お味噌汁を飲みに来ないかと、いつもの公園で会う猫を誘ってみたら、逆にお味噌汁をおごられてしまった件について語ると長くなるが、1000字以内で要約すると俺は全てを捨てて旅に出ることにしたって話
仕事が終わると、いつも同じ公園によってぼーっとする。
何か目的があるわけでもない。
ただ、ぼーっとするだけ。
――だった。
ある日、猫を見かけた。
青い目をした黒猫だった。
俺はそいつにゲロシャブと名前を付けた。
ゲロシャブの身体は痩せこけ、今にも倒れそう。
社畜の俺から見ても辛そうだった。
俺は勇気を出して声をかけた。
「なぁ……俺の家に味噌汁を飲みに来ないか?」
ゲロシャブはじっと俺を見て固まり、しばらくして茂みの中へ隠れてしまった。
ああ……ダメだったか。
そう思って肩を落としていると……。
「なーん」
「……え?」
ゲロシャブがお椀を咥えて戻って来た。
かと思うと、また茂みの中へ姿を消す。
少しして木の枝を咥えて来て、お椀にコロンと入れる。
「えっと……これって?」
「なーん」
俺が要領を得ないでいると、ゲロシャブは小石や葉っぱを咥えてお椀の中へ入れていく。
中身がいっぱいになったら落とさないよう公園の水飲み場まで器用に運んだ。
「なーん」
蛇口の下にお椀を置いてこっちを見るゲロシャブ。
これは……水を入れろってことなのか?
俺は蛇口をひねって少しだけ水をだす。
お椀はすぐにいっぱいになった。
「なーん」
飲め……といことなんだろうか?
俺は恐る恐るお椀に顔を近づけて、泥が混じったその水を少しだけすすった。
「あっ……あったけぇ」
俺は泣いた。
口の中が泥まみれになり不愉快でしかない。
なのに……とても暖かく感じてしまう。
「ぎやあああ! ミィちゃぁん! ここにいたのねぇ⁉」
「ぎゃるらげきぽぴぃぱっ!」
突然、ケバいオバサンが現れると、ゲロシャブは聞いたことのない悲鳴を上げる。
どうやら飼い主のようだ。
なぜか俺の胸元へ飛び込むゲロシャブ。
その瞬間、覚悟が決まった。
逃げよう。
俺はゲロシャブを抱えたまま全力で走った。
「待てええええ! 猫泥棒おおおおおお!」
オバサンが追ってくる。
追いつかれまいと必死で逃げる。
俺は走った。
ただただ走った。
気づけば真夜中のふ頭まで来ていた。
「なーん」
ゲロシャブは俺の腕の中で大人しくしている。
星がきれいだ。
こんな風に空を見上げたのは何年ぶりだろうか。
「今度は俺が味噌汁をおごってやる番だな」
「なーん」
俺はゲロシャブの頭をなでてやる。
住んでいるアパートはペット禁止なので、数日以内に引っ越し決定。
仕事も辞めてしまおう。
見通しの立たないことばかりだが、何とかなりそうな気がする。
そう思える夜だった。