話し合い3
クリフォードも王族として教育を受けている身であり、優秀な男だった。
もちろん外交を想定した交渉術も、相手の機微を逃さない訓練も受けている。
今のウィルネリアの表情が本物なのか、彼女が自分をどう思っているのか分からないわけではない。
しかしティシアニアの件が明らかになった今、これから先のためにもウィルネリア本人の口から返事を聞かねばならないのだ。
言葉をもらったはずのウィルネリアは、ぽかん、と音がしそうな顔だ。
美しい海色の瞳は丸くなり、可愛らしい口も小さく開いている。
そんな表情も魅力的だな、などと考えながらクリフォードは跪いたまま観察を続ける。
数秒後、意味をかみ砕き終わったのかウィルネリアの顔が一瞬にして耳まで真っ赤になった。
落ち着かない様子で言葉を探している。
「え…わたくし……?お姉さまではなく?」
「そうだ。返事が欲しい」
「え、え、お待ちください、本当に……」
「くどいぞ、ウィルネリア……いや、リア?」
そわそわしながら尚も逃げ道を作ろうとするウィルネリアに愛称を投げかけつつ、
正面から彼女の顔の両隣…ソファーの背もたれに手をつき、クリフォードは逃げ道を物理的にも塞ぐ。
「もう一度言うよ、リア。君を愛している。ここ最近の君を見ていたらすっかり絆されたよ。
どうして君のことをもっとよく見てこなかったんだろうね、私は。
そしてさっきまで君からの言葉ばかり欲しがってしまってすまない。よく考えれば、こちらの手の内を明かさずに君にばかり打ち明けろというのはフェアじゃなかった」
ウィルネリアの髪の一房をすくい上げ、口づけながらクリフォードは語りかけ続ける。
ちなみにウィルネリア本人はさっきまでの比ではないくらい顔が真っ赤で、はくはくと言葉にならないまま口だけが動いていた。
その様子にクリフォードの瞳はますます甘く溶けていく。
「ああ、可愛いなぁ。ねぇ、婚約式は終わっているし陛下に打診して婚前交渉を許可していただこうか?」
「!?!?」
「ティア…君以外の女性を愛称で呼ぶのは褒められたことじゃないな。
ティシアニア嬢とのことは完全な誤解だ、あとで彼女からの手紙を見せてあげよう。
私はリア以外の女性とするつもりも無いしね」
「す…っ!?で、でんかっ!?!?」
もはや可哀想なくらい全身を真っ赤にして、涙目のまま自分を見上げてくる美しい少女に、クリフォードは心が高揚していくのを感じた。
「リア、あとは君の気持ちだけだ」
クリフォードはウィルネリアのすぐそばまで顔を近づける。
これ以上近づいたらお互いの顔が触れ合うほどに。
「聞かせて……リア。君の口からちゃんと聞きたいんだ。
心配しなくていい、誰も君を咎めない。リア個人がどう感じているか、私の愛に応えるか否かだけでも教えてくれないか?」
至近距離で囁かれる言葉の数々に、たまらず目をぎゅっと閉じていたウィルネリアだが、
おずおずと海色の瞳をのぞかせる。
全身真っ赤ですっかり困り眉かつ涙目になった美しい少女の姿にクラリとしそうになるのを耐え、クリフォードは言葉を待つ。
「で、殿下の……お言葉を、本当に…私でいいなら……っ」
言葉とともに、またぽろりと涙がこぼれる。
「お応えさせてくださいっ、幼少の頃より、お、お慕いしておりましたっ……!」
(ああ、やっと聞けた)
クリフォードはそう思った瞬間、ウィルネリアの唇を奪っていた。
お互いに初めてだ。キスとはいえもう少しタイミングなど考えるべきだったのかもしれないが、こんなに可愛い婚約者が目の前にいるのにそれは無理な話だった。
それでも、せめてその一言があるまではと思って耐えていたからか、クリフォードは反動でかなり情熱的なものをウィルネリアに仕掛けていた。
「でん……んっ!……んぅ!?」
ウィルネリアは元々緊張して呼吸が浅かった上に唇を奪われたのも初めてだったので息も絶え絶えだったが、
クリフォードがしてくれることならと献身的に受け入れようと努めていた。
が、ぬるり、とした感触が口内に侵入したあたりで許容量をオーバーしたらしい。
かくん、と力が抜けたウィルネリアを訝しんで顔を離したクリフォードが見たのは
真っ赤な顔のまま気を失っているウィルネリアだった。
クリフォードが「やらかした」と反省しつつも、このまま既成事実を作るために寝室に運んでしまおうか悩んだのは
ここだけの話である。