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1-29 終業式と香田真由

「あいつ、なんて、名前?」と、美那が大丈夫そうなのを確認して、俺は聞く。

 今日は俺もなんとかフラペチーノだ。いろんな意味で頭を冷やしたほうがいいしな。

「マエダ、シュン。俊敏の俊。もひとりは、ホッタ、タスク。にんべんに右」

「あいつら同じチームなの?」

「うん。全部で10人くらいいるんじゃないかな。女の子も含めて。女子はほとんどグルーピーみたいなものだけど」

前田(まえだ)(しゅん)の方はクソ野郎だけど、堀田(ほった)(たすく)はいい感じで、すごいギャップ」

「うん。先に知り合ったのはタスクさん……あのふたりも小学校からの付き合いと長いらしい。小学校から大学までの一貫校」

「ふーん。確かに女子から見たら前田の方がかっこよく見えるんだろうなぁ。いかにもモテそうだもんな。いわゆるチャラいイケメン。タスクさんは渋い男前」

「さすが、小説家! 的確な表現」

「お前、あれ、読んだの?」

「ノーコメント」

「ま、いいけど」

 明らかに読んだだろ。どう思ったのかな? いまさら聞けないし、感想を聞くのはさすがに気恥ずかしいし。

「前田俊たちが大会に出るのを教えてくれたのはタスクさん。なんというか、ツルんではいるけど、いろいろと因縁もあるらしい。だからといって裏切ってるというより、わたしを見兼ねて味方をしてくれてるみたい」

「へー」

「バスケの公式戦で知り合った他校の子ふたりと、ストリートバスケをやってみたくない? って話になって、何人かで代々木とかに観に行ってさ、ちょうどひとりでやってたタスクさんが一緒にやる? って声かけてくれて」

「ほんとお前って行動力あるし、新しいこと好きな」

「それで、3人が1on1でタスクさんに挑戦。タスクさんがバスケを本格的に始めたのは大学に入ってからだから、アイツほどバスケはうまくない。この間の6番ラグビーの高田さんと一緒で高校はラグビー。そして中学はサッカーで、小学校はドッヂボールだったかな。割とスポーツに関しては節操がない」

「別にスポ根マンガじゃないんだから、いろいろ経験したっていいじゃん」

「そりゃそうだ。だからタスクさんは動きが素早くて、当たりも強い。プレーも個性的。そう言う意味じゃ、ストリートバスケ向き。割とリユに近いタイプだな」

「あの野郎は中学からバスケだったよな。お前、あいつの身長、ずいぶん低めに言ってたよな。オツさんと変わらないじゃん」

「だってあの時、あんまりハードル上げたら、リユが話に乗って来なさそうだったから。ごめん。嘘、ついてました」

「なんか、言う時、ちょっと間があって、おかしいなとは思ったんだけどな。ま、いいけど、別に」

「アイツ、前田俊は技術でプレーするタイプ。ハンドリングとかむちゃくちゃウマイ。女を手玉に取るのもむちゃくちゃうまいけど……。もともとは大学のフリースタイルバスケのサークルに入っていたけど、先輩と()めて独立したらしい。どうせ女がらみだろうけど」

「フリースタイルバスケってなに?」

「バスケのハンドリングとドリブルをダンスパフォーマンスと融合させたようなもの。さっきの試合でも、余興みたいな感じで、服にボールを入れたり、無意味にトリッキーな動きとかしてたでしょ? あんな感じの」

「どこの大学?」

福永(ふくなが)学院。初等部からのバリバリの福永っ子」

「ほー、お金持ちのご子弟がお通いになる学校でございますねー」

「なに、その言い方? ドラマ『重版出来(じゅうはんしゅったい)』の嫌な編集者みたい」

「お、よくわかったな。安田(やすだ)(けん)演じる安井さん」

「あのドラマ、加奈江さんが好きだって言ってた」

「俺も割と好きで、一緒に見てた」

「いーなー、リユのところは仲良くて」

「ってか、おまえと俺のかーちゃんのほうが仲良いだろ」

「いーなー、うらやましいなぁー。リユと加奈江さんの仲がいいから、わたしも仲良くできるの。うちの母親とは、リユは仲良くできる?」

「うーん。というか、俺、あんまり好かれてないだろ、園子そのこさんに」

「どうなんだろ。うちの母親の場合、好きとか嫌いとかじゃなくて、スペック?」

「家柄がいいとか、金持ちとか、いい学校に通ってるとか?」

「うん」

「まあ、そういう感じはしてたけど……」

「この間、自分の成績を報告するついでに、森本君は学年16位だったよ、って言ったら、急にリユの評価が変わってた。娘ながら、ほんと驚くわ」

「こういっちゃなんだけど、かーちゃんもよく園子さんと親しくできるよな」

「加奈江さんは有名女子大を出ているから、OKみたい」

「うぇー。おまえ、中学で実山学院に入る時、反対されてたもんな。ほんとはどっか別の女子校がよかったんだろ、園子さん」

「うん」

「だけどなんでお前、実山に入ったんだっけ? もう少し遠くてよければ、もうちっといい学校行けたよな?」

「まあね。でも遠いのやだし。痴漢とか会うし。実山だって悪くないし、大学も進みやすいし」

「まあな。え、お前、痴漢にあったことあるの?」

「あるよー、小学6年の時。わたし、けっこう背があったからかなぁ。もうびっくりした。お尻をさわられただけだけど。気持ち悪かったー」

 店員さんがやってきて、俺たちの横で立ち止まった。

 周りを見回すと、ほかに客がいない。

「もうしわけございません。間もなく閉店なんですが……」

「え、何時? すみません。すぐ出ます」と、美那。

「10時半までです。あと5分ございますので、それまでどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 店員さんは、()()()()()?を含んだ微笑を浮かべたままカウンターの方に消えていった。

「やっばー、ぜんぜん気がつかなかったね」

「ああ」

 美那の家に着いた時には、もう11時半を過ぎていた。

「今日は、ありがと」

「え、なにが?」

「ま、いろいろと」

 まー、確かにいろいろあった気がする。

「うん。じゃあな。おやすみ」

「うん。おやすみ」

 美那はホッと微笑むと、背を向けて、(きし)む鉄の門扉を開けた。決して軽い足取りではなかったけど、でもしっかりとした(あゆみ)で玄関に向かった。

 玄関の扉を開ける前に、振り返る。手を振る。俺も大きく手を振り返した。


 7月18日木曜日。今日で授業は終わりだー!

 朝、サスケコートで美那と軽く汗を流す。美那はなんかスッキリした顔。よかった。

 帰り際に杉浦さんに明日が終業式で明後日から夏休みと伝えた。夏休み中は練習はどうするのか、と聞かれた。その場で美那と相談して、朝と夕方の2回使わせてもらうことにした。それから7月22日から29日までの1週間ほどアルバイトで来られないことも言っておいた。

 美那は午後から部活。しかも、雨は降っていない。夕方近くまでは雨も降らなそう。

 ということは、Z250!

 速攻で昼飯を済ませ、かーちゃんに4時ごろ戻ると告げて家を出ようとしたら、玄関にかーちゃんがやってきた。

「今日の午前中、3軒先の山崎さんが訪ねてきて、音のことで苦情を言われたのよ」

 山崎さんは近所でも口うるさいと評判で、騒音とか猫や犬の飼い方とかゴミの捨て方とか、何かと文句の絶えない人だ。

「あの、じいさんか……」

「うん。ときどき朝からボールの音がうるさいし、バイクの音も最近聞こえてくるし、気をつけろだってさ。オタクのお子さん大丈夫なのか? って余計な心配までして行った」

「ごめんな。そういや、この間の朝、ドリブルの練習してたら、怪訝な顔で通り過ぎて行ったわ。気をつける」

「ほとんど言いがかりに近いけど、まあ少しだけ気をつけて」

 暖機運転もそこそこに、山崎さんと反対方向に家を出た。めんどくさいけどしょうがない。ドリブル練習も気をつけないとな。サスケコートがあって助かったわ。

 美那の家を通り過ぎて、駅前を抜けて、国道16号に出る。北上して右折、海の方に向かった。特に行くあてはない。そこから首都高が上を走る国道357号に出た。南下すると、大型バイク用品店があったので、立ち寄る。そういや雨具がライディングスクールでぼろぼろになってたな。やっぱ透湿素材がいいよな。でも高いな。とにかくスクールはあの雨具で乗り切ろう。もう雨、降るなよな。

 何も買わずに店を出て、さらに国道を南下して、道なりに金沢八景に出て、そこから国道16号を北上して、家に戻った。

 合計1時間半ほどの旅路だ。道も全然わかんないし。俺にとってはこの程度でも旅なのだ。途中、時々陽が射したし、いや、満足、満足。

 もどってほどなく雨がちらついてきた。ラッキーだ。

 夜、美那に、「午後、1時間半ほどバイクに乗ったぜ。楽しかったー!」とメッセージを入れておいた。

 ――>よかったね。気をつけてね。明日の朝練は天気次第。

 と返信があった。

 なんか美那、だいぶ柔らかくなってきたな。

 野球部は4回戦を完封で突破。今年はまあまあ強いらしい。


 7月19日金曜日。

 前期終業式だ。

 でも朝からまた雨。朝練は中止。部屋でハンドリングの練習+カイリー動画。

 前期中間テストが悪かったから、期末試験結果の割に通知表の方はぱっとしなかったけど、それでも今までよりも全然いい。全体的に上がっている。10段階評価で主要科目は全部7以上で、理系科目以外は8以上。奇跡的だ。

 例によって美那は仲良しグループと帰って行った。またスイーツでも食べに行くんだろう。しかしよく学校とZ―Fourの関係を器用に使い分けられるな。最近あれだけ俺と(ツル)んでるのに、誰も気づいてないじゃん。ちょっと寂しくもある。

 とりあえず雨は止んだもののぱっとしない空模様を眺めながら、なんか怒涛(どとう)の前期の後半だったなぁと感慨に(ふけ)っていたら、いつの間にか教室にひとり取り残されていた。そしたら、担任の谷先生が点検か何かで教室に入ってきた。

「お、森本、まだいたのか」

「なんかボーとしてたら、みんないなくなってました」

「試験があんな良かったのに、相変わらずだなお前は」と、言いながら、前の席の椅子を引っ張り出して、俺に向き合って座った。

「バイク利用の申請を出してきたときは成績が心配になったが、蓋を開けてみればあの成績。学年16位か。ほんとお前は教師泣かせのつかみどころがないやつだな」

 でも谷先生の声はうれしそうだ。

「いや、自分でもよくわかりません。気分屋なんですかね?」

「どうなのかな。でもよくやった。この調子でがんばれよ!」

 先生は立ち上がると、俺の肩をぽんぽんと叩いて、教室を出て行った。

 夏休み用に荷物をまとめて、静かになった廊下を歩き、ひとりトボトボ下駄箱に行ったら、そこにはなんと香田さんが! しかもなぜか俺の下駄箱の列の向こう側に。

 俺が近づくと、俺をチラ見している……。

 靴を履き替え終えると、香田さんが近づいてくる。

「森本くん、ちょっといい?」

「え、俺?」

 図書室以外で話すのは初めてのような気がする。

「もう帰り?」

「ああ、うん」

「よかったら駅まで一緒に帰らない?」

 一緒に帰らない? なんか今日の香田さんはいつもとちょっと違うぞ。話し方も親しげのような……。

「え、ああ、いいけど……」

 戸惑いは隠しきれない。

「最近、あんまり図書室で会わないね。行ってないの?」

「このところ、ちょっと忙しくて」

「そうなんだ。すごかったね、この間の試験」

「あれ? まぐれでしょ。たまたまいつもよりちょっと前から勉強を始めたから」

「へえ、すごいね。それだけで急に順位上がって」

 それって以前の俺の順位を知ってるってこと? そういや美那も、香田さんが俺をチェックしてるみたいなこと言ってたけど、ホントだったのか?

「香田さんはいつも上位だもんな」

「今回は23位。森本くんは美那ちゃんの次だったもんね」

 そうだったのか。まさか香田さんより上だったとは。それに香田さんの順位も近かったのに見落としていたとは!

「ああ、まあ。香田さんって山下美那と親しいの?」

「親しいってほどじゃないけど、他のクラスの人としては割とよく話す方かな」

「へえ、そうなんだ」

 おい、美那のやつ、そんなこと言ってねえよな。いや、言ってたか?

 しばらく沈黙が続く。なんか話題はないのか、俺。

「美那ちゃんとは幼馴染なんでしょ?」

「うん。幼馴染といえば幼馴染だけど、まあそれだけ?」

 ついこの間まではそう言っても()(つか)えなかったけど、なんか近頃は親友みたいになってきた。

「ふぅーん」

 やべーな。ふぅーん、って言っただけでマジ可愛い。

 そしてまた、しばらく沈黙が続く。何を話していいかわからん。天気の話とかもなぁ……まだ梅雨が開けないね……とか?

「明日から夏休みだね」

「ようやっとだよなぁ」

 早く梅雨明けしてもらって、バスケにバイクにバイトだ。お、3B! いやバイトはアルバイトだから、Bじゃない。ダメだ、頭の中が挙動不審だ。

「夏休みは何かするの?」

 やることは山のようにあるけど、香田さんに話せることはほとんどないな……。

「まあ、バイトとかかな」

「アルバイトするんだ。なんのバイト?」

「あー、知り合いの人のお手伝い? ちょっと肉体労働系だけど」

 まあ、嘘ではあるまい。

「すごいね。わたし、アルバイトなんてしたことないから」

「別にたいしたことないよ」

 こんな受け答えでいいのだろうか? 香田さんが楽しくしているようにはとても見えない。

「何か目標はあるの?」

「あ、バイトして?」

「うん」

「そうだな、旅行でも行きたいなー、とか?」

「へぇー。ひとりで行くんだ?」

「うん。気ままにね」

「いいなぁー。わたしもそんなことができたらいいのに」

「そっか、女子だと難しかったりするよね」

「そういうのもあるけど、わたしの性格かな。美那ちゃんだったらひとりでも行きそう」

「ああ、あいつはそういうタイプだよね」

 もう駅に着いてしまった。感覚的には、話した時間3割、沈黙7割の道程(みちのり)だった。ああ。

 駅の階段を上って、改札口の少し手前で、香田さんが通路の端の方に寄っていく。

「あの、よかったら、連絡先を交換しませんか? 夏休みは会えなくなっちゃうし」

 え? なにかの間違い? ちょっと意味がわかんないんですけど。

「ダメですか?」

「いやいやぜんぜんOK、大歓迎。驚いちゃってさ。女子からそんなこと言われたことないから。あ、べつに友達としてって意味だと思うんだけど」

「よかった。じゃあ」

 香田さんはスマホでメッセージアプリのQRコードを俺に向けた。俺はアセアセしながら、それを読み取る。俺も同じようにする。

 しかし、香田さんとオトモダチとはすごいことなんじゃないか?

「このこと、他の人には秘密にしておいてくれる?」

「ああ、もちろん」

 香田さんと秘密を共有か。秘密の共有は恋に発展しやすいって聞いたことがある。

「じゃあ、連絡するね」

 香田さんが俺に笑顔を向ける。やばい、トロけそう。

「ああ、ああ」

 としか、口から出てこない。

 香田さんが小さく手を振って、改札に消えていく。俺は小さく手を挙げるのが精一杯だった。

 うわー、小さくなっていく姿も可愛い。どーしよ。


【いよいよ夏休み。次回から第2章開始です!】


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