【雨城蝶尾】仕事中毒者と姫騎士と
「はぁー、いつまでこの生活つづくんだよ? なあ?」
「知らないわよ、そんな。不満があるなら追い出すわよ?」
ついに『できるだけエネルギーを使わず生活プロジェクト』を始動させてしまったセレーヌに対して、ルノは文句ばかりである。
ちなみに、その『できるだけエネルギーを使わず生活プロジェクト』の概要について。
まず、セレーヌは姫騎士として仕事をする。
魔物を狩ったり、それを売ったりする仕事というわけである。
次に、ルノはただただエネルギーを使わず生活する。
泊まっている宿にて、である。
ずっとゴロゴロしたり、寝っ転がったままこれからの作戦を練ったり。
言えば、ただ寝ているだけである。
残念ながらルノは、ヴェレニケ側に存在がバレないためにヒュンハルト王国内での聖女としての仕事ができなかったため、このような対応になってしまっただけで、セレーヌに罪はない。
…………と思いたい。
セレーヌに悪意はないはずだ。
多分。
ルノがなにもしないことがどれだけ嫌いかはわかりきったことなのだ。
もちろん、『さすがに仕事できないのはきついってぇ……なぁ…………』などとほざいていたのもルノなのである。
それはもちろん、生活に不満を覚えるわけで……。
「もうヤダ。しごとぉぉ……しごぉぉぉおお!」
こんなふうに、セレーヌがひと通り仕事を終えて帰ってくるたびに『仕事がなくて暇である(意訳)』と言っているのだ。
「そんなに仕事をしたいならすればいいじゃない。ほら、そこらへんの村をまわってきなさいよ」
「それ、すごくいい考えだな!」
そうがばりと起きあがるルノ。
「よくないわよ! あの屈強な謎の男たちの仲間に見つかったらどうするのよ!?」
そして、ツッコミを入れるセレーヌ。
「それもそうだがなぁ……。しごと……」
「仕事中毒よ、それ」
セレーヌにとっては、つくづく意味がわからないらしい。
「そういえば、あれな。多分ヴェレニケと謎男はなんらかの関係があると思う」
「ちょっと待って。そんなこと聞いてないわよ!」
急な仮定にセレーヌはおどろいているようであるが、ルノはそれを気にせずに話をつづける。
「明らかにタイミングおかしいじゃん。絶対クロだって」
「ん……。…………うん?」
セレーヌは納得しかけていたのだが、どこか矛盾点を見つけたようだ。
「ちょ、ちょっと待って。結局ヴェレニケは何者なのよ?」
「え? あ、言ってなかった?」
「言ってないもなにも、なんも聞いてないわよ本当に!」
ぽけーっと反応していたルノだが、きりりとして。
「ヴェレニケってな、俺の元婚約者の妹なんだよ」




