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鬼肉嗜食  作者: 白金
2/2

業務・1

『所長』マイン

年齢:26歳

身長:189㎝

体重:66㎏

性別:男

髪色:灰

瞳色:茶

装飾:片眼鏡(左目用)

人種:Unknown

武装:    (魔導)

階級:Finest

所属:相談所『便利屋』責任者

   魔術院・空間科

築20年、3階建ての集合住宅4棟が長方形を形作るように並び建つ団地の、辛うじて自動車が1台通れる小道を挟んだ向かい側に、巨大な『箱』が鎮座している。


目の前に群を成す直方体と同じ高さのソレは、寸分違わぬ立方体。

申し訳程度に取り付けられた玄関と幾つかの窓があろうと、そんな存在が霞むほど、物の見事に『箱』と言う印象を見た者に刷り込むこの大コンクリート・ブロックこそが、ここ1年余りの私の職場であり住居だ。



そして、


「オヤッそウなんデすか? ヤッぱりこんな不景気じャア、色々ト困りますヨねェ。昨夜も、もウ預金残高が少なイトかデ碧弥さんが、オかわりは丼3杯まデ、なんテ言イ出しテ……飢エ死にしチャイますヨ、わタし……エッ、何か明るイ話題? そウデすねェ……アァ、そウダ、141号室の司哉君が大学推薦合格しタの、聞きましタ? 美雪チャんは確か来年受験デすヨね? ウチの碧弥さんを家庭教師にイかがデすか? 数学トかはさッぱりデすが、文系科目には滅法強イデすヨ、彼女。アッ、デも足し算ダけならフラッシュ暗算なんテ特技も……受験じャ使エなイ? アはは、ごもットもデす」


団地中央の広場で井戸端会議に興じている奥様方の集団から、大きく上方向に飛び出た灰色頭の主が、誠に遺憾ながら、ここ1年余りの私の上司だ。



道路を横切り早足に広場へ歩む私に気づき、会話の為ずっと下げていた茶眼を上げ、ずり落ちかけた片眼鏡を直しながら、私へ普段と変わらぬ緩んだ表情を向ける彼に、最上級の営業スマイルで応じる。


「お早うございます、所長。

 何やら、3杯までしかダメなら、と、まるで山のような大盛で丼2杯もおかわりしたした人のものとは思えない愚痴が聞こえた気がしましたが?」


無論、纏う気配は本心を一切隠さないままで。


「きット気のせイデすヨ。オ早ウござイます、碧弥さん」

いけしゃあしゃあと返す我が上司。刻んでやろうか、と半ば本気で思う。


「あら、おはよう、碧弥ちゃん。今日も所長さんは相変わらずで大変ねぇ、疲れ溜まってないかしら?」


「お早うございます。

 息子さんの第一志望校合格、おめでとうございます、金山さん。お心遣い感謝します。

 山口さん、もし英語でお困りなら、是非お手伝いさせてください。他の言語も、大学受験で使えるものは日常会話くらいなら嗜んでいますから、そちらも必要となれば、どうかご連絡を」


思うが、ここは周囲への応対を優先させる。

今日のように『本業』が入るのが稀な分、平時に便利屋として働かなければ、生活すら成り立たないのだから仕方がない。



「しかし、ドウしタんデすか、碧弥さん。まダ時間はアるはずデすが?」


依頼集めに腐心するこちらの気も知らず暢気に訊ねる所長の鼻先に、胸元から取り出した懐中時計の文字盤を突きつける。

日本へ渡る前にロンドンの骨董屋で購入した時計で、掌に収まるサイズの割に凝った意匠の愛用品だ。


常日頃から欠かさず整備してあるその針は、今も正確に9時36分を示している。



「んん……? アァ、なんダ、まダ約束の10時まデ30分もアるじャなイデすか」


腕時計すら持ち歩いていないことや、6分さばよんだことに関しては不問に処す。そんな些事がものの数にも入らないほどの問題がある。


「えぇ、そうですね。ここからバイクでも20分はかかる依頼人の自宅で詳細を伺うと約束した時間まで、あと30分足らずです」


「ア……アはは……」

私の台詞に、彼の表情が固まった。

完全に移動時間を失念していたらしい。



「所長?」

「……はイ」

「やはり、忘れ――」

「今すぐにッ! 用意しテきますッ!」


――ていましたね、と続ける間もなく、私の脇を抜け事務所へ走り出した。


余りに予想通りな、この1年余りでパターン化してしまったやりとりに、ついつい溜め息をつく。




だが、ここで私が呆けていて遅刻しては、元も子もない。


意外な俊足で駆けて行った所長の背中を見送り、井戸端会議を中断させてしまった奥様方に一言詫びてから、こちらに向かった時よりも僅かに緩やかな歩調で、彼の後を追った。

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