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裏事情

 あの悪魔は言った。俺なら魔王に絶対なれると…..

 もしかして、あいつはこの事を知っていたのでは無いだろうか? 俺には魔力が無い。だがオウガの子で魔力が無い事など過去一度もあり得ない事だった。

 そうじゃない、もしかして、俺の周囲には、魔力全てを無効にしてしまう何かがあるのでは無いだろうか? それこそあの教師が言った、アンチマジックフィールドの様な物が、常に俺の周りに貼られて居たりとか….

 ならば俺が魔法を使えない理由になる。魔力が無いのでは無く、俺の周りに魔力を掻き消してしまう物が有る。そう考えれば先程の現象も、そして俺に魔力が無い事も、全て辻褄があって来る。


 だが今は答え合わせなどして居る場合じゃ無い。


「リゼル! 応援が来るよ、逃げよう!?」


「リンゴ、だけどあいつら3人とも俺は!」


「教師が1人村の方向に走って行ったわ! リゼルの家族にもしかして!」


 そうだ、こんな辺鄙な町にも一応騎士団は居る、奴等が俺の両親を襲わないとも限らない。


「くそう! わかった、走るぞリンゴ!」


「うん!」


 俺とリンゴは教師達を殴りながら、村へと走った。何人か死んだかもしれないが、今や人が何人死んだ所でどうでも良い、今の俺は魔族なんだ。

 20分程全力で走った、だが時は既に遅かった。考えてみれば、馬の速度に幾ら俺たちがオウガだからと言って、叶う筈は無い。

 村は壊滅させられて居た、俺のせいで、リンゴの家族も、俺の家族も、全員皆殺しにされた後だった。


「俺の…..俺のせいか…..俺のせいでこんな」


「うわぁぁ! 父さん、母さん!」


「俺があいつらをやったから…..」


「それは違う」


 そこには悪魔が居た。デーモン族、奴とは違う、女の悪魔だ。


「すまない、我らが町を襲った事で、この村の魔族が同調する事を恐れて、村は壊滅させられたんだ。私達もそれを危惧してここにきたが、出遅れてしまった。許せ….」


「あんたは? ロゴスの人か?」


「私の名はミウラ、ロゴスの部隊長をして居る。こんな事が起きてしまって直ぐにだが、君達はこれからどうする? もうこの村には住めないだろう? 私達で保護する事も出来る。決断は早い方が良い、まもなく町からの騎士団がこちらに来るだろう」


 行くしか無い、俺もリンゴも、もうこの辺りには住めない。


「村の人達を葬りたい、その後保護して欲しい」


「わかった、部隊の者にも手伝わせよう」


 俺達は手分けして村の人達を丁重に埋葬した。勿論村長は人種だ、逃げたのだろう。その後俺たちはロゴスの者達と合流した。リンゴは暫く錯乱していたが、今は落ち着いた様だ。


「3屑が目標だったのか!」


「3屑? …..我々の仲間が奴等の親に捉えられて居る。だから奴等の子を攫い、人質交換をするつもりだったんだよ」


 ロゴスの本隊と合流すると、学校の人種の子達が大勢捕まって居た。中には教師達もかなり居る。当然3屑も居た。


「誰が誰だかわからないから皆攫って来た様だが、君はわかるか?」


「わかるよ、なあ? ざまあねえな、ソレル」


「んぐう!」


 猿轡をされて居るので声が出ない様だ。


「成る程、その子がロアン男爵の息子か」


「うん、それでそこのションベン漏らしがミリアだ。それと治療を受けて居るのがアニータ、さっき俺が蹴飛ばしたから腕の骨が折れている様だ」


「全員無事確保出来た訳か」


「奴等を殺すなら手伝うぜ!」


「んん! んぐう!」


「いや、まだ殺さない、人質は大いに越した事は無いからな」


「それで、この馬車は何処に向かって居るんだ?」


「北のカーセル方面に向かって居る、そこに私達の根城が有る」


「カーセルに!?」


「そうだ、人種も一枚岩では無い。中には今の魔族や獣族が奴隷の様に扱われて居る現状に、疑問を持って居る人種も少なからず居ると言う事だ。中でも筆頭がカーセル伯爵で、周囲の貴族達も皆カーセル伯爵の依子だ。実はロゴスとはそんな人種達がそもそも始めた組織なんだ」


「ロゴスが人種が始めた組織!? 本当か!?」


「驚くのも無理は無いだろう、だが事実さ。大戦の時、カーネル伯爵家はそもそも侯爵家だった。当時のカーネル侯爵家は代々魔国と通商条約を結んでいて、真に魔族と良好な関係を築いて居たんだ。私達魔族は人種よりも寿命が長い、だから私も幼い時に何度もカーネル侯爵様とはお会いして居た。

 そんな時に賢者マーリンが禁忌を犯し勇者を召喚した。勇者は瞬く間に獣人族を滅ぼし、その牙は魔国へも当然剥いた。カーネル侯爵様は勇者と何度も面談し、魔国は人族に仇なす様な存在では無い事を魔王陛下と共に説いた。だが勇者は聞き入れず、魔王陛下を殺害し、カーネル侯爵家は格下げ、今の伯爵家となったんだ」


「魔国は戦わなかったのか?」


「魔国は戦っていない、今は歴史をねじ曲げて教えている。魔国は人族と争わなかった」


「何故!?」


「多くの死者が出る事は明らかだったからだ、勇者とはそれほど強かった。魔王陛下でも及ばない程にな。獣王国は最後まで戦った。だからこそ、今獣人族は少数民族となって居る。勇者は強いだけで無く、残虐だった。逆らった者達を一族郎党皆処刑したんだ、幼い子供までな。だから魔国は戦わなかったんだよ。名誉より、種の存続を優先したんだ」


 俺は前世屑だった。だから魔王という屑の頂天に立ってやろうと思った。だから奴との契約をした。だが思いとは裏腹に、これは世直しじゃねえか。俺も短い間とは言え、この世界で親の愛と言うものを味わった。ならやっぱり、世直しでも契約は守らなきゃいけないよな……

あの悪魔はこの世界を変えたかったんだろう、なら契約だけではなく、あいつの思いも背負って戦おう、俺はそう決意した。


 80人近くの人種の子供と、15人程の教師を数台の護送車の様な馬車に縛って放り込み、詠唱が出来ない様にキツく猿轡をしている。ここから先はカーネル伯爵家の息のかかった貴族の領地なので、問題なくこのまま通れるそうだ。

 カーネル伯爵領とその依子の領地では、今でも然程大きな差別無く、魔族も獣族も平和に暮らして居ると言う。


「ここからはミハイル子爵領だ、全てロゴスだから心配する必要は無いよ」


「もしかして、カーネル伯爵に連なる貴族って」


「そうだ、皆ロゴスのメンバーだ」


「ロゴスって凄えデカい組織何だな」


「巷で言われて居る様な単なるテロ組織とは少なくともちがうな。ロゴスは列記とした貴族を中心とした合法組織だよ。ロゴス以外の領地では、本当のロゴスの事を伏せて、私達の様な非合法組織のロゴスの事ばかりを拡張して伝えて居るがな」


「合法組織?」


「基本活動は魔族や獣族の保護と仕事の斡旋などが主な仕事になる。勿論我々の様な非合法な組織も有るが、表向きはそう言った活動が中心となって居る。後は元老院議員も輩出している。魔族や獣族、人族の平等を唱える者達になる。まあ君の様な子供に元老院の話をしてもよくわからないだろうが」


 いや、よくわかります、精神は大人なもんで…..


「とりあえず私達はどうなるんですか?」


「リンゴ君だったか、安心してくれ。君達はこれからカーネル伯爵領で保護施設に入り、そこから学問を学ぶ事になる。勿論そこは正しい歴史を教えている学校だ。教師も人種だけでは無く、魔族、獣族も居る。差別も無いから安心すると良い」



 その後ミハイル子爵領のロゴス支部で俺たちは一泊する事となった。捕虜となった者達は、皆魔力を封じる魔封じの首輪を付けられ、牢獄へと入れられた。


「ソレル、ミリア、アニータ、ざまあねえな」


「お前ら、こんな事してただで済むと思うなよ!」


「そうよ! パパに言ってお前たち皆殺しにして貰うわ!」


「そうか、なら言い付けられない様にここでお前たちを早めに殺しておいた方がいいかも知れねえな!」


「ひい!」


「良いか、立場弁えろよ? 今どっちの立場が上か、その腐った脳髄でも流石にわかるだろう? ファインの様にぶっ殺されたくなかったら、いい加減弁えた方が身の為だぞ!」


「ち! くそう…..」


「その変にしておけリゼル君、さて君達3人には、少しやって貰うことが有る」


「な、何をさせるの?」


「何、簡単な事だよ。この魔法スフィアに向けて、助けを訴えて欲しいだけだ。その映像をロアン男爵に送りつける」


「な、だ、誰が!」


「別にそのままで居てくれて構わない。助けを求めたくなる様にこちらがするからさ。さて撮影開始だ。続きをしたまえ、リゼル君」


「え!? ….」


 ミウラさんは俺を見てニヤリと笑った。


「ああ、そう言う事か…..」


 俺は3人のリンチを開始した。なるべく派手に泣き喚く様に、執拗に痛みを加えて居る。一方的なこう言う行為は流石に屑な俺も、当時はあまり良い気分はしなかったが、今は何も感じない。これはやはり俺が魔族として生まれたからだろうか? それとも親の仇の子だからだろうか? いじめられた鬱憤からだからだろうか? 今はどうでも良いが、この辺りを何はしっかりと認識しないと、いずれ俺はとんでもない屑になってしまうだろうな。


「ぎゃあ! パパ! 助けて! パパぁ!」


「お父様! 助けて!」


「痛い! もうやめて!」


 喋れないと意味がない、だからミウラは止めた訳だ、リンチをするなとは言ってない。この映像を送りつけて、人質交換をするって事だ。

 充分俺は3人を痛めつけた。勿論殺された両親や村の人達の分も含めてだ。キッチリと映像に収めると、一応回復魔法がかけられる。3人とも恐怖に引き攣った顔をしていた。

 勿論リンチ中俺は顔を覆面で隠しておく様に言われ、完全にテロリスト風になっていたのは言うまでも無い。


 


「人質交換に立ち会いたい?」


「うん、今回の事を最後まで見届けたいんだ」


「向こうが人質交換に応じない事も有るかもしれないよ?」


「その場合捕虜はどうなるんだい?」


「動ける者は強制収容所行きだね、動けない者はこの場で殺害する。またこっちの人質が殺されて居る場合、その人数に応じて公開処刑もする。こっちが本気だと言う事を相手に解らせる為だ。つまりかなり残虐な事もする。だから本来子供の見る物ではない」


「それでも良い、俺は両親を殺された怨みを忘れない。だから結末は見届けたい」


「….本当は保護した子供は即座に施設へ送り届けねばならないが、村のことが有るからな。良いだろう、手続きは私がしておこう」


 俺はミウラになんとか頼み込み、人質交換まで立ち会う事を許可された。リンゴも残ると言うのでそれにも許可が降りた。

 そして数日後に人質交換の答えが来た。向こうの答えは応じるとの事だ。だがこちらのメンバー2人が既に殺されていたことが発覚した。そこで教師の2人が殺され、その塩漬けの首が再び相手へ送られた。


 先方は流石に焦り、日程を早めて来た。4日後、こちらが指定した場所で、人質交換が行われる事が決定した。場所はこちらが指定した場所でなければ、次はソレルの首を塩漬けにして送ると言う内容に呼応した物だ。



「処でミウラさん、こちらの捕われてる人質って誰なんだい?」


「カーネル伯爵の奥方様と、その3人の娘さん。そして正規の合法ロゴスのメンバー数人と、奥方様達の付き人だよ」


「何でそんな重要な人を捕らえられたんだよ?」


「そもそも非合法組織の我々と、表の組織のロゴスとは、公には繋がりは無いとしている」


「そんなもん誰も信じる訳ないよ」


「当然それは承知だ。だがそれを裏付ける決定打は向こうに無い。だから向こうは揺さぶりをかけて来たんだ」


「揺さぶりを?」


「カーネル伯爵の夫人と、お嬢様達を誘拐させ、態と我々非合法組織だけにそれを公開した。つまり我々がこの様に動けば、それは明らかにカーネル伯爵家と我々非合法のロゴスが繋がって居る事の証明になる」


「表の捜索網では?」


「こんな片田舎で捕らえられているんだ、引っかかる訳がない。そもそもカーネル伯爵夫人達が捕われたのは、王都での事だ」


「エリドゥ王国の王都って言えば」


「王都エリドナだ」


「何故王都なんかで?」


「今容体の悪い国王陛下の跡目を巡って政争が起こって居るのは知っているか?」


「いや、知らなかった。確か国王には5人の子供が居たよな?」


「そうだ、先ず陛下の跡継ぎとして筆頭は正妻のマリアナ夫人の長男ステア王子。だがこのステア王子は西方教会からの覚えが非常に悪い」


「何故?」


「西方教会が人間至上主義を掲げて居るのは知って居るだろう?」


「ああ、確か魔族も獣族も亜人も、人により管理統制されてこそ、秩序が保たれる、だったか」


「よく知って居るな、大した物だ。だがステア王子の部下には魔族も亜人も多い。まあ奴隷として扱って居るのだから、それが即時教義に反すると言うわけでは無いが、王子は亜人や魔族の娘に沢山の子を設けてしまって居る。そこが教義に酷く牴触してしまって居るんだ」


「確かに多種族とのハーフは西方教会が最も忌み嫌う物だ」


「次に次男のアーチス王子だが、西方教会との仲は良好な関係を築いて居るが、軍部との仲は最悪だ」


「何故?」


「教会を重んじるあまり、軍部への配慮を怠って居る。他国との戦争になれば、軍部の力が必要だし、我々ロゴスとの諍いは軍部だよりになるだろう? なのに軍部への予算を減らし教会へ肩入れするなど本来言語同断なのだがな。我々ロゴスは第二王子を実は推している、馬鹿は使い勝手が非常に良い」


「そりゃそうだな、確かにそんな馬鹿が国王になればロゴスは動きやすいだろう」


「その通りだ。そして正妻の長女、アルビナ王女殿下だが、アルビナ殿下は今の所政争からは遠ざかり、加わっていない。だがアルビナ殿下は女神ルビナス教の敬虔な信徒で有り、彼女はルビナス教への影響力が強い。目下両殿下はアルビナ殿下を自らの派閥に取り込もうと躍起になられて居る」


「女神ルビナスって亜人の女神様だろう? 何でそんな女神様の教会を」


「ドワーフ王国、それにレイヒム大森林の影響力だ」


「レイヒム大森林て、エルフ族の国か」


「ドワーフ王国とエリドゥは良好な関係を築き、互いに貿易も行って居る。レイヒム大森林とも新鮮な果物や野菜を輸入もしている。ドワーフ王国は武器や鉱石、レイヒム大森林とは食糧事情、そう言う部分で聖ルビナス教会との関係は良好に保っておかねばならんのだ。政治的な配慮だから、この部分は西方教会も目を瞑って居る」


「あとの2人は?」


「貴族達が推して居るのが第二夫人、セリス様の子であるフォレスト王子だな。若干11才のまだ子供では有るが、学園での成績も優秀で、様々なギルドとも良好な関係を築いて居る。また国民からの人気も高い。こっちとしては一番後継になって欲しくない王子だ」


「優秀な王子って事か」


「まあな、次女のセレスフィア殿下はまだ6才、やっとこれから学園と言う子供だから、今の所政争には全く関わっていないな」


「だろうな、俺と同年代か」


「そこでこれは恐らくなのだが、フォレスト王子の派閥である貴族達が、今回の件を裏で糸を引いて居ると私達は考えて居る」


「どう言う事?」


「軍部の最高指揮官である、バレンティーノ侯爵が推して居るのは第三王子のフォレスト殿下だ。そして現在病床の陛下に代わってその職を引き継いで居るのは第一王子ステア殿下だ。貴族が王都で誘拐に遭うなど今までに無い前代未聞の事件だろう?」


「そりゃ、治安の悪化どころの騒ぎじゃ無いよな?」


「つまり軍部はロゴスの割り出しと、第一王子の失脚と言う二重の目論見があって今回の事件を起こした。一石二鳥を目論んで居ると見て間違いないだろう」



 魔王になると言うのがあの悪魔との契約だから仕方ないとして、結局ロゴスと行動するのが一番の早道だと思う。が…..こりゃ面倒この上ないな、政争とか有り得ない。

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