【雨城蝶尾】聖女様……いや、男
「なあセレーヌ、そろそろ終わりにしないか?」
「そういうわけにはいかないわ、ルノ。まだ一つ、畑の祝福が残ってるじゃない」
ルノは面倒くさそうにあくびをし、落胆した。
「もう魔力が残ってねぇよ〜、村人には『明日、続きをやります』って言えばいいんだからさ〜」
ルノにデコピンをし、セレーヌは困り顔である。
「そんなことでごまかそうと思うなら、もうこの職業やめなさい。ルノ、あなたは伊達にも聖女様なんだから」
「ひでぇこっちゃい」
ルノは、対してなりたいと思ってなったわけではない『聖女様』の役割にうんざりした。
なんだかんだで面倒くさがりながらも、ルノは地にひざまずき、手を当て、魔力を流していく。
ひざまずくと地にも届きそうな金髪がきらめいている。
突然がばりと顔を上げ、ルノはセレーヌを見上げた。
「終わったぞ、セレーヌ。休憩の時間! だぜ。いやっふー!」
「そんなこと言ってると村人に疑われるわよ。『この聖女様、仕事やってんのか?』ってね。ルノの仕事がなくなるわよ」
実際、ルノはセレーヌが思っている以上に『できるやつ』である。しっかり仕事もやっている。
ただ、言動からはまったく想像できたものではない。
「聖女様! ありがとうございます」
そう言い、村の長はなにやら包みを取り出した。
今回の仕事の報酬である。
聖女はこれによってもうけているのだ。
国から補助金が支給されることは支給されるのだが、聖女のほとんどのもうけはこのお布施から来ている。
村の長に続いて、村人たちも次々に礼を述べる。
「ありがとうございます……、今年もこれで豊作でございます」
「聖女様のおかげですね」
「今年もありがとうございます。来年もお願いしたいところです」
「聖女様、ありがとうございます!」
「せーじょさま、ありがと!」
こうしてそれぞれが礼を言うなか、ルノはそれを聞き流す。
なぜか、なんとも申し訳ない気持ちになったのである。
(聖女様、か。ごめんな……。俺、男なんだよな)
そう思いながら、淡い桜色の瞳を眠たそうに細めた。
そして、腰まであるロングの金髪を掻き上げる。
見た目としては、年相応の女の子である、が。
…………この聖女様。
隠しているが、実は男なのである。