2-10 美那のお泊まり?
もう11時を過ぎていて、太陽もかなり高い。
ランチタイムが始まるまでまだ少し時間があるということで、県道に戻って、有里子さんはすぐ先にある諏訪大社前宮の参拝者駐車場に車を入れる。
機材は持たないので、また参拝ということだ。道路を渡って、石畳の参道を上がっていく。
さっきの下社春宮と違って、すごくひっそりとして古びた感じの神社だ。小さいけど、なんか風格がある。御柱も立てられている。その横に細い水路が流れ、少し先に水が湧き出ているところがある。蒼山さんと有里子さんが手ですくって飲むので、俺も真似をする。
うわ、冷たくて、ウマ! ここもGRで一枚。
ついでに、という感じで、蒼山さんが俺と有里子さんを撮ってくれて、さらについでにという感じで有里子さんが蒼山さんと俺を撮ってくれ、最後に俺が蒼山さんと有里子さんのツーショットを写真に収める。
近くに美味しいトンカツ屋があるらしいのだが水曜日は定休日ということで、ログハウス風のレストランで早めのランチ。有里子さんによると、蒼山さんのお店とちょっと雰囲気が似ているらしい。
食い終わったら、美那にメッセージを送信だ。
<――昨晩は入力中に寝落ちしてしまった。実は昨日は仕事が早めに終わって、蒼山さんがストリートバスケコートに連れて行ってくれた。そしたらそこで練習していた地元高校の女子バスケ部4人と、別の親子連れの中高バスケ部の美容師さん(男)と6人で3x3をしたぜ! 女子バスケ部4人は美那にすげえ興味を持ってた。ま、カイリーユ様のプレーがすごかったからだけどな。もちろん試合は勝利だ‼︎
――>うそ! すごいじゃん‼︎ どこの高校?
<――松本総合高校って言ってた。
――>全国レベルの女子バスケ部だよ! 何年生?
<――俺たちと同じ2年生。バスケ部だけど3x3の18歳以下の全国大会を目指してるんだってさ。そういう意味じゃ、美那とちょっと似てるよな。特にリーダー格の中村綾ちゃんって子はポイントガードだし、美那と共通してる部分があった。
――>そうか。実山学院女子バスケ部も3x3にトライしてみるってのも、ありかもね。
<――そうだよ。やってみりゃいいじゃん。5人制にも役立つんだろ?
――>じゃあ、カイリーユにコーチを頼もうかな。
「リユくん、そろそろ行くよ」と、有里子さんの声。
<――そろそろ午後の仕事の開始です。
――>うん。じゃ、がんばってね。
次は、JR茅野駅のすぐ横にある、「茅野市民館」という劇場や音楽ホールなどを備える現代的な建物だ。撮影は30分程度と短め。
茅野市役所の横を通り、県道192号を東に向かう。右折して川を渡ると徐々に緑が増えてくる。それにしても道路の番号を示す標識ってやたらと少ない。どの道を走ってるか、わかんないじゃん! こうやって車の後部座席に座っていればスマホで調べられるけど、バイクで走ってたら、わかんねえぞ。
やがて視界がひらけて、屹立した迫力ある山並みが前方に見えてくる。たぶんあれが八ヶ岳なんだろう。道路案内板によると、県道188号を泉野方面に向かっているらしい。道が登り始め、山道へと入っていく。どうやら蓼科の広大な別荘地の中に入った模様。
次の撮影場所は、有名な建築家が設計した個人の別荘。今までの美術館や博物館なんかとは種類が違う。
八ヶ岳山麓ということがわかっているだけで、詳細な場所は公開されていないとのこと。さすがの蒼山さんも場所を知らない。探しながら別荘の点在するエリアをゆっくりと走る。
「あれだ!」と、有里子さんが叫ぶ。
別荘地の奥の方にお目当の建物を発見したらしい。
「あー、違う……」
1時間ほど別荘地内をうろついたけど、結局見つからず、有里子さんは意気消沈だ。
それがどんな建物で、どんな意味を持つ建物なのか、俺にはわからない。ただ有里子さんに取ってはどうしても見たいものだったということは伝わってくる。
「まあ、見つかったからって、外から眺めて、ちょっと写真を撮らせてもらうぐらいだったんだけど」と、有里子さんは力ない声で言う。
「ユリちゃん、向こうも場所を知られないようにしているみたいだし、やっぱり先方にまたお願いしてみるしかないね」
「うん……そうする」
有里子さんがかなり落ち込んでいるので、蒼山さんと運転を代わり、後ろの席に。俺が助手席に移動する。
別荘地内の道路を出て、原村・富士見方面に。アカマツか何かの木立を抜けていく。突然視界が開けると、柵に囲まれた草地のような場所が広がっている。
「ここも別荘にするのかな」と、俺がつぶやく。
「ここは種苗――タネとか苗を育てる圃場。すぐ近くにある農業関係の大学の持ち物だよ」と、蒼山さんが教えてくれる。
蒼山さんは、俺の疑問に対して、教えてくれる場合と教えてくれない場合があるけど、それは蒼山さん独自の何らかの基準によって分けられている気がする。
「八ヶ岳登山口」という看板を過ぎて1分ほどで「八ヶ岳美術館」の駐車場に到着だ。割と軽めの機材で、30分程度で撮影を終える。
諏訪湖の方に戻って、ガソリンスタンドで給油してから、上諏訪駅近くのビジネスホテルに投宿する。ホテルから歩いて5分ほどの中華料理屋で早めの夕食。炒飯とか麻婆豆腐とか餃子とかを頼んで3人で分け合って食べた。
蒼山さんは遅くとも金曜日の夜には家に戻らなければならないらしい。駅ビルのコーヒーチェーン店で今後の予定について相談だ。今回は俺も話し合いに加わる。というのも、蒼山さんがいなくなると、俺が有里子さんの補佐を全面的にしなければならなくなるからだ。
明日、八ヶ岳の東側を回って、軽井沢に戻り、蒼山さんは家に帰ることになった。そうすっと、明日の夜は別荘に有里子さんとふたりか……。ま、でも同性愛ということだし、意識することないな。と、考えつつ、思いっきり意識してるな、俺。
ホテルの部屋に戻って、美那に今日のレトロなUFOとツリーハウスみたいなもの――「空飛ぶ泥舟」と「高過庵」いう作品らしい――の写真をつけて、メッセージを送った。
すると美那から電話がかかってきた。
「なんか、楽しそうじゃない」
「まあな。仕事自体は基本、機材運びだけど、美術館とか博物館とかが多いし、蒼山さんもおもしれえし、有里子さんもそれなりに気を遣ってくれるしな。移動中は観光気分も味わえる」
「そういえば、野球部は今日、準々決勝で負けちゃったよ」
「へぇー。ま、俺はあんま興味ないけど」
「だろうね。ところで今、リユん家」
「かーちゃんの食事に付き合ってくれたのかよ」
「……ちがう」
「家の方か……」
「うん。お母さんのお兄さん、タカシ兄ちゃんの父親じゃなくて、長男の伯父さん夫婦が来て、なんかリアルな相談してる……」
「そうか……」
「そんなわけで、今晩はリユの家に泊めてもらう」
「……」
困った時は俺の家を使え、って偉そうに言っちゃったし、イヤとは言えない。それにかーちゃんがOKしたなら、俺がなに言っても無駄だし。いや、むしろかーちゃんが勧めたに決まってる。
「リユの部屋を使わせてもらおうかなぁー」
「いや、それは絶対にダメ!」
「冗談に決まってんじゃん。ちゃんと部屋を用意してもらったから。部屋はわたしの方で片付けさせてもらいました。とりあえず箱とかを端の方に除けて、掃除とかしたくらいだけど」
まあどう考えてもかーちゃん主導だな。
「加奈江さん、忙しそうだから、わたしが夕飯作ったんだよ」
「そうか。サンキュな。バイトはあと5日もあるのか。早く美那とバスケしてえ」
「うん。わたしも。じゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
諏訪大社でのお願いを神様は聞いてくれるかな?




