道中にて
先のお茶会から約2週間後、翌月のお茶会を待たずに二人は会っていた。
理由は王妃からの二人で観劇してきてほしいという“お願い”である。
“婚約者に向かって別の令嬢を褒めるという失態を演じた息子に代わり、和解の機会を設けるので息子と一緒に出かけて欲しい”という旨を言外に含んだ、”お願い”という名の呼び出し状がエーランド侯爵家に届いたのはお茶会の翌日だというのだから仕事が早い。
劇場に向かう道中、屋敷までウィルネリアを迎えにいったクリフォードは彼女と馬車に向かい合わせに座っていた。
しかしエーランド侯爵家から現在に至るまで、クリフォードは彼女をほとんど直視できていない。
(リボン……一本だけ色じゃなくて素材を変えて、さらに宝石が縫い付けられてる……!)
下位貴族の流行をそのまま取り入れるのは、ただの上位貴族ならまだしも王太子の婚約者であるウィルネリアには難しい。
立場上、彼女はファッションリーダーとしての役目も期待されているからだ。
リボン編み込みの際に一色だけ異なる色のリボンを用いるというおしゃれを、異素材かつ宝石のアクセントを施したものを一本だけ仕込むという形に昇華させたのは素晴らしい。
が、下位貴族の流行など無視するか政略的に正しいと思われるタイミングで取り入れるのが定石である。
それを何故このタイミングで出してきたか。
理由なんてひとつしかなかった。
(可愛らしいところもあるんだな……)
可愛い、いじらしい、口に出してしまおうか、どんな態度で接するのが正解か……
道中、そんなことを考えながらクリフォードは、彼女ではなく小窓の方を眺めていた。
ニヤけそうになる顔を引き締めるためである。
──だから彼女がどんな顔でいるのか、気付けるわけもなかった。
次はもっと早く次話をあげられるように頑張ります