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【花浅葱】婚約破棄の原因は

ヴェレニケ視点です。

「…………俺が言えるのはこれだけだ」


 ルノはセレーヌにこう告げた。



 セレーヌは、自らの実力と努力で準騎士爵までたどりついた。


 だから、先天的に持たされたその絶対的な権力については疎い。


 深みのあるコメントはできないのだ。


「大変、だったわね」


 こんな時にかける言葉も見つからず、セレーヌは無難な言葉を選んだ。


 それは、会話を止める返事。


 場は沈黙に包まれ、気まずい雰囲気に支配される。


 お互い、口を開かない。


 開けない。


 開けるはずがない。


 ルノは、今まで隠していた自らの過去を語り、セレーヌは今まで隠されていた過去を知った。



「それにしても、ルノに婚約者がいたなんて信じられないわ」


 場を和ませようとして、これまでの沈黙や雰囲気を振り切りセレーヌは声を出す。


「失礼な奴だな。貴族になら、誰だって婚約の話は舞い込んでくるんだよ」


「その婚約者、かわいかったの?」


 セレーヌの質問に、ルノは答えない。


「ちょっと、答えなさいよ!」


「───たよ」


「え?」


 ルノはボソボソと、セレーヌの質問に答えるので、セレーヌは聞き返す。


「うるせぇ、何度も言わねえ」


 ルノはぶっきらぼうに答える。


 さてはて、ルノはなんと答えたのだろうか。




 ***




「さて、来てくれるのかな? ルノは」


 ヴェレニケは自分の部屋のベッドに寝転がりながら笑っている。



 彼女も貴族。


 子爵家の彼女の部屋はとても荘厳だ。


「姉様に合わせてあげたいよ」


 ヴェレニケの笑みが歪む。


 悪事を考えているような、汚い笑みに変貌する。


 そして……。


「まさか、追放されたはずの婚約相手が生きてたなんて知ったら、姉様はどんな反応をするんだろう? 楽しみで愉しみで、夜も眠れない!」



 ルノの婚約者。


 それは、ヴェレニケの姉であった。


 全ては、ヴェレニケの手の中だ。


 今思えば、ヴェレニケが領主に『ルノ』という名前も女装をしているということも説明していない点において、齟齬を感じるだろう。


 だが、ヴェレニケがルノをヒュンハルト王国におびき寄せて、婚約破棄をした…………、いや、正確には婚約破棄を『させた』姉と再会させるためだとすれば全てが繋がる。


「やっぱり、楽しい……愉しいなぁ!」


 ヴェレニケは突然立ち上がる。


 そして、虚を見つめる。



「他人の人生を壊すのは!」


 そう、叫んだ。


 ヴェレニケは一人、そう叫んだ。




 ***




 ルノと、ルノの婚約者であるヴェレニケの姉、名はペルラ。


 ルノとペルラの婚約破棄の裏では、ヴェレニケが糸を引いていた。


 ヴェレニケは、ペルラが婚約破棄をするように仕向けたのだ。


 それは、何故か。



 問の答えは残酷だが、単純明快。


 そう、「他人の人生が壊れるのを見るため」だ。


 他人が、絶望の深淵に叩きつけられる瞬間をヴェレニケはその目で見たいのだ。



 他人の不幸を見るのが、自らの快楽になると気付いたのはヴェレニケが13歳のころ。


 屋敷の庭師が、クビになり浮浪者になるところを目撃した時だ。


 屋敷の従者に連れられ、屋敷から追い出されるその庭師を見てヴェレニケは快楽に浸っていた。


 そして、その行動はどんどんエスカレートしていった。


 母の大切にしていたアクセサリーを破壊したり。


 父の大切にしていた馬を逃したり。


 自分の側近の婚約者を殺したり。


 …………そして、姉の婚約破棄を行ったり。


 でも、ヴェレニケの数々の悪行に両親や姉は気付かなかった。


 好き勝手やることができたのだ。


 それもそのはず。


 ヴェレニケは世間一般での『よい子』を演じているのだから。


 ヴェレニケが疑われることとなっても、子爵という立場と両親からの信頼で守られていたのだ。



 そんなヴェレニケの心の中に、また一つの策略があった。


 次の被害者は、ルノ。


 姉の婚約破棄に付き合わされたルノ。


 その運命は、ルノに纏わりつく。


 故に、ヴェレニケにターゲットにされた。



 ヴェレニケが心の内に潜めている策略。


 それは、ルノの唯一の側近である『セレーヌ』と名乗りし女騎士を『ルノの目の前』で、殺害することだ。


 婚約破棄され、家を追放され、縋るところが無く放浪していたところを、救ってくれたであろうその姫騎士を目の前で殺すのだ。


 ルノの心の拠り所であり、居場所であっただろう姫騎士を目の前で殺すのだ。



 その性格を、領主は利用した。


 ヴェレニケは利用された側であり、利用した側でもあるのだ。



 何度も強調しているが、大切なのは『目の前で殺す』ということ。


 暗殺や、知らぬところでの死は面白くない。


 目の前で、死にゆく者を見るも、自分では何もできないという無力さに押し潰されるところをヴェレニケは欲しているのだ。



 彼女はヒルだ。


 人の『絶望』という血を求めてどこまでも這って這って這い続ける生物。


 だが、彼女は普段は隠れているので見つけることはできない。


 いや、彼女がヒルよりも恐ろしい点がある。


 それは、子爵家の令嬢という立場だ。


 その立場によって絶対的な防御壁を作っている。


 相手は、一方的に『絶望』を作り出すのにも関わらず、その被害者は攻撃不可能なのだ。



 それこそ、ヴェレニケに攻撃するためには『奴隷』のように失うものが何もない状態じゃないと駄目だろう。

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