表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/56

2-7 30世紀の入り口と松本の女子バスケ

 7月23日火曜日。

 早く起こすかもしれないと言われていたが、朝5時過ぎにドアのノックの音で目が覚めた。

「リユくん、急遽きゅうきょ、松本に行くことになったから、悪いけど起きて!」

「あー、はーい」

 早起き習慣がついているとはいえ、突然起こされるのはちと辛い。が、仕事だ。

 もう蒼山さんも起きていて、脳をくすぐるようなコーヒーの香りが漂ってくる。

「リユくん、すぐ支度して。朝ごはん食べたら出るから。わたしたちは先に食べ始めとく」

「了解です」

 俺がダイニングルームに行くと、すでにふたりはうまそうな朝食を食べながら、Macを開いて、打ち合わせをしていた。

 昨日買った食パンに、レタスとロースハム、それにスライスしたチーズを挟んだサンドイッチだ。たぶんこれも蒼山さんだろう。なんかつくり方がプロっぽいもん。そしてプロの淹れた苦味と甘味が抜群のコーヒー。

 メンテのために別荘に入れた機材をCX―5のリアゲートに戻す。

 軽井沢はまだ雲が重い。

 車が2台すれ違えるくらいの別荘地内の道路を抜けて、浅間サンラインという道路に出る。道路標識だと県道80号。これを長野・上田・諏訪方面に進む。

 すぐに両脇の木立が切れ、視界が広がる。

 バイクで走ったらマジ気持ち良さそう。そして、それももう夢じゃないんだと思うと、なんか不思議な気分だ。

「蒼山さん、今朝のサンドイッチ、美味うまかったです」

 と、俺は後ろから助手席の蒼山さんに話しかける。

「リユくん、あれユリちゃんが作ったんだよ。コーヒーは僕だけど」

「わたしじゃ、あんなのできないと思った? サンドイッチはわりと得意なのよ。って、実は蒼山さんからコツを教わったんだけど」

「そうだったんですか! 失礼しました! じゃあ今度、僕に伝授してください」

「いいわよ」と、有里子さんが笑う。

「コーヒーは?」と、蒼山さんが聞いてくる。

「いや、もちろん言うまでもなくすごく美味かったです」

「よかったー」と、蒼山さんがおどける。

「階段を降りてきて、うわ、すっげーいい香り! と思いましたから」

「ほっとしたよ」

 蒼山さん、わりと冗談がお好きなようです。ユーモアのセンスがあるんだな。なんかホッとできる。

 野菜直売所を左折すると、両側には畑が広がる。やがて県道131号に。

 やっぱり地方の道はいいな。信号がぜんぜんない。早くZ250で来たい。気持ちいいだろうなぁ……。

 小諸市役所こもろしやくしょの案内板が出ている。いつの間にか小諸市に入っていたのか。T字路に当たったところで、蒼山さんが「そこ右ね」と指示を出し、有里子さんは、「小諸IC・懐古園かいこえん」が表示される右折レーンに車を進める。右に線路を見て、CX―5は走る。

 なんかおそろしいほど全体に赤さびが浮いた歩道橋が線路と道路をまたいでいる。大丈夫なのか? 駅を過ぎて、懐古園入り口の看板もスルー。左折して、細い道に入る。道はどんどん狭まっていく。

 突き当たりに、小山敬三こやまけいぞう美術館と言う看板。まだ6時台だから、当然開館していない。

 有里子さんは車を入り口に横付けする。

「押さえに数カットだけ撮ってくるから、車で待ってて」

 と、有里子さんは言うと、後部座席に置いてあった小さなカメラバッグを持って、ひとりで中に入っていった。

「大丈夫なんですか? まだ開いてないですけど」

「うん。事前に連絡してあるから」と、蒼山さん。

「そんなもんなのかー」

「普通はあんまりできないんだけど、僕はちょっとコネがあるから」

「なるほど。ちょっとくらい降りても大丈夫ですかね?」

「ああ。どこかに行っちゃわなきゃね。いなきゃ、置いていくまでだけど」

「ちょっと降りて、写真でも撮ろうかと」

「それならいいんじゃない?」

 というわけで、俺は車を降りて、寅さんの像が立っている「こもろ寅さん会館」の写真を思いっきり逆光で撮った。GRを借りる時にかーちゃんから仕事に迷惑をかけるなと言われていたのを思い出し、有里子さんが戻る前に車に乗り、シートベルトも締める。

「そんなに慌てなくて大丈夫だよ。ユリちゃんと一緒に車に乗れば」と、蒼山さんが優しく笑う。

 戻ってきた有里子さんは、来た道を引き返し、すぐにさほど広くない左の道に折れる。

「こう見えても昔の街道なんだよ」と、蒼山さんが教えてくれる。

 道なりに進むと、右手に赤い鉄橋が横たわっている。道は曲がっていて、車は鉄橋に入っていく。鉄橋を渡る時って、ちょっとした興奮を覚える。下を流れる川は割と広くて、流れも速い。大きな河川の中流なのかな。

 蒼山さんがどこかに電話をして、「今、千曲川ちくまがわを渡ったところです」と、言っている。

 下は千曲川か! 地理で習ったよな。

 T字路を小諸方面の案内とは逆の左に曲がって、緩い登り勾配の大きなカーブを抜けていく。

 右側に「安藤百福あんどうももふく記念 自然体験活動 指導者センター」という看板が。右折でそこに入り、滑り止め加工のされた舗装路を登る。

 安藤百福? どこかで聞いたことがあるような。

「あ、カップヌードルの」と、俺がつぶやく。

「お、よく知ってるね」と、蒼山さんが反応してくれる。

「横浜にカップヌードル・ミュージアムがあるから。行ったことはないですけど」

「あ、そうか」

 森の中に黒っぽい屋根だけが連なるように見える建物。

 建物の脇を過ぎ、裏手の駐車場に有里子さんが車を停めると、建物からつなぎを着た20代くらいの男の人が出てきた。

 蒼山さんが先に降りて、その人を話をしている。

「じゃ、リユくん、今日も頼んだよ」と、有里子さんがリアゲートを開けながら言う。

「了解です!」

「ここは内部も撮影させてもらうから、三脚とかをどこかにぶつけないように気をつけてね」

 運ぶ機材は少なめだ。でもカメラバッグを肩に下げ、片手に低めの脚立という状態。三脚は有里子さんが持ってくれた。

 蒼山さんが職員に、「長谷部さんの助手の森本くん」と、紹介してくれる。なんかちょっと誇らしい気分だ。

 この建物では、有里子さんはじっくりと撮影していく。普通に立った高さ、腕を上げた高さ、しゃがんだ高さ、そして低い脚立に立った高さ、といろいろな角度で撮影する。光の弱い場所では三脚も使う。

 木材がふんだんに使われた内部はオブジェのようなデザインで、かつ機能的にもなっているようで、気持ちいいし、すごく落ち着く感じだ。

 空間のゆったりした入り口はもちろん、談話室や大会議室、宿泊用の部屋、食堂などを撮影する。食堂にはまだお客さんはいないけど、朝食の匂いが漂っている。

 それから少し雲が薄くなり始め、最後は外観を撮影だ。

 今回はレンズを交換する機会はなく、機材を運ぶだけだった。そうか、予定が変わったからな。

 1時間ほどの撮影を終えてセンターを出る。まだ8時前だ。道を戻り、諏訪方面に入る。千曲川沿いの県道は道が細く、すれ違いさえできない部分もある。千曲川に流れ込む支流を越えたら、T字路で左折して立科方面に。

 やがて千曲ビューラインという、見晴らしの良さそうな名前の割には両側が木立に囲まれた街道に出る。ときおり遠くに山は見えるけど……。ただ、大きな左カーブを曲がるときに、山並みと裾野の街がバーンと広がっているのが見えて、ちょっと感動。

 道の周りが開けてくると、ようやく道路標示に「松本」の文字が出現する。進行方向にはいくつもの山が連なっている。それらの山を手繰たぐりせるようにしてCX―5は進んでいく。国道152号線を越え、再び千曲川をまたぐ。

 空を覆う雲の底はだいぶ明るくなってきている。

 青い田んぼに挟まれた長い直線を行くと、山並みがぐんぐん近づいてきている。そして左折が「松本」。

 今は有里子さんの運転で、蒼山さんのガイドはあるし、車のナビもあるからいいけど、バイクの場合はスマホの地図アプリを頼りにするしかない。ツーリングに行くようになったら、ハンドルバーにスマホを取り付けるベースを買わなきゃな。

「有里子さんは、ツーリングに行くとき、地図はどうしてるんですか?」

「事前にある程度ルートを頭に入れておいて、ハンドルに取り付けたスマホを信号待ちとかに見るかな。それでもしょっちゅう道を間違えるから、停まっては確認して戻ったりとか、けっこうあるわね」

「やっぱそうなんだ」

「その点、蒼山さんはいいわよね。大きな道はほとんど頭に入ってるもの」

「長野県内はね。ミニにはナビが無いから、必要な時はスマホを付けるよ。東京とか横浜に行ったら、さっぱりわかんないから」

 やがて遠くに見えていた山が迫り、道はその間を抜けていく。ロードサイドには家屋が多い。低い山が目の前にあるT字路を右の「松本」方面へ。松本まではあと30キロだ。

 松本方面に曲がった後の路面は、アスファルトが黒くて、ペイントもまだくっきり白い。できたばかりのバイパスらしい。しばらく行くと、また年季の入った路面に変わる。

 トンネルを抜けると、山国に入った感じになってくる。

 国道254号を走っているのだが、「この先、有料道路」の看板。やがて「三才山トンネル有料道路」のゲートが出現する。国道にも有料道路部分があるんだな。

 ETCは使えないらしく、有里子さんは蒼山さんから渡された550円を、ブースのおじさんに渡す。料金表を見るとバイクの区分になる軽自動車は410円。けっこう高いのな。

「ここはもうすぐ無料化されるらしいんだ」と、蒼山さんが教えてくれる。

 長い三才山トンネルを抜けると、松本市街地まで14・5キロの表示。

 そこからは、ゆるやかにくねる国道254号を爽快に走り抜けていく。建物もなく、時折、「信州松本の地酒」といった看板がぽつんと登場したりする。

 美鈴湖の案内を抜けると、視界が開けはじめ、山里の風景が現れる。そして久しぶりに横断歩道が出現。もう松本市に入っているらしい。

 そしてまた有料トンネルの看板。やがて、右は「長野道・松本トンネル有料道路」、左は「松本市街」という道路案内が。広い駐車場のコンビニの横を通り、左の道に入る。

 県道284の表示。景色も開けて、松本市総合体育館などの案内もあり、市街地に近づいたことを知らせる。

 久しぶりの交差点を、「上高地・松本市街地」方面の右に曲がる。キッセイ文化ホールと総合体育館の横を過ぎ、松本城の案内を抜け、分岐路を松本駅方面の左に入る。

 信州大学の横を通り過ぎると、道が細くなり、街並みがごちゃごちゃし始める。信号でも車の列ができている。

 松本城方面に右折する。松本城のお堀のところを左折。突き当たりのテレビ信州を右に折れ、次は塩尻方面に左。そして細い一方通行の路地に曲がって、車はコインパーキングに入った。

 9時10分。1時間ちょっとの行程だ。

 リアゲートを開けながら有里子さんが、「ここから3箇所は歩きになる。外を歩く距離はせいぜい20分だけど」と、言う。

 有里子さんは首から一眼レフカメラを一台下げ、肩にはナイロンのカメラバッグ。俺はアルミケースを肩に掛け、3段のアルミ製脚立を持つ。今回は三脚はバッグに入れられて、蒼山さんがそれを引き受けてくれる。

 路地から通りに出ると、「すぐそこに見えるビルが次の撮影対象」と、有里子さんが指を差す。サードミレニアムゲートという名前だそうだ。なんと30世紀の入り口みたいな意味らしい。確かに直訳すると、第三の千年紀の門、か。

「21世紀生まれのリユくんなら、30世紀の入り口に立てるかもしれないな」と、蒼山さんが言う。

「いえいえ、22世紀ならともかく30世紀は無理でしょ」と、俺は応じる。

 打ちっ放しコンクリートの壁が屹立する変な形のビル。しかも壁は途中で浅く折れ曲がっている。

 有里子さんは歩いては立ち止まり、その度にシャッターを切る。

 雑居ビルになっていて、ときどき人の出入りがある。

 俺と蒼山さんを待たせて、有里子さんはひとりで歩き回り、いろいろな角度から撮影していく。

 雲はかなり薄くなってきたけど、まだ太陽は顔を見せない。

「たぶん、本番は明日の朝だな」と、蒼山さんが空を仰ぎながらつぶやく。

 15分ほどで撮影を終えて、次の場所に移動する。路地を抜け、大通りを歩く。

 次は「松本市美術館」。

 建物正面には、平面ガラスを大きく使っている。

 その巨大なガラス面にはいくつもの大きな赤い水玉が貼ってあり、黄色とピンクを使った一羽の蝶が舞っている。建物の前には、毒々しい巨大なチューリップ(?)のオブジェが鎮座している。

 内部の撮影は通常は難しいらしいけど、美術館の責任ある人に同行してもらって、デジタル複製といったアート作品の著作権問題が発生しないように配慮しつつ、すでにちらほらいる来館者の個人が特定できないようスローシャッターで撮影させてもらう。ストロボは使わない。そのため三脚が大活躍する。つまり俺は忙しい。

 そのあとは、通りの反対側、ほんの1分ほどの距離に建つ「まつもと市民芸術館」という音楽ホールや劇場を備えた建物を訪問する。

 直前に撮影した美術館とは対照的に、こちらは細長いガラスとパネルを使って曲面を出している。

 ここはメインとなる大ホールの舞台からの撮影もある。なかなか壮観な光景だ。小ホールや仮設劇場なども撮る。

 午前中はこれで終了。午後から陽が出てきそうなので、外観や屋上などを撮影する予定で、三脚や脚立は預かってもらう。

 近くの蕎麦屋そばやで早めの昼食。けっこう本格的な蕎麦だ。ただカツ丼とかはなくて、俺にはやや物足りなかった。

 ふたりの予想通り、12時半を過ぎると太陽が街を照らしはじめる。市民芸術館の緑化された屋上やそこからの風景を撮影した後は、3箇所の外観を時間をかけて撮る。

 今朝は早かったので、午後3時には俺は業務終了だ。

「わたしは日暮れを待って、もう一度撮るから、蒼山さんとリユくんは先にホテルにチェックインしておいて」

 蒼山さんが有里子さんからCX―5のキーを預かり、ふたりで塩尻に予約したホテルに向かう。夜7時ごろ、有里子さんを迎えにくる手筈になっている。急遽きゅうきょ、松本に来ることになったから、松本周辺では適当な宿が見つからなかったらしく、となりの塩尻市になった。

 車の中で蒼山さんが、「チェックインしたら、いいとこに連れてってやるよ」と、言う。

 もちろんどこか聞いても教えてくれない。蒼山さんの「いいところ」なんて、怪しすぎる。

 長野自動車道の塩尻北インターチェンジにほど近いホテルで、俺もシングルルームにひとりだ。

 4時前に蒼山さんから電話が来た。自由に使えるストリートバスケコートが近くにあるから連れて行ってくれると言う。マジか!

 Tシャツと短パンにバッシュを履き、ボールを持ってロビーに行くと、蒼山さんも似たような格好。だけどさすがに足元はランニング用スニーカーだ。ちゃんとバッシュを履いている俺を見て、蒼山さんは肩をすくめる。

 ホテルから車で10分ほど行くと松本空港がある。その周囲に広がる公園にさまざまなスポーツ施設が配置されていて、滑走路のすぐ脇にそのストリートバスケコートがなんと4面もあり、ラインもしっかり引いてある。その隣には壁打ちテニスのコーナもある。

 夏休み期間とはいえ、平日の昼間なのでコートは2面しか使われていない。一番奥の1面は小学生の男の子と父親らしき2人が遊んでいる。ひとつ挟んだ3番目のコートは女子高生らしき4人組で、こちらは動きも本格的で気合も入っているから、バスケ部っぽい。

 俺たちは4番目のコートを使う。

 で、蒼山さんのバスケはというと、俺が言うのもなんだけど、割と基礎はしっかりしている。もちろんブランクがあるので、キレはまったくないけど……。あと、中学のバスケ部時代に膝を怪我したそうで、あまり激しい動きはできない。だから蒼山さんは、パスの練習相手やシュート練習のパス出し、それに球拾いもやってくれる。

「リユくんはバスケ始めてどのくらいなんだっけ?」と、パス出しをしながら蒼山さんが聞いてくる。

「1カ月と10日くらいです」と、レイアップシュートを決めた俺が答える。

「へぇー」と、蒼山さんは答えると、無言のまま、ダイレクトやワンバン、トスなど、いろんなパスを出してくれながら、なにやら思案している様子。

 30分ほど練習して、「ちょっと休もうか」と、蒼山さんは言うと、休憩でコートに座ってくつろいでいる隣の女子高生たちに声を掛けに行くではないか! ナンパのはずはなく、なんと同じ高校生の俺と練習してやってくれないか、と頼んでいるらしい。確かに彼女たちも俺のプレーに注目はしていたっぽい感じはあった。

 蒼山さんが俺を手招きする。

 4人は時折俺を見ながらこそこそ相談して、やがて全員がうなずく。どうやら交渉が成立してしまったらしい。

「というわけで、リユくん、俺では役不足なんで、彼女たちが練習に付き合ってくれるそうだ」

 ひとことくらい相談してよ、と思ったが、ありがたい話でもある。

 4人が来て、いかにもリーダーっぽい子が話しかけてくる。

「わたしたちは近くの私立わたくしりつ松本総合高校の2年生でバスケ部員です。塩尻にあるけど、松本市から移転してきたから、松本って名前なんです。部活とは別に3x3、18歳以下の長野県予選に出ようと思って、練習していたところです。わたしはナカムラ・アヤと言います」

「俺は横浜の、同じく私立の横浜実山学院高等部2年のモリモト・リユウと言います。みんなは〝ウ〟を省略してリユと呼びます。俺は部活はしてなくて、幼馴染のバスケ女子に3x3のチームに引き込まれてバスケを始めて、今はかなりはまってます」

 アヤちゃんは美那より少し身長が高いけど、170はない感じだ。ほかの3人がバスケ少女らしいショートなのに対して、短めのポニーテール。愛嬌のある顔立ちだけど、気の強そうな目をしている。

「ちょっと練習を見てたけど、始めて1カ月半くらいってほんとなの?」

「うん。だけどそのバスケ女子に毎朝鍛えられて、自主練もして、それなりにバスケらしくなってきてはいると思うけど。俺たちのチームは一般の3x3大会男女混合に出る予定で、あと2人は大学生」

「そうなんだ。フツーにバスケ部だと思った」

 ほかの3人もうなずく。

「でも一緒にやったらたぶん変な動き方するから、すぐわかると思うよ」

「へぇー、おもしろそー。じゃあ、1on1をしようか? アオヤマさんは無理なんですよね? 全部で6人だから3対3でできますけど」

「いや、僕はほんと無理。おじさんだし、膝をやっちゃってるし」

 そんな話をしていたら、一番奥で遊んでいた親子がやってきた。

「こんにちは。みなさん、うまいですね。これから試合でもするんですか? 息子も疲れたみたいだし、よかったら審判しますよ。基本、5人制しか知らないですけど」

 蒼山さんと同じくらいの年齢――たぶん30代のなかば――の父親が話しかけてきた。

 こういうことってあるんだな。

「僕は膝を怪我して、ゲームは無理なんですよ」と、蒼山さんが答える。

「そうなんですか。じゃあ、わたしを混ぜてもらえませんか? あ、わたしは、塩尻市内で美容室をやっているナカノと申します。こいつは息子のリョウヘイ、小学校3年生。一応、中高とバスケ部だったんで、それなりにできます。一度、3on3ってやってみたかったんですよ」と、ナカノさん。

 また女子バスケ部の4人が相談。同じようにうなずく。たぶんナカノさんのことも観察していたのだろう。

「わたしたちはいいです。リユくんは?」と、アヤちゃん。

「あ、俺ももちろんOKです」

「ナカノさん、3on3じゃなくて、3x3のルールですけどいいですか?」と、アヤちゃん。

「あ、そうなんだ。どっちにしろ、あまりルールは知らないんだけど。3x3はポイントが1点と2点というくらいは知ってる」

 アヤちゃんがナカノさんと蒼山さんに、5人制バスケと3x3の違いをかいつまんで説明している間、3人がそれぞれ自己紹介をしてくれる。

「うちはオガワ・キョウカです。京都の香りと書きます。ポジションはシューティングガード」

 京香ちゃんは160弱かな。

「わたしはヤマモト・リサ。カタカナでリサ。ポジションはスモールフォワード。あと、アヤは糸偏の言葉のあやとかの綾で、ポイントガード」

 リサちゃんは美那と同じくらいの背丈だ。

「わたしはムラカミ・ハルコ。季節の春に子供の子です。ポジションはセンターです。よろしく」

 春子ちゃんは一番背が高くて、たぶん170センチを超えている。

 4面もコートがあるのに、見知らぬ3組がひとつのコートに集まって、練習を始める。なんか不思議な感じだ。

 俺はナカノさんのことはさっきは全然見ていなかったけど、中高バスケ部だけあって、ドリブルやシュートのフォームは決まっている。でも蒼山さんと同じで動きは鈍い。

 10分ほど同じコートで練習したところで、綾ちゃんがチーム編成を提案する。

 俺は男をひとりずつ振り分けるのかと思っていたけど、玄人の目は違うみたいだ。

 綾ちゃんが男2人と組み、京香・リサ・春子のチームと対戦ということになった。綾ちゃんのリーダーシップ感は美那とちょっと似ている。このことを美那に話したら、チョー喜びそうだ。でもそれには勝たないとな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ