。


「んじゃ。サント、行ってくる。セレーヌに、俺がヴェレニケのところに行くってわかるようアピールしてくるわな!」


 誘拐犯のおっさんは、馬車に2人を放置したまま宿屋で体たらくに休んでいた。


 ルノがとった作戦。



 それは───。

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