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【花浅葱】ルノの後悔と人さらい

「ヴェレニケってな、俺の元婚約者の妹なんだよ」


「な……」


 唐突な、ルノのカミングアウト。



 ヴェレニケの挑発に、ルノが乗った理由の一部が貴族の生き様に疎いセレーヌでさえも理解できた。


 ───ルノとヴェレニケの間には、因縁が渦巻いている。



「どうしたんだよ、そんな驚いた顔して」


 ルノのあっけらかんとした言葉が、驚きと疑念の混ざり合いで固い顔になっていたセレーヌの心をまろやかにさせた。


「なんで言わなかったのよ」


「なんでって……知ってると思って」


「言わなきゃ、わかるわけないでしょう?」


「別に俺は困らないし」


「あなたねぇ……」


 セレーヌの呆れる声。


 そのまま、夜は更けていく。



 ───夜は、更けていく。




 ***




 夜が更けきって、数時間。


 空は青さを取り戻し、燦々と照りつける太陽が久々に外に出たルノを襲う。


 周りに、セレーヌはいない。


「セレーヌは心配性過ぎるぞ……」


 泊まっている宿を抜け出し、ルノは街に出た。



 セレーヌの言いつけもろくに守れないルノは、町外れの道を散歩しながら大きな欠伸をする。


「こんな長閑な街に、ヴェレニケの手下なんかいるはずないじゃないか」


 そんな、フラグのような言葉。



 ルノとセレーヌがいるのは、ドレスロードとは少し距離が離れている。


 そして、ヴェレニケの住む屋敷とは、東西が全くの逆だ。


 ルノの男爵家としての領土も、ヴェレニケの領土と隣接しておるのでここからは離れている。


 ルノ達がいるのが西側で、ヴェレニケ達の領土が東側だ。


 だから、男爵家や子爵家の輩と出会う確率は皆無だと言っていいだろう。



「ふぁああ……ここまで追手が来ているって言うなら俺はその執念に関心するな」


 ルノは一人、腕を組んで頷く。


 そんなルノにかかるのは、紅の色をした布切れだった。


「げふっ!」


 ルノは、体に纏わりつく紅色の布切れを身から剥がす。


「なんだ、こりゃ!」


「嬢ちゃん、すまないね! 風で、吹き飛んでいったようだ!」


 そこにいたのは、一人のおっさん。


 馬車の荷車で荷物を整理していたおっさんだった。


「それを、こっちに持ってきてくれるかな?」


 ルノは静かに頷くと、紅色の布切れをおっさんに手渡す。



 ”ガシッ”



「───ッ!」


「捕まえた。お嬢ちゃん、かわいいから人気のないところは一人で歩いちゃいけないって、ママから言われなかったかい?」


「やめ……」


 素早い手付きでルノの四肢は縛られ、口には猿轡を噛まされる。


「一人、乗車決定!」


 そして、荷車に載せられた。


「こいつを、東側で売れば大儲けできるぜ」



 東側。


 ヴェレニケやルノの生まれ故郷がある方角だった。


「───ッ!」


 叫ぶこともできず、ただルノは運ばれる。


 馬車に揺られてヒュンハルト王国の東へ。




 ***




 仕事を終えて、セレーヌは宿に戻る。


 一日中魔物を追って走っていたはずなのに、その額には汗一つ感じられない。


「今日は、ホーンラビットが捕れたわね」


 手に持った角の切り取られたホーンラビットを、どうやって食べようか考えつつルノが待つ宿の部屋のドアを開ける。


「ルノ?」


 セレーヌは、ルノの名前を呼ぶ。



「かくれんぼなんて、してないで出てきなさい。」


 トイレ・風呂・押入れの順に戸を開けていく。


 ───も、セレーヌの淡い桜色の瞳にルノは写り込まない。


「───外に行った?」


 そう決断したのは、一瞬だった。


 あのルノなら、自らとの約束を破り外に出ていった可能性だってあるはずだ。



 ”ダッ”



 セレーヌは、踵を返して外に出る。


 ───セレーヌの額には、汗が浮かび上がっていた。




 ***




 ガタゴトガタゴト。

 揺れる。揺れる。


 ガタゴトガタゴト。

 軋む。軋む。


 ガタゴトガタゴト。

 跳ねる。跳ねる。



 馬は、絶えず走り続ける。


 一体、どれくらいの時間が経っただろうか。


 ルノの体内時計は狂いに狂っていた。


 原因は、焦りと罪悪感の2つだ。


 捕まってしまい、冷静な判断ができず焦っていたのとセレーヌとの約束を破ったことへの罪悪感だった。


 その2つを、まとめて人間は「後悔」と呼ぶ。



 先程まで、走り続けていたはずの馬車が止まる。


 そして、誘拐犯であるおっさんがやってきた。


「国の中心までやってきたが、仔猫ちゃんはいないかなぁ?」


 そんなことを言いながら、おっさんは紅色の布切れを広げている。


 どこに止まったのかは、今のルノからは見れない。


 ただ、おっさんの声だけが頼りだ。


「あ、いたいた。んじゃ、ハントを開始しようかな?」


 そして、おっさんは紅色の布切れを投げ飛ばした。


「嬢ちゃん、すまないね!風で、吹き飛んでいったようだ!」


 ルノと一言一句変わらない誘い文句。


 この言葉で、何人もの少女を騙してきたのだろう。



「それを、こっちに持ってきてくれるかな?」


 一人の少女が、おっさんに近付く。


 ルノは『近づくな!』と叫ぼうとするも、今は猿轡を噛まされているので叫べない。


「捕まえた。お嬢ちゃん、かわいいから人気のないところは一人で歩いちゃいけないって、ママから言われなかったかい?」


「きゃあ!」


 ───そして、ターゲットとなった少女も捕まってしまった。


 ルノと同じように、四肢を縛られ猿轡を噛まされる。そして、ルノの横に少女も置かれた。


 涙を流しているその少女は、15歳のルノよりも若干若い程度の年齢だった。


「2人目、ゲット!今日はここらへんで休みかな?」


 おっさんは、そう呟いた。


 そして、ルノとその少女の方を見てニヤリと笑った。



 ───ルノの額には、汗が浮かび上がっていた。

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