判明した世界
ヘブライ語とギリシャ語が出て来ますが、読めなくても全く問題有りません。
コピペして翻訳ツールを使うと読めますが、内容に意味が書かれているので無意味ですw
in principio erat Verbum et Verbum erat apud Deum et Deus erat Verbum.
直訳すると
はじめにロゴスが有った ロゴスは神と共に有った ロゴスは神であったと有る。
これはヨハネによる福音書の一文で、verbum をロゴスとしている。原文は
Ἐν ἀρχῇ ἦν ὁ Λόγος, καὶ ὁ Λόγος ἦν πρὸς τὸν Θεόν, καὶ Θεὸς ἦν ὁ Λόγος.
と言うギリシャ文字だ。
バイブル、つまり聖書では神をロゴスとし、そのロゴスの子がイエスだとしている。バイブレーションとは振動の事だ、言葉=ロゴスであり、言葉は空気の振動により発生する事から考えると、聖書をバイブルと言うのも頷ける。
だが問題は、何故この世界でその言葉が有るのか? と言う部分だ。言語自体は日本語でも無ければ英語でもない。
どちらかと言うと共通点は日本語とかなり近い。例えば今をイマと発音するし、またな! をマタナと発音する。その他にも日本語と非常に似通った部分が多い。例えばソーラン節のヤーレンソーラン、意味がわからないあの歌の意味も、この世界に来るとわかってしまったりする。
ヤーレンを 喜ぶ ソーランを 歌い手
チョイヤサー エンヤサーを 嵐に向かって真っ直ぐ進む
ノ ドッコイショを 神の助けで押し退ける
あの謎の歌の意味がこの世界でわかってしまった訳だ。
またじゃんけんの謎の掛け声、ジャンケン ポン! は、隠して準備して来い!
となる。
この共通部分は一体何なのかと考えたが、まあ今更どうでも良い。とりあえず今はロゴスと共にカーネル伯爵領へと向かい、そこで俺は魔王になる道筋を探すしかない。
一応ミウラに俺の魔法キャンセルがどうして起こるのかも聞いてみたが、わからないと言う。ただ魔法は使えないが、相手の魔法を無力化できるなら、俺はある意味有利な戦いが出来る事になる。俺はオウガなのだから、力はかなり有る。獣族とまでは行かないが、それに近い筋力は有る。
問題なのは回復系魔法や付与魔法が俺に効かない事だが、ポーションやハーブなどの薬系は効くので、そこは問題無いだろう。魔法が使えない魔王とか笑えるが、契約なのだからやらなければペナルティが来る。ペナルティは不幸、俺に様々な不幸がこの先訪れる事になる。だが魔王になろうと努力している内は起こらないので、やるしか無い。両親の死もしかして俺が魔王になる事を半ば諦めていたから起こったのかもしれない。俺になら良いが、この先俺に関わる誰かに、俺のせいで不幸が訪れるなど有ってはならない。
「リゼル、人質交換の日程と場所が決まった」
「いつだ?」
「日程は明日正午となった。場所は領内のソエトル村だ」
「ここから近いの?」
「半日で行ける場所だな、なので今から出発し、今日はソエトル村で一泊する」
「リンゴに伝えておかないとな」
「何も無いとは思うが、何か有れば君がリンゴを守るんだぞ? 我々にはそこまで庇って居る余裕は今は無い」
「無理言って残ったんだ、自分の身とリンゴ位は守るさ」
「上出来だ、では半刻後出発する」
その後俺たちはソエトル村に出発した。この世界には魔物と言う者が存在する。アニメや小説で言う冒険者ギルドみたいな組織をハンターギルドと言い、やってる事は冒険者と殆ど同じだ。
魔物も地球で言われていた魔物と全く同じで、心臓で有る魔石、つまり核も存在する。魔石は魔物の死で結晶化し、クリスタルになる。何とこんな事までわかってしまった訳だ。
魔物は人と違って珪素系なのだろう。前の世界では炭素系の動植物(人間も含め)だったので、燃えると灰になる。これに対し、珪素は酸化すると石英となる。つまりクリスタルとは珪素系化合物、珪化木など地球にあるし、クオーツなども考えると、過去地球には珪素系生物が居たのでは? と言う事に繋がる訳だ。
地球に所謂伝説に残る魔物が語り継がれているのは、もしかしてケイ素系の動物も居たのではないだろうか? それだと宝石が何故有るのかの謎が解ける。つまり宝石と言うのは、ケイ素系動物の死骸だと判明して来るだろう。つまり、この世界で言う魔石だ。
さてこう言う部分で考えて行くと、自ずと俺が魔王になる道筋に、どうしてもハンターと言う影がチラついて来る。魔王になる為には国を造らなければならない。国を造る為にはどうしても金が居る。金を得る為に一番手っ取り早いのがやはりハンターだろう。ハンターになれば強い仲間も見つかる、凡ゆる面でハンターと言うのは効率が良い。
「このユーフラテス川を上流に進めばチグリス川と合流する。その合流する場所にソエトル村が有る」
「ブフー!」
「どうした? リゼル」
「い、いや、咽せただけだよ、問題無い」
チグリスユーフラテス川だと!? おいおいもしかして俺はタイムスリップして過去の地球に居るのか? なら日本語との共通点も理解出来る。
「ち、地図とか有るのか?」
「ああ、見るか?」
「見たい」
俺は羊皮紙で出来た地図を見せて貰った。そして俺の考えは間違いでは無かったようだ。チグリス川もユーフラテス川もペルシャ湾に流れ込んでおり、黒海、カスピ海、地中海と、俺の知るあの場所との多少の違いはある物の、地殻変動などを考慮すれば許容出来る。間違い無い、俺は恐らくだが、メソポタミア文明の中に居る。
どの時代なのかはわからないが、もうここは地球だとしか思えない。確実に俺はタイムスリップしたか、平行世界に居るのか。だがここは地球である事だけは確かだろう、しかも過去の地球だと俺は思う。この発展具合から察するに、紀元前5世紀とかそのくらいだろうと考えられる。ならもしかして、過去には魔族や獣人、魔物なんかも居たのか? あれは神話では無く実は実在した生き物なのかもしれない。先程の俺の解釈が的を得て来た。
途中出没したゴブリンなどを倒し、俺達はソエトル村へ着いた。村長は俺たちを暖かく迎え入れてくれ、俺とリンゴはミウラと共に村長の家へ泊めて貰える事になった。
「成る程、ゴルモアとは未だに確執が有るのか」
「ゴルモア?」
「ゴルモアと言うのは町の名前だ。このソエトル男爵は、神都エルサラームの東に有る、ソドエラムの町出身でな、ゴルモア伯爵とソドエラム侯爵は別派閥で非常に仲が悪く、住民同士の確執も有る」
「….その近くに塩の湖とかって有る?」
「いや? 無いな、何故だ?」
「あ、いや、神都エルサラームって、西方教会の本拠地だよな?」
「具体的には違うぞ? エルサラームは神が降臨した地であり、ルビナス教の聖地でもある。西方教会が王国の国教だからそう広まって居るだけだ」
エルサラーム=エルサレム、ソドエラム=ソドム、ゴルモア=ゴモラ…..偶然の一致じゃ無いよな…..
塩の湖が無いと言う事は、ソドムとゴモラの一件、もしかして本当に核戦争でも有ったんじゃ無いか? 核兵器は無くてもそれに近い核劇魔法は存在して居る。どう言う物かは知らないが、話しを聞く限り核劇魔法は核爆発だ。死海はそれで出来たと考えれば、マハーバーラタのアグニと一致する。
「なあミウラ、魔法で硫黄を降らせる魔法とかって有る?」
「イフリートと言う召喚魔法が有るが、あれは硫黄の火の弾を召喚し降らせる魔法だ。ガーフリートエーシュが鈍った物だな」
ガーフリート エーシュは日本語に訳すと、ガーフリートは硫黄、エーシュは火だ。
燃える石、つまり硫黄、エーシュ フリート、イフリートか……..だから火の精霊な訳か。
ソドムとゴモラは燃えた硫黄を大量に降らされて滅びたと聖書には有る。つまりイフリートによって滅ぼされたのか。
岩塩とは有機化合物で硫黄化合物だ。死海は元々海だったんじゃ無くて、イフリートによってできたんじゃねえか…..ソドムとゴモラで出きたんだよ……
ちょっと待て、古代メソポタミアって言えば、ヘブライ語だ。中でもアッカド語は日本語と非常に発音が似ていると聞いた事が有る。つまり俺って今ヘブライ語を話しているんじゃ無いか? アッカド語を……
なら全部に辻褄があって来る。そういえば日ユ同祖論だったか…..
確か明治期に来日したスコットランド人のニコラスとか言う人が、日本と古代ユダヤとの相似性に気付き、調査を進め、世界で最初に日ユ同祖論を提唱、体系化したとか….
いかん、日ユ同祖論とかこの際どうでも良い。兎に角ここがもし古代のイスラエルなら、俺にも色々とやり方が見えて来る。今が古代メソポタミアの何年くらいかが解れば、多少の歴史はわかる。その辺りを徹底的に調べる必要があるな。
大凡だがソドムとゴモラは紀元前1600年前、つまり3600年前くらいの出来事だとされて居る。現在ソドムもゴモラも健在していると言う事は、今はそれ以前と言う事になる。
翌日、ミウラ隊の者達は朝早くから出かけて、付近の調査と監視に入った。ロアン側が何か仕掛けて来ないかを確認する為だ。
「今の所付近に異常は見られませんでした」
「そうか、では引き続き監視に入ってくれ」
そして正午になり、知らせが届く。カーネル夫人とその娘達を連れたロアン軍800がこちらに向かって来ると言う。
「よし、軍は下流域で待たせる様に言え、立ち合いは10名までだ」
「御意、断れば如何致しますか?」
「子供達を10分毎1人ずつ殺し、死体を送ると伝えろ。それと模倣魔法を使っていないか、夫人とお嬢様達を調べておけよ」
「御意」
脅しが効いたせいか、ロアン側は直ぐに人選をして、10人だけでこちらへ来ると返事をよこした。
「戦争でもおっ始めるつもりだったのかな?」
「交換が終わればそのつもりだったのだろうな。一応ソエトル男爵には我々に脅されてこの場を借りたと言う様に話しては居るが、奴等は腹いせにこの村を襲いかねん。一応警戒はするつもりだ。奴等がこの後進軍して来るなら一戦交えるからそのつもりでいろ」
「わかった」
だがいくら何でもそこまで馬鹿では無いだろう。公にはまだ裏のロゴスは表とは繋がっていない事になって居る。もしこの村を襲えば、それはロアン男爵が虐殺を行った事になる。そうするとロアン側にこちらが進軍する大義名分を与えてしまう。もしそれをやったとすれば底抜けの馬鹿だ。
だが俺は、その底抜けのバカを目の当たりにするのだった。
「貴様達やはりカーネル伯爵と通じておったか!」
「さて何の事だ? 我等はカーネル伯爵夫人とその子息を救う事で、カーネル伯爵に恩を打っておこうと考えただけだ。同じロゴスを冠する者として、通じる所も有るだろうからな」
「悪魔風情が調子に乗りおって! このままで済むと思うなよ!?」
「どうすると言うのだ? お前らが何を足掻こうと、我等には勝てん」
そのやり取りでミウラは確信した。こいつは間違いなく人質交換後攻めて来ると。
人質交換が終わり、無事にカーネル伯爵夫人エレノワール様、長女のエリスティア様、次女のエリーゼ様、三女のエミー奈ナ様を救う事が出来た。その他にも従者やロゴスメンバーも居た。
「リンゴ、伯爵夫人達の側に居てあげてくれ」
「リゼルはどうするの?」
「俺はちょっとやる事が有る」
「もう、リゼルだってエレノワール様と一緒に居る様にミウラ様に言われてたでしょう!?」
「まあそうだけど、ちょっと引っかかる」
俺は自分の考えをミウラに伝えに行く事にした。
「盗賊団?」
「ああ、そんな気がするんだ。そりゃ襲って来るのはロアン軍なのかもしれないが、幾らなんでもそこまで馬鹿とは思えない。だから奴等が折り返して来るとしたら、盗賊団に扮した奴等がここを襲うと思う。だからあのガキどもをもう一度捕獲した方が良い」
「成る程、それで子供達や教師達に村を襲ったのはロアン軍だと証言させるのか」
「そうだ、多分奴等は下流域で子供達とロアン男爵、そして盗賊団に扮した兵士に別れると思う。そこで数人を差し向けロアン男爵と子供達を捕獲する」
「恐らく護衛の人数はたかが知れて居るだろうな、わかった、その案承認しよう」
「そこで何だけど、俺を捕獲組に混ぜて貰いたいんだ」
「本気か? 幾ら少ない護衛だと言っても、当然それなりの手練れを配して居る筈だ」
「俺だって伊達にオウガじゃ無いんだし、魔法は俺に通じない」
「リンゴはどうする、君が守るんじゃなかったのか?」
「リンゴにはエレノワール様の身の回りのお世話と、お嬢様達の遊び相手をしっかりする様に伝えて置いた」
「食えない奴だな君は、我々に守らせる気満々では無いか」
「エレノワール様達は当然第一級の守護対象だろう? へへ!」
「君を子供として見るのは考えを改めた方が良さそうだな。まあ良い、リンゴは夫人達と共に守らせるが、君は別だ。足手纏いになる様なら切り捨てる、その覚悟で行け」
「当然!」
俺は通称影と呼ばれるツェル隊と共に、ロアンや子供達の捕獲作戦に混ざる事になった。ツェルとはヘブライ語でシャドー、つまり影と言う意味だ。そのまんまだ。
ツェルの隊長は獣族のマオさんだ。猫耳獣人のマオさんは、見た目かなり可愛いが、隊員達の対応を見る限り、かなり怖い人なのだろう。全員がピリピリして対応している。
「君かい? 子供の癖にこんな任務につきたいと言って来たのは」
「ハイ! リゼルです、お願いします」
「足手纏いになる様ならホッポリ出していくからね」
「オウガ族です、体力には自信有ります!」
「キール! お前と同じ魔族だ、面倒見てやりな」
「ハイ!」
「キールと行動しな、行くぞ」
キールは夢魔族のインキュバスだ、女性になるとサキュバスと呼ばれる種族となる。見た目はまだ15〜6才くらいの若い魔族だった。
「物好きな奴だな、こんな作戦に参加したいだなんて」
「マオ隊長って怖い人なんですか?」
「見た目はあれだが、実際あの人の配下になった運命を呪うよ」
「え!……そんなんですか」
「ああ、まあ一緒に行けば直ぐにわかる」
途中斥候に出していた者と合流した。マオ隊長は斥候から報告を受けていたが、ニヤリと笑うと、ツカツカとこちらに歩いて来た。
「お前ら、やはりその小僧の言う通り、奴等は盗賊団に扮しこちらに兵を向かわせて来やがった。私達は急ぎロアン男爵とガキどもの再捕縛作戦を開始する。全力でこれから捕縛に向かう。ついて来れなかった奴はいつも通り鍛え直してやるから覚悟しておけ! 小僧、お前も私達と行動するって事は、今回はこのツェル隊の一員だ、ついて来れない場合同様の罰を与える、わかったな?」
「は….ハイ!」
なんかやばい事になって来た……
そして….本当にやばかった。
「キールさん! 速すぎないですか!?」
「黙って走れ! 置いて行かれるぞ!?」
「置いて行かれるとどうなるんですか!?」
「10時間ぶっ通しでマラソン 7日間連続でだ。休みなど与えられない! 更に筋トレ毎日6時間、寝る時間なんて2時間程度だ!」
「……死ぬ気でついて行きます!」
「そうしろ!」
マオ隊長は獣人だ。それに猫族は足が速い、それについて行けとか無理ゲーも良いところだ!