2-6 有里子のカミングアウト
【タイトル】
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2021-10-28 19:14:10(+09:00)
【公開日時】
2021-10-29 07:26:34(+09:00)
【更新日時】
2021-10-29 07:26:34(+09:00)
【文字数】
8,502文字
【本文(189行)】
「蒼山さん、一緒にご飯、食べてく?」
「そうだね。ずっと天気悪そうだし、たぶん計画も再検討した方がいいね」
「車は駅の町営駐車場よね?」
「そう」
最後の撮影場所の教会から15分ほどで大型スーパーマーケットに到着した。食料品などを買い込むらしい。さすが軽井沢のスーパーだけあって、成城石井のような品揃えだし、長野の特産品もたくさんある。美那が見たら喜びそうだな。
3食×2日×3人分はありそうな食材を購入した。スーパーの駐車場を出て、鉄道の高架下を抜け、さらに踏切を越えて、すぐに右折すると、蒼山さんと待ち合わせしていた中軽井沢駅前に出た。
「じゃあ、車を出したら、後に続いていくから」
蒼山さんが車を降りていく。
「たぶんちょっと時間がかかると思うわよ」と、有里子さんが言う。
「なんでですか?」
「わりとレトロな車に乗ってるから」
「へぇー」
「あ、それからさ、今日と、たぶん明日も、別荘で自炊するつもりなの。加奈江さんに聞いたんだけど、リユくんって家事をするんだって? 昨日も美那ちゃんとふたりでシチューを作ってくれた、って言ってた」
「ええ、まあ」
有里子さんまでかーちゃんを名前呼びか。でもまあ、俺の母親としてではなく、ひとりの人格として扱いたくなる個性があるもんな。
「提案なんだけど、別荘に泊まる日に家事を分担してくれたら、そのぶん別にバイト代を払おうと思うんだけど。加奈江さんにはすでに話はしてある」
「家事ってどのくらいのことですか?」
別のバイト代って、ちょっと助かるかも。
「わたしは料理があんまり得意じゃないから、料理と片付けとあとはお風呂掃除とか? 料理は簡単なものでいい。すぐに食べられる食材も買ったし」
「そんなものでいいんですか」
「もっとやってくれたら助かるけど、今日体験した通り、仕事はそんなに楽じゃないでしょ? しかも今回は天気に左右されやすいから、バタバタと動きまわらなきゃいけないことも多そうだし」
「確かに思ってたよりもキツそうですね……でもそのくらいなら大丈夫ですよ。昨日も午前中に美那とバスケで1対1の対戦を倒れそうになるまでやって、そのあと、簡単な昼飯を3人分作って、夜もシチューを作りましたから」
「すごいなー、やっぱ高校生は若い!」
有里子さんは笑いながらそう言って、俺を見る。
「1日3000円くらいでどう? もしそれ以上にやってもらうことになったら、その分は別に考えるし」
「もちろんやります。バスケでもいろいろとお金がかかって、美那に返さなきゃいけない分もあるし」
「助かる。軽井沢は外で食べると高いし、時間もかかるし、リラックスできないし。じゃあ、お願いします」
駐車場から車が出てきた。うわー、古いミニじゃん。渋《シブ!》。それに小せー。
最初に撮影した辺りを過ぎて、ガソリンスタンドのところで左折する。軽井沢別荘地とかいう看板が立っていた。林の中をしばらく行くと、左右に別荘や山荘が見え始め、徐々に別荘地っぽくなってくる。曲がりくねった道を進み、細い道を右に入る。
「この辺り、何度来ても覚えられないのよねー。ナビがなきゃ無理」と、有里子さんがつぶやく。
しばらく行って、さらに左に入る。そこから2、3軒目の別荘の敷地に有里子さんはCX―5を入れた。蒼山さんのミニも続く。
「さあ、着いたわ。管理人さんが使えるようにしてくれているはずだから、ちょっと休んでご飯を作りましょ」
「了解です!」
思いの外、大きな別荘。俺ん家よりでかい……。
「おつかれ」と、蒼山さんがミニから降りてくる。
3回往復して、機材や食料品、手荷物などの荷物を別荘に運び込む。
中は普通の住宅と違って、余計なものがない。その分、余計広く感じる。がっちりとした薪ストーブもある。
俺には2階のゲストルームが割り当てられた。
部屋はこざっぱりしている。クッションが二重のシングルベッドには、掛け心地のよさそうな夏用の羽毛布団が掛かっている。簡素だけど高そうな木製のデスクと椅子、デスクライトもある。小さな本棚には日本と世界の文学の単行本のほか、推理小説の文庫本なども収められている。やっぱり、有里子さんの実家は金持ちなんだなぁ。
部屋を見回してから1階に降りていくと、食卓テーブルの上に購入した食材が並べてあった。
「今日は遅くなったから、パンとハムとチーズを食べようと思うんだけど、それ以外に何か作れそう?」
鶏肉と玉ねぎに人参とジャガイモ、キャベツ、そしてバターか。高原レタスにドレッシング。
「簡単なスープとサラダならわりとすぐ、まあ1時間はかからないでできると思います」
「じゃあ、お願い。蒼山さん、その間に打ち合わせしちゃいましょ」
「なんか霧が出てきちゃったな」
「泊まってけば? そしたら飲めるし」
「そうだな。そうすっか。じゃ、奥さんに連絡する」
どうやら蒼山さんも泊まることになったらしい。ちょっと待て。もし蒼山さんが泊まらなければ、有里子さんとふたり切りだったのか……。勝手にホテルで別々の部屋だと想像してたからな。まあでもそんな雰囲気にはなりそうもない。
初めて使うキッチンで要領がつかめなかったから、普段よりも手間取ったけど、40分くらいで最終段階にたどり着いた。あとは味を整えて、10分ほど煮込めばいい。
「あと10分くらいでできます」と、リビングのソファで仕事をしていたふたりに声をかけた。週間天気予報とにらめっこしながら、どこをどういう順序で取材して、どこにいかないかを協議している。
ふたりはすぐに作業を切り上げて、食卓の支度をしてくれる。
有里子さんは皿を出したり、スプーンはどこにあるのかといった俺たちからの質問に答えたり。
さすがに喫茶店を経営している蒼山さんの手際はよく、バゲットを切り分け、俺の作ったサラダを皿に分け、ハムやチーズを適当に配分する。
大人2人はワインで、俺はりんごジュースだ。スープを注ぎ分けたら完成。
スープを一口すすった有里子さんが、「おいしー、やっぱリユくんに頼んで良かった!」と言ってくれて、ほっとする。
蒼山さんも「うん、うまい」と、言ってくれた。
まあ味見をして、それなりに自信はあったけど。
「今朝、リユくんの淹れてくれたコーヒーを飲んで、加奈江さん――あ、リユくんのお母様ね――から料理とかの話を聞いて、お願いしようかなぁーって密かに思ってたの。現場の仕事もソツなくこなしてくれたし、頼んでも余裕ありそうだなって」
「コーヒーを淹れるのもうまいんだ?」と、蒼山さん。
「うん」と、有里子さんが答える。「コーヒーハウス・アレックスのマスターを前にして言うのもなんだけど」
「あの、ちょっと聞いてもいいですか? なんでカフェのマスターがガイドとして有里子さんと一緒に仕事をしているんですか?」
有里子さんと蒼山さんが顔を見合わせて、笑みを浮かべる。
蒼山さんが笑顔のまま口を開く。
「僕がやってるアレックスって店は、中山道の碓氷峠の途中にあるんだ。リユくんがこの辺のことをどのくらい知っているかわからないけど、新しくて走りやすい碓氷バイパスが群馬側と軽井沢を結んでいて、普通はみんなそっちを通る。うちの店に来るのは、地元の人か、明治時代の煉瓦造りの鉄道橋とかを見にくる人か、ハイキングか、ユリちゃんみたいな物好き」
「物好きっていうか、バイクとか車好きはあっちを通りたいでしょ?」
俺はスマホのマップで碓氷峠を調べた。同じ国道18号でも北側にある《《くねくね》》した方か。やっぱZ250で走るなら、こっちがおもしろそうだな。
「正直、経営は厳しい。でもそれは店を出す時からわかっていたこと。ただ不思議なことに生きていける程度にはお客さんは来てくれる。でも開店当初なんかは、工場の夜勤をしてたりしたからなぁ。で、払いのいいユリちゃんから声がかかると店をほっぽり出して、お手伝いさせてもらうわけ」
「へぇ、そうなんですか」
有里子さんは面白い人という言い方をしてたけど、たしかにちょっと変わった人みたいだな。
「でもなかなかいい場所だもんね」
「それが取り柄だから」
「わたしが車で通りかかって店に入ったら、お店に誰もいなくて、すみませんって声をあげたら、カウンターの中で寝ていた蒼山さんが起き上がってきて、びっくり」
「いろいろ話すうちに、学生時代にやっていたガイドのバイトで県内の観光とか道に詳しいことが、ユリちゃんの仕事に役立つことがわかって、いつの間にか手伝わされることになってた。こっちも助かってるけど」
「もう夏休みに入ってるけど、早紀さん、お店の方は大丈夫だったのかな?」
「今日のお客さんは20人だって。あいつはチェーン店のカフェでバイトしてたから、そのくらい楽勝。まあ、あんまり放っぽり出しているとあとが大変だけど」
早紀さんというのは蒼山さんの奥さんのことらしい。
「あのミニって相当古いやつなんですか? 70年代とか?」
「そこまで古くないよ。97年式。21世紀生まれのリユくんにはそんな風に見えるんだな。デザインは昔からあんまりかわってないからね。今のミニは僕には全くの別物に感じられる」
「お店の名前のアレックスって、なんかミニと関係してるんですか? どっかで見たことのある名前だと思って」
「お、うれしいね、そこに気づいてくれるとは。ミニの設計者のアレック・イシゴニスと、サスペンションの設計者のアレックス・モールトンから頂きました。アレックとアレックス。まとめてアレックス。スペルはAlecs」
蒼山さんはジャケットから名刺入れを出して、店の名刺を俺にくれた。
「リユくんくらいの歳に好きになって、大学に入って金貯めて、中古で買ったんだ」
「蒼山さん、その話は長いからやめとかない?」
有里子さんが笑顔で言う。
「ユリちゃんには車の中でずいぶん聞かせちゃったからな……。じゃあまた機会があったらね」と、蒼山さんが俺に笑いかける。
食後のコーヒーも俺の担当。
食後はすこしのんびりして、ソファでくつろいだ。その間も有里子さんはカメラやレンズの手入れに余念が無い。
「リユくん、コーヒー淹れるのうまいな。うちでバイトしない? って、バイトいるほど客は来ないんだけど……ユリちゃん、ちゃんとつっこんでよ」
蒼山さんの下手なギャグを有里子さんは笑顔で受け流す。
「有里子さん、今日、機材を見てて思ったんですけど、17ミリとかかなり短いレンズを使うんですね。かーちゃんが持ってるので一番短いのが24ミリだから、やっぱりプロは違うんだなぁーって」
「リユくん」
有里子さんがなにやらニコニコしている。
「はい?」
「カメラには詳しくないとか言ってたけど、そういうこともわかるか」
「ええ、まあ、その程度は。かーちゃんにときどきレンズの交換とかさせれるから」
「必要な時はレンズ交換もお願いできないかな? 今回は晴れるチャンスが少なそうだから、その時々の光を無駄にしたくないのよ。今から教えるから」
「まあいいですけど」
と、軽く引き受けてしまったけど、同じ長さのレンズでもF値の違うものがあったり、フィルターの違うのがあったりで、意外と複雑。明日も午前中は天気がぱっとしないようなので、その時に実戦で覚えていくことになった。
「さて、明日もあるし、順番にお風呂に入って寝ましょう。さっき見たら管理会社の人がちゃんと掃除してくれてたから、今日はお風呂掃除はいいわ」
そうだ、ハンドリングの練習をしていいか聞いておかないと。ホテルの部屋だったらこっそりやるつもりだったけど、なんかの拍子に窓ガラスを割ってしまうなんてこともありるうからな。
「有里子さん、ちょっとお願いというか……」
「なに?」
「実は朝とか夜とか空いた時間に練習をしようと思ってバスケットボールを持ってきているですけど、部屋でハンドリングの練習をしてもいいですか? もちろん物を壊したりとかはしないよう気をつけます」
「ボールを持ってきていたのは気づいていたけど、ハンドリングってどんなことをするの?」
「ボールを扱う練習で、左右で持ち替えたり、それを背中の方でやったり、ボールを手の上で回したりとか、です。部屋の中でするときはゆっくりしますから。楽器の人が1日休むと戻るのに3日かかるとかいいますよね。それほどではないと思いますけど、でもそれに近いものはあります。それともう癖になってて、やっていないと落ち着かないというか……」
「そうね、たいして壊れるものはないと思うけど、気をつけてやってくれればいいわ。それにしても、夏休みは美那ちゃんにしごかれるっ! って嘆いてたクセに、もはやバスケにのめりこんじゃってるじゃない」
「まあそうですね……」
「ミナちゃんって誰? リユくんの彼女?」と、蒼山さん。
「限りなく彼女に近い、幼馴染の親友の女の子、よね?」
「その、彼女に近い、という部分は違いますから」
「ごめん、ごめん。揶揄するのはよくないわね。でも今日1日だけでも何度も美那ちゃんの名前を聞いているから。もしわたしがリユくんのことを好きな女の子だったとしたら、絶対に嫉妬するわよ。ほんと仲がいいよね。男の子と女の子でそんなふうに仲良くできるなんてうらやましいな」
「僕たちだって、そんな感じじゃない?」
「そうよね。でも蒼山さんはちょっと特別だし、早紀さんもいるし」
「ま、そうだけど。どんな子なの? 写真見せてよ」
俺は渋々、かーちゃんがZ250と撮ってくれたスマホにある写真を見せた。
「うわー、すっげえ可愛い子じゃん! 親友にとどめておくのはもったいない」
「いや、俺は男として見られてませんから。本人も直接、俺にそう言ってたし」
「リユくん、自分で撮ったGRの方を見せてあげたら?」
「えー、もういいですよね?」
なんか大人ふたりにからかわれているような気がする。
「いや、僕は、それも見たい」
「ま、いいですけど」
俺はGRのモニターに美那の笑った写真を出した。
「ほう」と、GRを受け取った蒼山さんが一言。
有里子さんと蒼山さんが目を合わせる。
「なんですか?」と、俺。
「いや、リユくん……」
と、言いかけて、蒼山さんはちょっと間を置く。
「リユくん、君、この子を一生大事にした方がいいよ」
「異性なんで、いつまで親友でいられるかはわかりませんけど、少なくとも今の関係はできるかぎり大事にしていきたいとは思ってます」
「たぶん、近いうち、僕の言ったことの意味がわかると思うよ」
「そんな思わせぶりな言い方、やめてくださいよ」
俺はちょっとイラついた。なにしろ、昨日、意味不明のキスをされて、悶々としたばかりだ。
でも蒼山さんは、言い回しとは違って、なんかすっきりした顔で俺にGRを返す。美那が気に入った笑顔の写真。そうだ、まだ美那に渡してなかった。
「じゃあ、こういう言い方ならどうかな? 君は今、ものすごく急激に成長していて、世界がだんだんこれまでと違って見えてくる。今はまだ君の精神がそれに追いついていない」
「たしかにこのところ、これまでできなかったことができるようになったり、思いもかけないことが起きたり、そういうことはありますけど。有里子さんのバイクのこともそうです」
美那にはどういう種類のかはわからないけどキスされたし、香田さんからオトモダチ交換をされたし、バイクも急にうまくなったし、バスケにも熱中してる。前期テストも16位と信じがたい順位だったし、ついこの間まで知らなかったカイリー・アービングを崇めているし。おまけに今やカイリーユだし。
「蒼山さん、俺のこと、有里子さんからどのくらい聞いてるんですか?」
「そうだな、ユリちゃんが大事にしてたバイクを譲った高校2年生の男子で、自分のことを理解してくれそうな人間、ってとこかな」
「それだけで、俺と美那の関係がわかっちゃうんですか? それと有里子さんを理解できる人間っていうのも意味がちょっと……」
蒼山さんが有里子さんを見て、「言っちゃっていいの?」と、小声で聞く。
有里子さんは小さくうなずく。
「実は、彼女は、女の人しか愛せない女性なんだ」
ん? それはつまり、レズってことか?
「そうなの。レズビアンなの。たぶんリユくんなら理解して受け入れてくれると感じたから、今回の仕事もお願いしたし、打ち明けてもいいと思ったの。だからこのことは、できれば誰にも話さないでほしい」
「わかりました。誰にも言いません。俺が知らないだけかもしれないけど、自分の周りにそういう人はいないし、ちょっと驚きましたけど、でもまあ、そういう人なんだ、という感想です」
いや、結構驚いたけど。でも別に有里子さんは有里子さんだ。これまで俺が見てきた有里子さんはそういうこと含んだ有里子さんで、有里子さんであることに変わりはない。
でもこれで、俺が襲われるのではないかという美那の心配も、未経験の俺のほのかな期待もなくなったわけだ。それはそれで気持ちを楽にして過ごせる。
「たぶんそのくらい淡白に受け止めてくれると思ってた。そのことに気づくきっかけを与えてくれたのが、蒼山さんなの」
「え、じゃあ、俺は実はゲイとか? かーちゃんが俺はゲイに狙われやすいから気をつけなさいって言ってたし……」
「断言はできないけど、君はストレートだと思うな。たぶん彼女も」
と、蒼山さんが言うと、有里子さんもそれに同意する。
「彼が何が言っているかというと」と言って、有里子さんは少し考える。「蒼山さん、《《なにかが》》見えちゃうらしいのよ」
「それって、オーラとか背後霊とか、そういうやつですか?」
「オーラとかがどういうものか僕にはわからない。僕のは……自分でも分析しきれないところがあって、クリアに説明できないんだけど、笑顔の瞳の奥にその人の悩みとか本当の部分が、とーっても漠然と見えちゃうと言うか、だからそれには解釈が必要になるんだけどね。夢判断とかそんなのに近いのかなぁ」
「またずいぶん曖昧なものなんですね……」
「そうなんだよ、困ったことに」
「だけど、わたしが蒼山さんに出会ったのは、ちょうど恋愛問題で悩んでいた時で、お客さんがぜんぜん来ないアレックスで、それとはまったく関係のない話をたっぷりして、たぶんその時に自然な笑顔が出たんだと思う。次に仕事で会った時に、その時の悩みを言い当てられたりとか、なぜ上手くいかないかを説明してもらったりして、ぜんぶ腑に落ちちゃったっていうか。そんな感じ」
「それですぐ自分が同性愛だってことを受け入れられたんですか?」
「蒼山さんから、君は女の人しか愛せない人だから上手くいかないんだよ、って言われて、あーそんなんだ。そうかもしれない。ってそのくらいかな」
「じゃあ、なんとなくは納得したんだ……」
「そういうことになるわね。で、実際にそうだったし。だからといって、すぐに恋人ができたわけじゃないけど」
「じゃあ、美那の瞳の奥には何が見えたんですか?」
「それは君には言えない。彼女の中だから。でも君の存在がそこにあることは間違いない」
「そりゃ、今でも普通の親友とか恋人以上に近いところにはいるから、当然、俺は存在とは思うけど」
「ま、そうだな」
「それって全然、答えになってないじゃないですか……」
あまりにもあっさり蒼山さんが認めるので、なんか力が抜けて、笑いが漏れてしまった。
「というわけで、リユくん、あんまり気にしないでくれ」
「そりゃないですよ。さんざん気を持たせといて」
「でも、君は今、人生の重要な局面に差し掛かっているんだと思うよ。自分に素直になれば悪い方向には行かないと思うから、安心していい」
「それ、かなり予言めいてますから!」
「それもまた話半分に取っておいてくれ」
「うー」
もう唸るしかない。
でも怒る気はしない。
というのも、蒼山さんからは、優しい、温かい感情が伝わってきたから。
「お詫びに、バスケの練習に付き合ってやるよ」
「蒼山さん、バスケやるんだっけ?」と、有里子さんが驚いている。
「実は中学のとき、へたれバスケ部員。おまけに久しぶりだし、どのくらい練習相手になれるかはわからないけどな」
そんな風に大人ふたりに翻弄されて、初日は終わった。
有里子さん、蒼山さん、俺の順で風呂に入った。俺は風呂を待っている間、スマホにインストールしておいたGR用のアプリで、カメラからスマホに画像データをダウンロードした。朝早くの移動もありうるということで、荷物はまとめておくようにいわれているから、着替えだけ用意して、あとは全部バッグに入れておく。
ちょっとだけハンドリング練習をしてから、ダウンロードした写真を添付して、美那にメッセージを送った。
<――軽井沢も天気イマイチ。蒼山聖人さんというちょっと変わったガイドさんと合流した。有里子さんはかなり人遣いが荒い。でも仕事自体は楽しそうだ。蒼山さんにこの写真を見せたら「すげー、可愛い子!」って叫んでた。
――>楽しそうでよかったじゃん。写真、ありがと。バスケの練習忘れんなよ、カイリーユ。じゃ、おやすみ❤️
バカやろ、昨日のことがあんのに、冗談でハートマークとか付けてくんじゃねーよ! と、俺は心の中で叫ぶ。
あ、いかん。かーちゃんにも連絡入れとかねーと。




